第32話 NTR錬金術師 Side:オルジスタ
宮廷錬金術師になる前に……それは起きた。
『……良かったのかよ、奥さん。オルジスタにバレたら大変じゃねえか?』
『構いませんわ。あのお方はつまらないので』
『そうか、そんなに欲しいか!』
『……はい。ぜひ、ゲルストフ伯爵』
我が家で見た光景。それは妻がラグナゼオン帝国のゲルストフ伯爵と寝ていた光景だった。
……正直、私はショックを隠し切れなかった。
だが、同時に興奮もした。
なぜだ。
愛する妻を寝取られて下半身は異常なまでに膨張していた。
ありえない。
そう思った。
だが、体は正直で反応を示していた。
次第に私は、巨人族のようなイチモツに手を伸ばし――妻とゲルストフ伯爵が果てる中で、私も同時に果てた。
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ナニをしているんだ、私は。
冷静になった。
明日には宮廷錬金術師に昇格する私が、なぜこんなことを。
カイゼルス王は、私の錬金術師としての実力を認めて下さった。新薬のことも秘密裏に伝えてある。これにより、莫大な研究費を戴ける約束だ。
だが、先に妻と伯爵で実験をする。
魔王軍幹部スペクターの血を混ぜたポーションだ。
密かに飲み物に混ぜた。
効果は直ぐに現れ、二人ともバケモノに変身した。素晴らしい……! 素晴らしいぞ、これは!
だが、妻も伯爵も私を襲ってきた。
仕方なく爆弾ポーションで吹き飛ばした。
このことは直ぐに王国に伝わったが、実験の失敗だと誤魔化すことに成功。妻と伯爵は実験に協力してくれていたが、失敗の爆発に巻き込まれて死んだということになった。
カイゼルス王の計らいだ。
それから半年後。
勇者エルドなる男が現れ、ティアナ姫と接近。恋仲になったようだった。だが、その勇者は直ぐに旅立ち……魔王ネクロヴァス討伐へ向かった。
その間に私は実験を進めた。
ゾンビ薬と強化ゾンビ薬を開発に成功。
更に、恐ろしい薬も完成間近だ。
ある日、勇者が魔王ネクロヴァスを倒した。
世界は平和になった。
ならばもう、私の出番はないかと思った。
しかし。
ティアナ姫が寝取られ、勇者は王国から追放された。カイゼルス王は娘に甘いので当然の処置なのだろう。
ハルネイドがゼルファードへ向かった。
正直、興味がなかった。
だが、このままではゼルファード周辺で行っている実験が露見する。……まずいな。
そう思ったが、思いのほかバレることはなかった。
それからだ。
ティアナ姫がゾンビ薬を求めてきた。
勇者とゼルファードを滅亡させる為らしい。
それは面白そうだ。実験にもなるし、村がどうなろうと知ったことではない。
しかし、結果は悲惨だった。
姫自身がゾンビ薬を浴びてしまった。
城に戻ってきたティアナ姫の姿はおぞましいものだった。王は泣き崩れ、しばらく部屋から出て来なかった。
帰還したハルネイドは、私に薬を求めた。
「オルジスタ!! エルドを……エルドの野郎をぶっ殺したい! 新薬を寄越せ!!」
「いいですよ。ぜひ使ってください」
「これは?」
「それこそ新作の強化ポーションです。肉体を改造し、最強になれます」
「ほう、そりゃいいな! ……さっそく」
「どうぞ」
ハルネイドは迷いなくゾンビ薬を飲んだ。……バカかコイツ。だがいい、実験が発展するのならなんでもいい。
しばらくすると。
「ウ……ガァ!? オ、オルジスタ……こ、これはどうなってヤガル! が、があああああああああああああああああああ!?!?」
膨張する肉体。改造されていくカラダ。ハルネイドは触手を生やし、身長もかなり伸びた。だが、その見た目はあまりに醜い。私にとっては美しい芸術品であるが。
「素晴らしい! ハルネイド、貴方は最強の力を得たのですよ!」
「……マァ、イイ。エルドヲ……ブッコロセルノナラ!!」
しかし、ハルネイドも失敗に終わった。
スペクターの血に抗える人間はいない。そう理解した。
失望の中で、意外にも耐えられそうな人物が現れた。
王家の血筋。
ティアナ姫。
彼女はまだゾンビのままだが、不思議と暴れなくなっていた。……どうやら、ウイルスを制御しつつあるようだ。
このままなら、特別製のゾンビ薬を使用しても問題ないかもしれない。
やってみるか……。
私にとって勇者エルドもどうでもいい存在だ。だが、ゾンビを発展させる為には彼が必要だ。
私はこの世界の全人類を進化させたい。
その為ならなんだってしよう。
そして、失った本当の妻を取り戻す。




