第4話 寝取られ悪夢
『……パンパンッ!!』
貴族の男ハルネイドと俺の愛する人だったティアナ姫が……ベッドの上で……。
うあああああああああッッ!!
目を覚ますと、見慣れない部屋にいた。
そうだった……ここは村長タルの家だ。
あれから美味くて温かい食事にありつけ、風呂まで入れてしまった。
シュヴァルク王国を追放されてから絶望しかなかった俺だったが、このゼルファードでは優しくしてもらえている。
多分、今まで訪れたどんな村よりも人情がある。
そうだな、ここならオーロラの言うように理想のスローライフが送れるかもしれない。
一刻も早くティアナ姫のことは忘却の彼方へしまい込み、前を向いていこう。
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穏やかな朝を迎えた。
こんな清々しい日を迎えられるなんてな。
つい最近までは魔王ネクロヴァスが世界を支配していたせいで、空は闇に染まっていた。そして、陸海空には多くの危険なモンスターが跋扈し、人間に危害を加えていた。
「なに自分の世界に浸っているんですか、エルド様っ」
オーロラが背後から腕を伸ばし、俺の両目を手で覆っていた。なんで『だ~れだ』のようなコトしてんだ……?
「ん~、いやぁ平和になったなって思ったんだ」
「でも、昨晩は魘されていましたね」
「……ッ!」
オーロラのヤツ、俺のことを観察していたのか!
ていうか、一緒の部屋で寝てたっけ……。疲れていてあんまり憶えていないのだが、忍び込まれたか。どちらにせよ、これはマズい。
寝取られ悪夢を見ていたなんて馬鹿正直に言えるハズがない。
俺は、なんだかんだ言ってもまだ引きずっているのかもな。未練があるのかもしれない。……いや、そんなハズはない。
「大丈夫です。エルド様の心はわたくしが癒して差し上げますから」
手を離し、柔らかい口調と太陽のような笑みを浮かべるオーロラ。聖女というのは、あながち間違いではないのかもしれない。
「俺のトラウマを取り除いてくれるのか?」
「いいですよ。これでも聞き上手なんです。お任せください!」
それは“懺悔”という意味では……。
それでも嬉しいけどね。
人に話を聞いてもらえるだけでも、精神的な負担はかなり変わってくるというものだ。
少しずつオーロラに話を聞いてもらおうかな。
と、心の片隅に考えていると部屋をノックする音が響く。
『あの……エルド様。私です。ラフィネです』
「ああ、入っていいぞ」
扉を開け、入ってくるラフィネは困惑した表情を浮かべていた。
「今、家の前に男の人が来ていまして……勇者エルド様に話があると」
「俺に?」
ハルネイドではないよな。
アイツは捕まっている。
「ええ。彼はシュヴァルク王国の使いの者だとおっしゃっていました」
なぜ使者が俺に用があるんだ?
まさか、騎士10人やハルネイドをぶっ飛ばしたから……その情報がもう王国に伝達されて、王の耳に入ったのだろうか。
だとしたら、ゼルファートを巻き込んでしまったな。
とにかく、使者とやらに会ってみるか。
廊下を出て玄関を目指す。
オーロラとラフィネも同行してくれた。
外へ出ると、そこにはローブ姿の中年の男が立っていた。
「勇者エルドだな」
鋭い目つきで俺を見下す男。
背が高いから威圧的だが、俺は臆することなく返事を返した。
「そうだ。お前、シュヴァルク王国の使者なのか」
「そうとも。ハルネイド様が捕まったと聞いてな。エルド、お前の仕業と断定した。……いや、このゼルファードの連帯責任だ!」
語気を強めて男は顔を近づけてくる。
そうか、王はまだ俺を追い詰めたりないらしい。
「それで?」
「この街もろとも吹き飛ばす。いいか、王国には上級騎士の他にも上級魔導士がいるのだ。彼らの手に掛かれば、この辺境の地など跡形もないッ! 更地にされたくなければ、その銀髪の女を渡せ」
なぜかオーロラを指さす男。
……どういうことだ。
本人も当惑しているというか、よく解かっていないようだった。王国が聖女を必要としている、ということなのか?
なんにせよ、絶対拒否だ。
「カイゼルス王に伝えろ。クソくらえだとな!」
「貴様! ティアナ姫の言葉だぞ!!」
「なん……だと?」
ティアナ姫の? カイゼルス王ではなく、姫が言ったというのか。そして、この使者を送ってきたのか。
つまり、あの姫はハルネイドの為に使者を送ったというわけか。……クソがっ!
もういい。姫の名も耳にしたくないッ!
「どうした、勇者エルド。怖気づいたか!?」
「いや。むしろその逆さ」
「……なに?」
「俺はこのゼルファードを守る! なにがあろうともな! だから姫に伝えろ。ハルネイドとよろしくやれとな!」
使者は唇を噛みつつも、背を向けた。
「後悔するぞ、エルド。お前がいくら魔王を倒した勇者とはいえ……反逆行為をした貴様を王と姫は絶対に許さんだろう!!」
散々言って使者は帰っていく。
絶対に許さんねえ。
こっちだって許さねえよ。
もし村の人たちに指一本触れてみろ……戦争だ。
「わ、私……このことを村長に話してきますね!」
ラフィネは家の中へ戻っていった。そりゃそうだよな。ゼルファードの一大事だし。あとで俺からも説明せねばな。
「あの、エルド様」
「どうした?」
「このままではゼルファードは危険です。シュヴァルク王国の上級魔導士は、とんでもない手練れだと聞き及んでいますから……!」
その通りだ。彼らは魔王軍の幹部を二人撃退しているからな。……まあ、トドメは俺が刺したんだが。
けれど大丈夫だ。
上級魔導士なら、なんとかなる。
なぜなら――。
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