ゴブリンくん、愛をつづる
ゴブリンくんのラブレター作成ため、まず始めに訪れたのは玉座の間の魔王アラン様。
ゴブリンくんは、「ギ、ギィ!?(ま、魔王様!?)」と驚いていたが、
「魔王様はけっこう優しい人だよ。それに、とっても人の気持ちを考えてくれる人だからきっといい文面を考えてくれるよ」と言うと、納得したようだった。
玉座の間で私が理由を話し、ゴブリンくんがおそれながらも自分の思いを話すと、アラン様は快く文面を考えてくれた。
「……ふむ。愛とは魂の契約だ。『永久なる我が支配と共に、お前の微笑みを封印せん』……この一文を入れるといいだろう」
「ギ……ギィ……(難しいギィ……)」
次の訪れたのは、裁縫室のエメリオ。
理由を話すと、ぱぁっと顔を明るくして答えてくれた。
「あらまあ、素敵!恋するお年頃ね!やっぱりここは、見た目を褒めることも大切だから……『あなたの毛並みは朝日色。光るつむじは運命の渦』って書くとロマンチックじゃないかしら~?」
ゴブリンくんは、こっそり頭を押さえて悩んでいた。
次に通りがかった場所は、死体安置所のグレイブ。
相談に乗ってくれるだろうかと、私が話しかける前に思案していると、ゴブリンくんがトコトコと近づき、何やら依頼したようだ。
しばらくして、グレイブが名刺大の大きさのメモをゴブリンくんに手渡した。
そこには、「“墓場まで愛す”これ、流行ってる」と書かれていた。
ゴブリンくんはその紙を見つめて。
「ギィ……(ちょっとこわいギィ……)」
と呟いていた。
最後に、食堂へ行くと、ヴェリス先輩がいた。
ヴェリス先輩は私たちを見つけると近寄ってきて、無垢なゴブリンくんは私が止めるのも聞かずに、ヴェリス先輩にアドバイスを求めてしまった。
「愛とは……選ばれし闇の契約!『我が心の深淵を覗いたが最期、貴様はもはや逃れられぬ』と書け。そして署名は『漆黒の爪より』……くくく」
「ギィイイ!?(それはもうラブじゃないギィ!?)」
ゴブリンくんは混乱していた。それはそうだろう。
みんなの教えてくれたフレーズを組み合わせて出来上がったラブレターはーー
『お前の微笑みを封印せん。毛並みは朝日色。我が心の深淵より、墓場まで愛す』
署名:漆黒の爪より
「……………ギィ。(読ませられないギィ……)」
ゴブリンくんは泣きそうになって、グアニルの葉っぱを丸めた。
私も申し訳なかった。
「ごめんね、ゴブリンくん。やっぱり、ゴブリンくんの素直な気持ちを伝えたらいいんじゃないかな。きっと特別な言葉なんていらないよ」
「ギ……ギィ(うん、そうみたいだギィ)」
ゴブリンくんは改めて、変に飾ることなく自分の言葉で素直に文章をつづった。
そして、やっと心のこもったラブレターが完成したのだった。
―――
農場の朝は、今日もにぎやかだ。
「ギィ!ギィ!」
とゴブリンたちの声が飛び交い、鼻歌交じりでグアニルの実をなでる音、鳴き声、ぺっぺっと飛んでくる果汁。
全てが農場の日常だった。
でも今日はすこしだけ特別な日だ。
私のそばを通り過ぎたゴブリンくんーーあの初恋を胸に秘めた彼は、緑色の顔を真っ赤に染めて、手にはグアニルの葉に書いたラブレターを握っている。
そして、足取りは妙にぎこちない。
「あれって、いよいよ、ラブレターを渡すんですよね……!」
「うむ、そのようだな」
私とゴルム隊長は畑のウネの陰に隠れて、ハースニルの葉っぱの間からゴブリンくんを見守っていた。
彼の向かう先には、両手でクワを持ち上げる女の子ゴブリン。
口は大きく、眉はキリッとしていて、どう見ても気が強そうな女の子なのに、笑ったときだけ、目がぐにゃっと三日月になるところが可愛らしいのだ。
「キ、キィィ……ッ(こ、こんにちは……)」
緊張した声でゴブリンくんが呼びかける。
ラブレターを握るゴブリンくんの手は、ぶるぶると震えていた。
彼女が振り向く。
「ギュ?」
その瞬間、ゴブリンくんは意を決したように、手にしていたラブレターを差し出した。
結局どんな文面にしたのかはわからないが、あれはゴブリンくんの大切な思いがこもった最高のラブレターだ。
想いよ、届け!
ハースニルの葉を握りしめる私とゴルム隊長の手にも力がこもる。
女の子ゴブリンは、「?」という表情でラブレターを受け取り、
それから読みはじめた。
途中、驚いた顔をしたり、笑ったり、頭を傾げたり。
そしてーー
「……ギュギュ!(おもしろいっ)」
と、照れたように笑った。
私は思わずホッと息をついた。
けれど、それで終わりじゃなかった。
ゴブリンくんは、ごそごそと腰のあたりから包みを取り出し、そっと彼女に差し出した。
それは、“ピカピカに磨いた特大グアニルの種”だった。
しかも、表面にはゴブリンくんの小さな爪で彫ったハートマークが入っていた。
――特別なグアニルの種。
それを渡すことは、ゴブリンたちの間では「大好きな相手に、心を捧げる印」なのだと、ゴルム隊長が隣から教えてくれた。
女の子ゴブリンは、一瞬だけ目を見開いたあと、そっとそれを受け取る。
そして、にんまりと口を広げて、こくりと頷いた。
「ギイィィ……!(やったぁ!)」
と叫んだのはゴブリンくん。
周りのゴブリンたちも、「ギッ!」「キキッ!」と湧き上がり、祝福の波が起こった。
私も、思わず笑っていた。
よかった。本当に、よかった。
そのあと、グアニル畑のそばで、彼が女の子ゴブリンの前に立ち、グアニルの果汁から身を挺して彼女を守ったときは、もう何か、立派すぎて涙が出そうだった。
きっとこれからも、農場の片隅で小さな恋の物語が始まるこがあるだろう。
そしてまた、誰かの恋が実る日が来たら――
一緒に笑って祝福出来たらいいと思った。




