魔王様の言うことには
魔王城へ戻って最初に向かったのは、玉座の間だった。
私はユエル、サザと共に、アラン様に旅の全てを報告した。
ユエルが淡々と狂信者の一件をまとめて述べ、私は聖女エルティアナを救いだした件について、きちんと自分の口で説明した。
アラン様は静かに報告に耳を傾けたあと、やがて口を開いた。
「大変な旅であったな。なにはともあれ、無事に戻ったことを嬉しく思う」
その言葉に、胸の奥が温かくなるのを感じた。
「だが」
アラン様の視線が鋭く私に向けられる。
「魔族の敵である教会の聖女を見逃したとなると……魔王として、それを許すわけにはいかぬな」
やっぱり。
想定はしていたけど、実際に言われると……怖かった。
でも、あのときエルティアナを見捨てるなんて、私にはできなかった。
どんな罰を言い渡されたとしても、甘んじて受け入れるつもりだった。
しばし沈黙が流れたあと、アラン様は私を指差し、はっきりと告げた。
「ゆえに、ノアよ。我からの裁きとして、地下農場での労働を命ずる!」
「はいっ!」
ぴしっと立ち上がって勢いよく返事をした後、あれ……?と思った。
……地下農場での労働?
拍子抜けしたような気持ちでアラン様を見つめると、アラン様は玉座の椅子に肩肘をつき、フッとほほ笑んだ。
「不満か?」
「い、いえ……でも、そんなことでいいんですか?」
「“そんなこと”ではない。地下農場での仕事は、存外大変だ。近頃規模を拡大して、なにかとトラブルも増えているからな」
唖然としたままの私に、「納得できないか?」とアラン様が続ける。
「なら、もうひとつ理由を話そう。もしも聖女が死んでいたら、教会は魔族に対して、よりいっそう殲滅の手を強めてきたことだろう。そうなっては厄介だった。聖女を死なせなかったことで、結果的にそれを防ぐことができたのだ。したがってノアの行動は、魔族を救ったとも言える。どうだ?」
「で、でも……」
まだ納得はできなかった。
だって、まるで聖女を死なせなかったことが良かったことのように聞こえる。
たしかにその方が、私としてはありがたいが……アラン様の真意がわからない。
そう思っていると、ユエルが私の服の端を引っ張って、小さな声で言う。
「ノア、そういうことにしておいて」
「ユエル……」
「ちゃんと考えがあるんだ。アランを信じてあげて」
「……」
その会話は、この静まり返った玉座の間では、アラン様にも間違いなく聞こえているんだけど、アラン様は何も言わなかった。
納得はできたわけじゃない。
けれど、アラン様もユエルも安易な考えで言っているわけじゃなさそうだと思った。
ならば、それを信じようと思った。
「……わかりました、アラン様」
私はアラン様をまっすぐ見つめた。
「地下農場での労働、しっかり励みたいと思います!」
「うむ、それで良い」
アラン様は満足したように笑った。
ユエルもほっとしたような表情をしていた。
サザは……あんまり興味なさそうにしていた。目が合うと、ぷいっとそらされた。
いつも通りの、サザだ。
そんなわけで、私はしばらくのあいだ、地下農場で働くことになったのだった。




