第31話 婚約とキスとモンスターテイマー
モンスターを確保するには『モンスターテイマー』が必要だ。
ゼルファードの中にテイマーはいるのだろうか。
村人に聞き回ると直ぐに一人いることが判明した。
まさか、あの人がテイマーだったとは……!
急いで“村長の家”へ向かった。
扉をノックすると現れるタル。
「おぉ、勇者殿。どうかなされましたかな……?」
「ラフィネはいるかな?」
「もちろん、おりますぞ。少々お待ちを」
タルは、ラフィネを呼びに行ってくれた。
しばらくすると現れた。
今日も可憐だなと、つい見惚れそうになったが――『浮気禁止!』というオーロラのイメージが脳裏を過ったので俺は冷静になった。
「おはよう、ラフィネ」
「おはようございます、エルド様。まさか来て下さるなんて感激ですっ」
「ああ、君に用があって」
「本当ですか……! まさか婚約を!」
「…………っ!」
そうだった。
この前、村長にお願いされてラフィネとの婚約を検討しなければならなくなったんだった……。あれから返事はしていない。
オーロラとの生活やゼルファードの発展の為の活動で忙しくてなぁ……。
「違うんですか……?」
しゅんと肩を落とすラフィネ。いかん、このままでは話がこじれる。そうなる前に俺は誤魔化した。
「君にしかできない重要な仕事があるんだ」
「私にしかできない……?」
「村の人たちに聞いたよ。ラフィネは『テイマー』なんだってね」
「ええ、実はそうなんです。エルド様に会う前に村を出ていたのも、モンスターをペットにしたくて……」
それで村の外をウロウロしていたか。あの時は、ゴブリンに襲われていたっけな。俺がぶっ倒して、ラフィネを助けた。思えばあの時からの縁なんだよな。
しかし、まさか『テイマー』だったとは。
「お願いがあるんだ」
「……なんでしょう?」
「この村を盛り上げる為に『モンスターレース』を開催したい」
「モンスターレース?」
「詳しく話すと……」
俺は、ラフィネにラグナゼオン帝国にあるモンスターレースのことを話した。これをゼルファードでも運営すれば、村人も外から来る冒険者も楽しめて儲けられると説明。すると、直ぐに納得してくれた。
「なるほど! それは面白そうですね!」
「だから、ラフィネのテイマーとしての能力が必要なんだ」
「解かりました。エルド様からの頼みですもの、断りません」
「本当か!」
「はい。ただし」
「……ただし?」
「婚約が条件です」
「…………んなッ」
俺は言葉に詰まった――というか、状態異常でもないのに石化した。……やっぱりソレですよねぇ……。
「お嫌ですか?」
「そ、そうではない。めちゃくちゃ嬉しいよ。でも……その」
「オーロラ様が好きなのですね……」
「…………っ」
「解かりました。では、せめてキスを」
俺の目の前で瞼を閉じ、唇を突き出すラフィネ。桜色の美しい唇が無防備にさらけ出されている。
男としてこの誘惑に勝てなかった。ラフィネが可愛すぎて……。
せめて、キスくらいは…………。
ラフィネの肩に手を置き、俺は――。
「ダメです!!」
背後から何かが飛んできて俺とラフィネを引きはがした。
――って、オーロラじゃないか!
いつの間に。
「……ちょ、おま」
「えっちなのは禁止です!!」
「べ、別にキスしようとかしてないぞ……!」
「え。ラフィネさんを襲おうとしていたのでは……?」
「なわけないだろっ!」
おかげでそういう雰囲気でもなくなり、ラフィネも諦めてくれた。
「仕方ありませんね。私、エルドさんに協力します」
「無条件で?」
「はい。これ以上はご迷惑をお掛けしたくありませんから」
「ありがとう、ラフィネ」
これで決まりだ。
ラフィネをパーティに加え、ゼルファードの外でモンスターをテイムする。必要な数を集めてモンスターレースを開催する。このプランでいく。
オーロラも連れ、村の外へ。
ゾンビはかなり討伐して減らしているので危険は少ない。
とはいえ森付近では、あまり良いモンスターはいないだろうから、今日は少し遠出することに。
「なんだか久しぶりに遠征ですね!」
「そうだな、オーロラ。お前とは少し旅をした程度だったからな」
「冒険って感じがして楽しいです!」
森を抜け、草原に出た。この周辺なら、低級から中級のモンスターが棲息しているし、テイムもしやすいだろう。
モンスターを探しに行く。
「ラフィネは戦えるのか?」
「いえ、私はペットがいないので……」
「そうか。テイマーは初めてなのか?」
「……その、スライムしかテイムしたことなくて」
「マジか。ドラゴンとか」
「そんなの無理ですよ~…。スライムしか無理です」
「ドラゴンは無理でも、例えばコボルトとか」
「うーん。やったことないですが、がんばってみます」
まずはモンスターを探してみますかね。




