[番外編] NTR勇者の日々
【辺境の地ゼルファード】
その昔、別の大陸にある辺境の村で娘と恋に落ちた。
出会って三秒の恋だった。
愛し合った三日間。
美人で最高だった。
だが、俺はそんな辺境の村娘すら寝取られてしまったのだ。男はまさかの高齢の村長だったが……。
ヤツは“化けて”いたんだ。
「……っ」
「どうしかしたのですか、エルドさん」
農作業に勤しんでいたはずのオーロラが俺の目の前に立ち、顔を覗かせていた。
あまりの美人に俺は胸が少し高鳴り、けれど冷静を装った。
「ッ……! オーロラ、近いって」
「だって、エルドさんの顔、青かったんですもん」
そんな風に話していると奥で、少し呆れ顔のクレミアがこちらに視線を向けていた。……おっと、イカン。
「そこ、イチャイチャしないで離れて」
「すまん、クレミア」
天才魔術師クレミア。
最近は新たな水属性魔法を習得したようで、畑に水を撒いていた。スキルの名前はウォーターシャワーだったかな。
畑全体に水が行き渡り、あっという間に作業が終わった。
「あの、エルドさん」
「ん、どうした?」
「そ、その……お仕事が終わったら、たまには二人きりでどこかへ行きませんか?」
「そうだな。最近ずっとスローライフ的なことしかしていないし、たまにはいいか」
「でしょ、でしょ!」
妙に頬を赤くするオーロラ。
という俺もちょっとばかりドキドキしていた。
久しぶりのデートだ。少しは身だしなみをキッチリしておくかね。
あと場所だ。
たまにはラグナゼオン帝国へ行こうかな。
ルルティアにも会いたいしな。
「よし、明日は帝国へ行くか」
「名案です!!」
仕事を終え、クレミアと別れて帰宅。
いつもの日常を終えて――次の日。
◆
【ラグナゼオン帝国】
ネクロのおかげで、あっという間の到着だった。
相変わらず、ブラックドラゴン(スライム)は快適だな。
「では、私は先に帰る」
「いいのか、ネクロ」
「うん。二人の邪魔をしたくない」
そんな気を遣わなくても……いや、ここはお言葉に甘えよう。
あとで呼ぶことにして、俺はオーロラを連れて門へ。
ラグナゼオン帝国の最強の門番ヴェルガードが待ち構えていた。相変わらずの図体である。
「久しいな、エルド」
「よう、ヴェルガード。変わりないな」
「うむ。そちらはどうやら、シュヴァルク王国と決着がついたようだな」
「まあな。いろいろあったけど」
「喜ばしいことだな。しかも、銀髪のシスターさんを連れて……やるな、お前」
前回も連れて来ているがな。
門を通してもらい、さっそく帝国内を回った。
馬鹿みたいに広い大通りには、無数のショップが。アイテムショップ、ペットショップ、錬金術師のお店、鍛冶屋などなど。
露店もアホみたいにある。
すごい活気で圧倒されるぜ。
そうして、各お店を見て回り、オーロラの気に入ったアイテムを全て買ってあげた。
「わぁ、これ可愛いです!」
銀の腕輪をつけるオーロラ。それ、三回まで物理・魔法攻撃を防いでくれるレアアイテムだぞ。高いんだぞ。――けど、気に入っているようで何よりだ。
買いものは十分に出来た。
最後にお城の方へ向かった。
あのあたりに世界最高の錬金術師が住んでいる。
……あの塔だ。
向かうよりも先に少女の姿があった。
「お、ルルティア」
「……エルドか。そちらはオーロラ様」
淡々とした口調でルルティアは、俺とオーロラを見て懐かしそうな表情を浮かべていた。
「そんな古い友人ってわけでもないだろ」
「それもそうだけど。しかし、帝国でデートとはな」
「たまにはな」
「ふむ。世界は平和になったが――油断はするな、エルド」
「どういう意味だ」
「お前はすぐに娘を“寝取られる”からな」
「な、なんで知っているんだよ……!?」
ルルティアは、それ以上は言わなかった。ニヤッと笑うだけで。
いったい、どこから情報が漏れたんだかな。
今度こそルルティアとは別れた。
門を目指し、そこには予め読んでおいたネクロの姿があった。
「おかえり、二人とも」
「おう、ネクロ」
「お待たせ、ネクロちゃん」
再びブラックドラゴン(スライム)に乗り、辺境の地ゼルファードを目指す。
◆ ◆ ◆
別の大陸にある辺境の村。
『――ヴヴヴ』
ゾンビウイルスは進化をはじめ、より強い感染力で人間を脅かし始めていた。
『…………我ラガ父、オルジスタ様……バンザイ』
ついに、ゾンビは“知性”を手に入れたのである。
- 番外編・完 -




