表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらゾンビでした  作者: 矢倉
29/269

ゾンビ、つかの間の平和な朝

「……それでですね、ガルドが飛び掛かっていって…!」


食堂の隅っこ、静かなテーブルの片隅で、私はスプーンを持ったまま全力で語っていた。

その向かいにいるのはーー包帯ぐるぐる巻きの魔王軍の先輩、ミイラのヴェリス先輩だ。


「……そして最後には、巨大なネクロワームってやつが現れて、共闘したんですよ!あのオーク族と!」


私は手をバタバタさせながら身振り手振りで話す。


「ふむ……屍を食らう蟲の王“ネクロワーム”か、災厄の体現者として、古き文献にも記されし存在……よくぞ無事に帰還した、ノアよ」

「本当に。今思うと、生きて帰ってこれたの、奇跡です」

「ふふ……腐蝕の黒き抱擁。かくして、貴様の力もまた深淵に近づいたということだな」


ヴェリス先輩は、いつもながらの中二病っぽい台詞で返してくれるけど、言葉の端に「よくやったな」と認めてくれるような感じがあって嬉しかった。

そして同時に、だいぶヴェリス先輩の言葉の読み解き力も上がってきたな、と自分の成長を感じた。


「深淵に近付いた気がします。先輩のほうは、最近どうですか?」


私が尋ねると、ヴェリス先輩はふっと包帯越しに目を細め、スープの湯気の向こうを見つめるように語り出した。


「……地下迷宮の深き底。忘れられし封印の回廊。そこにて、我は出会った……問いかける者に。石の肉体を持ちし“門の番人”にな」

「えっ、話す石像ですか?」

「うむ、“朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。それは何か”と問いかけてきたのだ。」

「あっ、それって確か……」

「我は応えた。“――時に傲慢に、時に儚く、破滅へ向かう運命の人形マリオネット――人間だ”と」

「おああ」

「すると石像は……ふっ…こう言った…。“…あ、うん……正解です……”と。そして道を開いた」

「……それ絶対“関わっちゃダメなやつだ”って思われてますね」


思わず笑ってしまう私に、ヴェリス先輩も「ふっ……」と小さく笑いつつ、スープを啜った。

こんなふうに、何も起きない朝。ただ笑い合うだけのひとときが、本当にかけがえのないものだと、魔王城で過ごすようになって、少しずつ分かってきたような気がする。


と、そんな平和な時間を壊すようにーーいや、壊すって言ったら失礼だけどーー食堂の入り口から、トコトコと小さな足音が聞こえてきた。


「ノア、いたいた」


くい、と赤いフードを上げながら小柄な人影が姿を現す。

ひょこっとでてきたのはユエルだった。


「ユエル、どうしたの?」

「魔王が呼んでるよ。新しい任務だって」

「えっ、もう?」


思わず声が裏返る。まだ沼地の任務を終えて数日しかたってないのに、もう新しい任務が命じられるとは。


「ふむ……運命の風が、再びお前を運ぶということか。あるいは、闇の呪いに導かれるように……」

「不吉なモノローグみたいなこと言うのやめてください…」


私たちのやりとりを気にすることなく、ユエルは言葉を続ける。


「今回の任務地は、フロストエイス山脈の方だって」

「うわぁなんだか、寒そうな名前」

「ちょっと聞いたら、オーガっていう魔族の調査みたいだよ。仲間にできるかもしれないって」

「オーガ…!?」


頭の中に、筋肉隆々な巨体と、牙の生えた恐ろしい鬼のような顔が浮かぶ。


「ふふ……今度は雪の中での戦いか。白き嵐に吞まれるなよ」

「ううー…でも、頑張ります!アラン様に、ちゃんと良い報告できるように!」


立ち上がって、私はぐっとこぶしを握る。スープは飲みかけだったけど、それよりも、心が燃えていた。


「うむ……その意気だ。行け、ゾンビの勇者よ。お前の行く道が、闇に抗う灯となるように」

「はいっ!!」


私はユエルと共に食堂を出た。

今度の任務も大変だろう。でも私はもう無力なゾンビじゃない。

大丈夫、きっとやれる。

私には仲間がいるし、こうして送り出してくれる人もいるのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ