第36話 イケメン冒険者に寝取られた勇者
木材が欲しければ森で伐採を。
石材が欲しければ洞窟で採掘を。
なにげに『聖剣アルビオン』で全てが対応可能だった。さすが女神族の作った伝説の剣である。万能すぎてありがたい。
まずはゼルファード周辺にある森で木々を伐採した。
木材を入手し、たまに現れるゾンビモンスターをオーロラが浄化。
そして、ネクロヴァスはそんな俺とオーロラの戦闘を見守る。このコは、まだ戦闘経験がないらしい。
奴隷扱いを受けていたようだし――当然か。
「かなり木材を入手しましたねっ」
スライムをテイムしたばかりのラフィネは、ペットを抱きながら言った。
なんだろう、あの黒いスライム。
いつの間にあんなのをペットにしていたんだろう。気づかなかったな。
ゾンビ化はしていないようだけど。
「ああ。腹も減ったな」
そろそろお昼時。
どこかで飯にしたいな。
「お弁当なら用意しました。ランチにしましょ!」
料理が得意なオーロラは弁当を作っていた。助かるな。
どのみち、そろそろ洞窟も行かねばならない。いったん草原へ向かう。
【ラグナゼオン帝国領:エスメロード草原】
広大で長閑な緑あふれる草原に出た。
モンスターは僅かにスライムだけ。
そんなほのぼのとしたフィールドをゆっくりと歩いていく。
少しすると川が見えてきた。ここは綺麗な花にも囲まれて最高の場所だ。
「よし、ここで飯にしよう」
「エルドさん、良い場所知っているんですね!」
「ああ、勇者として世界を巡った時にここに寄ったことがあるんだ。……仲間の弓使いの女の子をイケメン冒険者に寝取られたけどね……」
「ちょ、なにげに衝撃的な過去! てか、エルドさん何人のコを寝取られているんですか……」
「さあ、もう憶えていない」
思い返すだけで胸が苦しいぜ。
アハハ……。
そんな暗い話は置いておき、飯だ。
ちょうどさっき入手した木材を使い、簡単な机と椅子を作成した。
「おぉ、勇者様すごいです!」
ネクロヴァスがぴょんぴょん飛んで喜ぶ。
様付けとはいえ、俺のことをそう呼ぶと……いろいろ危ない気が。まあ、魔王の片鱗といえば、この見た目くらいなものだし……今は見守るしかないか。
「俺は、辺境の地ゼルファードの管理権限を譲り受けた。ほら、この黒曜石。だから簡易的な建築スキルを持っているんだよ」
「なるほどですね!」
黒曜石さえあれば、建物も建てられる。家具も作れるってわけだ。ただし、村を離れた場合は家具を作ることくらいしかできないが。
俺の作ったテーブルの上に、オーロラのお弁当が並べられた。
たまごサンド、ハムサンド、ハムチーズたまごサンド、ポテトサラダサンド、トマトサンド、フルーツミックスまで……!
「めっちゃ豪華じゃないか!」
「えへへ、がんばりましたっ」
えっへんと胸を張るオーロラ。凄すぎんだろう。
「わぁ~~~~~~!」
感嘆の声を上げるネクロヴァス。純粋な子供そのものだな。
「う、うぅ……さすがオーロラ様。いつもいつも凄いお料理です」
「そんなことありませんよ~。ラフィネさんから教えていただいたレシピとかもあるんですから」
と、オーロラもラフィネも気遣い合っていた。そういえば、料理仲間だったな。村ではよく一緒に料理をしているようだし。
椅子に座り、さっそくサンドイッチを手に取る。そのまま口へ運ぶと。
「うまッ! こりゃ美味い。濃い味がたまらんな」
「でしょでしょ。エルドさんが濃い味好きなの知ってますからねっ」
ドヤ顔でまたも胸を張るオーロラ。いや~、料理に関しては本当に頭が上がらん。おかげで美味しいものを毎日食えて幸せだよ。
一方でネクロヴァスももしゃもしゃとサンドイッチを食っていた。そんな小動物みたいに……可愛すぎかっ。
いかんいかん、つい頬が緩んだ。
「……勇者様?」
「いや、なんでもないんだ。それより、美味いか?」
「はい、こんな美味しいもの初めて食べました!」
「そうか。ならいい」
むぅ、本当にコイツは魔王ネクロヴァスなのか? なんだかそんな気がしなくなってきたぞ。
美味すぎる飯を食べ終え、片付けを済ませて今度は洞窟ダンジョン『サーペントスネア』へ。
石材を集めなければ――!




