[番外編:後編] 奪われたものを奪い返す
どばどばと地面に大量の血が落ちる。
トランジスタのヤツ、いったい……む?
よく見れば、フィオナがトランジスタの背中を刺していた。
「死ね、このクズ野郎!」
「……フィオナ、貴様……なぜ!」
「私はあんたなんかと寝たくはなかったわ!」
「……なんだと」
「エドマンズの為に……仕方なかったの」
なるほど、トランジスタが強引に彼女を奪ったわけか。同時に、騙されてもいたようだ。ヤツがあの極悪非道の錬金術師オルジスタの従弟とは知らなかったらしい。
「バカな女だ! この私に従っていればよかったものを!!」
ギロッとフィオナを睨むトランジスタは、そのまま裏拳で彼女を殴った。
フィオナは衝撃で飛ばされる。
「きゃっ!」
な、なんてことをしやがる!!
「トランジスタ、おまえ!」
「……この程度の奇襲で死ぬ私ではない」
自己ヒールして治癒しやがった。
しかも高度なヒールだ。
野郎、オルジスタと違って回復魔法が使えるのかよ。
「そ、そんな……エルドさん。あのトランジスタという方のヒールは上位のものです」
「なんだと!?」
「恐らく、エーデルヒールかと思います!」
[エーデルヒール]
[効果]
ヒールの上位魔法。
体力の大幅回復と傷を癒す。
重度のケガでも治癒する。
状態異常も回復する。
「なんて野郎だ。悪人のクセに聖職者の真似事か!」
俺が吼えると、トランジスタは不敵に笑った。
「オルジスタが錬金術師なら、私は聖職者なのだよ。……と、言っても教会は追放されたがなァ!」
オルジスタの事件があったせいか、トランジスタは追い出されたようだな。そりゃ、不運だったとしかいいようがない。
それにしても、元聖職者か。
いや、今でも一応その道のプロか。
だが、落とし穴だったり地属性魔法はどうして……?
「お前、他にも秘密があるな?」
「そうさ。私はこの王国を乗っ取る為に“悪魔”と契約したのさ」
「悪魔、だと?」
それ以上、ヤツは言わなかった。
なら、吐かせるだけだ!
俺は一気に接近して聖剣アルビオンをヤツに向けた。
「さすがに速いな、エルド!」
「まあな!」
剣を下ろすと、ヤツはストーンヘンジを展開して岩で防御した。……なるほど、そういう使い方もあるのか。
しかも、足場は落とし穴だらけ。
オーロラはほとんど動けていない。
「……す、すみません、エルドさん!」
「いや、こっちは平気だ。それより、フィオナさんを頼む!」
「はいっ! ヒールしておきます!」
よし、再び俺は前を向き、岩を剣で砕いていく。
「おらっ!」
「……ぐっ! エルド、お前! どうして私の邪魔をする!!」
「エドマンズさんからの依頼だからさ。彼は絶望するほど困っていた」
「それだけの理由で?」
「違う。大切な人を寝取られた……俺はその気持ちが痛いほどよく分かる」
「あぁ……そうか。エルド。貴様もティアナ姫を寝取られたよなぁ!! それを聞いたときは胸がすぅっとしたものだ」
この野郎!!
俺を侮辱するか!!
「クリムゾンブレイク!!」
地属性魔法には、火属性魔法だ。
属性には相性があり“弱点”がある。
この場合、火の方が有利。
「な――にいいいぃぃぃ!?」
俺のクリムゾンブレイクは、爆炎となり嵐となった。激しい炎の暴風は岩を焼き尽くし、炭にした。そして、トランジスタへ命中。
「ぎゃあああああああああああああああああ!!」
エーデルヒールで回復するヒマもなく、ヤツは燃え続けた。
「トランジスタ。お前の野望はここまでだ」
「…………ば、か、な…………」
ゴトッと倒れるトランジスタは丸焦げになっていた。これでもう動けまい。
そして、気づけば騎士団の騎士たちが駆けつけていた。
「何事だ!!」「……む? トランジスタではないか!」「指名手配犯だぞ」「こんなところにいたとは」「脱獄していたが、まさか王国にいたとはな」
なに……そうだったのかよ。
犯罪者だったのかよ。
黒墨になっているトランジスタは、騎士たちに連行されていく。
「エルドさん! フィオナさんを治癒しました」
「よくやった」
「ですが、しばらく意識は戻らなさそうです」
……そうだよな。
さっきトランジスタにぶん殴られていたし。
ここにいても仕方ないので、俺は依頼主であるエドマンズを探した。
すると、カフェにエドマンズの姿があった。
「エルド様!」
「フィオナさんは無事に助けた。邸宅も奪い返したぞ」
「おぉ、フィオナ! 私のフィオナ……!!」
これで無事に依頼完了っと。
まさかオルジスタの従弟が現れるとは思わなかったけどな。
「じゃ、俺は行く」
「待ってください、エルド様」
「ん?」
「これはお礼でございます」
差し出される『ゴールド』の物体に俺は驚いた。
「エルドさん! これってホンモノのゴールドですよ!」
「あ、ああ……」
オーロラは「貰うべきですよ!」と瞳を輝かせる。
クエスト報酬というわけで、貰ってもいいのだが。
「どうぞ、受け取ってください」
「本当にいいのか? この塊だと、結構な値段だよな」
「ええ。現在、ゴールドは高騰しておりますゆえ、数百万はくだらないかと」
「す、数百万……」
俺たちはもともと『辺境の地ゼルファード』の建物改修の為に材料を探しにきていた。その金もギリギリだった。
このゴールドがあれば、ゼルファードの為に役立てる。
ありがたい話だ。
素直に受け取ることにした。
これも辺境の地の発展の為だ。
今回の偶然が重なり、俺とオーロラは大量の材料を購入できた。
おかげで村のみんなは大変喜んだ。
村の強化も、俺たちの旅路もまだまだ終わらない――。
[番外編:完]
◆あとがき
番外編の前編・後編をお読みいただき、ありがとうございます。
久しぶりに『NTR勇者は辺境の地でスローライフを』を掘り起こしてみました。
実は結構気に入っている作品です。
今後もちょくちょく更新するかもしれません。
で応援いただければ嬉しく思います。
では、また。
◆お知らせ
別作品の宣伝で申し訳ないのですが、連載中の『オートスキル』のコミック第1巻が発売しました。気になったらでいいので、購入いただけたら幸いです。
各プラットフォームで「オートスキル」と検索すると出てくるかと思います。




