沼地の夜明け
魔力を失ったネクロワームの巨体が、塵となって崩れ落ちたとき、私はその場に膝をついた。
まだ全身が痺れている。腕もビリビリと痛む。
だが、その痺れも痛みも、不思議と誇らしいような気がした。
静まり返った沼地には、ネクロワームの唸り声も、オークたちの鬨の声も響いていない。
私はゆっくり立ち上がり、それから振り返った。
いた。
レオット。剣を杖代わりにしながらも、しっかりと立っている。
ガルド。全身泥だらけの傷だらけだが、その目はまだ闘志を宿していた。
そして……ギュスターヴ。
山刀を肩に担ぎ、彼もまた、静かに私たちを見ていた。
「……これで、終わったんだよね」
誰ともなく、私は呟いた。
生き残ったのは、私たち四人だけ。
でも……私たちは勝ったのだ。
空がわずかに白み始めていた。
長かった夜が明けようとしている。
そのとき、ギュスターヴがガルドの方へと歩み寄った。
「……お前の矜持、しかと見せてもらったぞ」
その声には、怒号も嘲笑もなかった。
ただ重く、深い感情があった。
「我が戦士たちも、本望であろう……」
ガルドはわずかに目を伏せると、言葉少なに答えた。
「我が主の意向を組んだまでだ。俺の意思じゃない」
ギュスターヴは黙って頷いた。
「……我にも矜持はある。貴様らがいなければネクロワームは倒せなかった。よって、貴様の主君には礼を言わねばならぬ。あわせて、愚弄した詫びもな」
「……フン」
ガルドは鼻を鳴らした。
だがその顔は、ほんの少しだけ緩んでいるように見えた。
私はあたりを見渡した。
沼地には、もう誰もいない。
泥に沈んだ無数のオークの骸。
戦士たちはギュスターヴひとりを残して、すべて倒れた。
その事実が、胸の奥をじわりと締め付けた。
「……悲しいね」
私はぽつりとつぶやいた。
「魔族は……消えたら戻ってこない。二度と、生き返ることはない……」
ギュスターヴは、静かに私の方を見た。
「森の戦士は……森に還っただけだ。気にすることではない」
「え……」
「我らはそうして生きてきた。そして、これからもそうだ」
その言葉には、誇りがあった。
命を燃やし、死して土に還る。それは決して終わりではない。
生まれて、生きて、戦って、そして還る。それが、森に生きる者の生き方なのだ。
私はふと、空を見上げた。
夜明けの光が、雲の隙間から差し込み始めていた。
冷たい空気が、少しだけ温もりを含んでいた。
私たちの戦いは終わった。けれどーー命の巡りは、まだ続いていく。
それを見つめていたいと思った。




