第5話 勇者と聖女
「大変なことになりましたな、勇者エルド殿」
危機感を露わにする村長タル。
その表情は明らかに険しそうだった。……やはり、上級魔導士と聞いては眉間に皺が寄るよな。
上級騎士でも十分ヤバいのだが、魔導士は更に桁違いの強さ。
物理攻撃なら何とかなるが、魔法ともなると様々。
対処するのも難しい。
「巻き込んでしまった以上、ゼルファードは俺が守ります」
「大丈夫。ここの住人は結束力が非常に高い。他の街や村にも要請をかけてみましょう」
と、村長は柔軟に答えてくれた。
すげえな。
普通は恐怖して、事の発端となった俺を責めるところのはず。でも、そうはせず、むしろ味方でいてくれた。
なんて良い村長なんだ。
「俺が言うのもなんですが、お願いします」
「いやいや、勇者エルド殿のおかげでゼルファードはあるのです。誇ってください」
「そんなことはないです。俺はまだ何もしていないので」
「いやいや! 騎士やハルネイドを対処してくれていますので」
謙遜する必要はないと、村長は食い下がる。
そこまで言われてはな。
「エルド様、いったんゼルファードを回ってみましょう。この村を知れば、守備もしやすくなるでしょう?」
オーロラの言う通りだ。
今は守りを固め、少しでも防衛力を上げるべきだ。それしかない
村長に挨拶をして、俺とオーロラはゼルファードの全体を視察する。
歩けば、直ぐに挨拶をしてくれる住人。みんな笑顔で優しい。野菜もくれるし、良い人ばかりだ。
「おはよう、エルド様!」「今日もいい天気だね」「王国とヤり合うって!?」「ゼルファードは屈しねえぜ」「やるってなら相手にになろう」「俺たちは何度も戦ってきているのさ」「がんばろうぜ!!」「もしければ一緒にダンジョン行こうか?」「ウチのお店にも寄ってくれ~」
と、本当に多くの人に話しかけられた。
とてもありがたいことだ。
「人気者ですね、エルド様!」
「そうかなあ?」
「そうですよ~」
そや、オーロラのことをまだあまり聞いていない。
そろそろ休憩にして、そこのベンチで軽く聞いてみるかね。
椅子に腰かけ、オーロラも隣にやってきた。
丁度いい。ほんの少しだけ質問をしてみるか。
「オーロラ、聞いてもいいか?」
「はい? スリーサイズ以外はなんでも答えます!」
「そんなこと聞かねえって! えっと、君はゼルファードでどうしたいんだ?」
「わたくしですか。う~ん、エルド様が幸せになってくれるのなら、なんでもいいです」
……俺が?
俺が幸せになるか……それは無理かもな。
ティアナ姫を寝取られて俺の心は今も尚、ズタズタだ。
それとも聖女なりの優しさなのか。
「どうかな。今はこの辺境の地で必死に人々を守るくらいしかできないな」
「それでいいじゃないですか」
「え」
「だって勇者はそういうものでしょう?」
言われてみればそうだな。
今までも魔王の手から人々を救ってきた。
それが今はゼルファードという土地に限定されているだけだ。今も昔も変わらないということだ。
そうだな、王国と敵対するのはちと悲しいが、幸せを掴むためにがんばろうかな。
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