第6話 聖女も寝取ってやろうか!
いったん、捕らわれているハルネイドを訪ねた。
一応、確認しておかねばならない。ティアナ姫の動向を。
ゼルファードの住人に聞くところによれば、ハルネイドは地下牢にぶち込まれているとのことだった。
この村の場合、王国で元騎士だった者が犯罪者を取り締まっているようだった。
教えてもらった建物へ向かうと、俺たちを待っていたのか元騎士のロビンソンという青年が出迎えてくれた。なんだか優しそうな人だ。
「ようこそ、ゼルファード自警団へ」
なるほど、この人が自警団の長というわけか。
「よろしく」
「よろしくお願いします!」
俺とオーロラは挨拶を交わす。
ロビンソンは爽やかに微笑み、建物の奥へ案内してくれた。
中を進み、地下へ。
薄暗い階段を降りていくと“牢”が見えてきた。その中には横になっているハルネイドの姿があった。
「…………」
背を向け、不貞腐れているような雰囲気。いや、実際そうなのだろう。あんな目に遭えばな。
「ハルネイド」
「……様をつけろ、様を……」
元気のない声で言葉を返すハルネイド。一応、生きているらしい。
「教えろ、ティアナ姫はゼルファードに侵攻してくるのか?」
「来るさ。この俺を助けにな!」
くるっとこちらに向くハルネイドは、今度は自信たっぷりだった。いや、顔の傷が生々しいって。
村人にボコボコにされて顔が腫れまくっていた。ほとんど原型がないじゃないか。
「お前を?」
「ああ。なぜなら、俺とティアナ姫は愛し合っているからだッ! エルド、お前から寝取った時は最高の気分だったぜ……!」
「そうか……」
正直、この牢がなければ一発ブン殴っているところだ。
けど、もう十分に村人たちがハルネイドをボコってくれたから、ヨシとしよう。
「あんな男の言葉を気にしてはいけませんよ、エルド様」
「ありがとう、オーロラ」
彼女のおかげで俺は冷静でいられた。
よかった、オーロラのおかげで牢を破壊せずに済んだ。
「へえ、聖女オーロラか!」
「知っているのか、ハルネイド」
「当たり前だ。シュヴァルク王国の聖女なのだからな」
「なるほどね」
なんとなくそんな気がしたが、王国の聖女だったとはな。
オーロラのことを知りたくないわけではなかったが、こんな形で知ることになろうとは。
「違います! わたくしは、エルド様の聖女です!」
えっへんと胸を張るオーロラ。なぜ否定した……!?
いや、嬉しいけどさ。
「フン。仲の良さそうなことだな。そこの聖女も寝取ってやろうか!!」
と、ハルネイドは言ってはならんことを言った。……ブン殴る。
聖剣アルビオンを抜き、牢を破壊しようとしたが――ロビンソンが俺の肩に手を置いた。
「エルド様。これはハルネイドの罠です。あなたに牢を破壊させ、逃げるつもりです」
「……!」
冷静に考えてみればそうだな。危なかった。
危うくハルネイドを逃がすところだった。
その通りだったのか、ハルネイドは何度も舌打ちしていた。……この野郎。どこまでクズなんだ。
「ロビンソン! 余計なことを言うな!」
「黙れ、ハルネイド。お前は孤児だったところをゼルファードの村長が拾ってくれたのだ。その恩を忘れるとは……!」
「知るか! 俺はようやく貴族となって成り上がったんだ! 誰にも邪魔はさせねえ!」
ああ、それで村人はコイツを見知っていたわけか。
はじめて会うような雰囲気ではなかった。
みんなハルネイドをバカ息子のように扱っていたからな。
これ以上は時間の無駄と判断し、牢から去ることに。
ハルネイドは最後まで俺を煽ってきたが、無視した。……結局、ティアナ姫のことはほとんど聞けなかったが、まあいい。
「乱暴な人でしたね、エルド様」
「不快な思いをさせてしまったな、オーロラ」
「え? ああ、わたくしを寝取るとかなんとか。別に気にしてませんよ~」
聖女がそんなことを言葉にしていいのだろうか。だが、オーロラはまったくといって気にしていなかった。
「もし必要なら俺がハルネイドをボコってくるが」
「大丈夫です! わたくしの身も心も――魂すらもエルド様のもの。だからいいんです!」
「えぇ……」
そこまで言われると俺も反応に困るというか。……いや、嬉しいけどさ!
素直に喜びたいところだが、歓喜のあまり表情が崩れてしまうと思い……俺は先を行く。
「ちょ、エルド様! どうして先に行ってしまうですか!?」
「き、気にするな!」
危なかった。こんな顔、オーロラには見せられないだろッ。