第30話 婚約した貴族令嬢を寝取られた勇者
女神の防御結界ブリーシンガメンの守護は続いている。
おかげでモンスターに襲われる心配も減り、誰かが常に監視する必要も減った。村人の一人がたまに周囲を見て回る程度になった。
王とティアナ姫を失ったシュヴァルク王国は、不気味なほどに沈黙を保ち……まったくといって動きはなかった。
ハルネイドが死亡したことも伏せられているようだし、向こうでは恐らく宮廷錬金術師のオルジスタが暗躍しているに違いない。
「難しい顔をしていますよ、エルドさん」
「ん、あぁ……すまん、オーロラ」
自宅でウロウロしながら考え事をしていると、そのようにオーロラから指摘を受けた。ここ最近、ずっとシュヴァルク王国のことを考えていた。
勇者としてあの王国を見捨ててよいものか……。
シュヴァルク王国には、多くの民が住んでいる。
もしもオルジスタの実験によってゾンビ化してしまえば、とんでもない被害者数となるだろう。
アイツならやりかねん。
「またシュヴァルク王国の心配ですか?」
「まあな。オルジスタの動きが読めないからな」
「宮廷錬金術師オルジスタですね。彼とは帝国で一度だけお会いしたことがあります」
「本当か」
「ええ。シュヴァルク王国の教会で会いました」
「その時のヤツの印象は?」
「うーん……ダンディな方だとは思いました。でも、なにを考えているか分からない、つかみどころのない人と感じましたね」
俺もそう思った。何度か顔を合わせているが、いつも遠くを見つめているような……そんな男だった。
だから、今後の出方がサッパリ分からん。どう対策を取ればいいのかも。
「んー、今度こそシュヴァルク王国へ乗り込むしかないかな」
「村は女神様の防御結界のおかげで守られていますし、エルドさんが不在でも大丈夫では~?」
「そうだな。一応、村長のタルにも相談してみるよ」
「それがいいでしょう」
テーブルに並べられていく夕食。
今日もまたオムライスだ。
これが不思議と飽きないんだよなぁ。
ケチャップで『世界がヤベェ』とか書かれているし、いつの間にこんな芸当を身につけたんだか。
「から揚げもつけてくれるとはね」
「ラフィネさんから作り方を教えてもらったんです」
「へえ、ラフィネがね」
料理スキルを極めているらしいオーロラにも、から揚げを作るスキルはなかったんだな。
「このスープの作り方です!」
「――って、そっちかよ」
どうやら、ゼルファードの伝統スープらしい。確かに、いい香りがする。
一口飲んでみると野菜のしみ込んだ濃厚な味わいだった。……こりゃ美味い。鶏肉も入っていて、実に俺好み。
「あ、そういえば」
「どうした?」
「ゼルファードの皆さんから貢物が沢山来ていますよ」
「そうなのか?」
「お野菜にお肉、お金もたくさん。あと珍しいアイテムも多数です。回復ポーションとか解毒ポーションとか」
次々に品を取り出すオーロラ。
いつの間にそんな贈り物が。
今回の活躍を讃えてくれたらしいけど――住人の気持ちだから素直に受け取っておくか。
◆
翌日。
清々しいほどの朝を迎え、俺はシュヴァルク王国のことが気になって気になって仕方がなかった。
……イカンな。
こんなに悩んでいたらオーロラに怒られてしまうな。
寝室を出て俺はひとり準備を進めた。
今日はもう悩むのは止めよう。
たまには生活のことでも考えるべきだ。
ゼルファードの管理を任された以上、なにか貢献せねば。
う~ん、なにか良い方法はないものか。
外を出歩いているとクレミアと出会った。
「おはようございます、エルド様」
「おはよ、クレミア。朝早いんだね」
「エルド様も。……お散歩ですか?」
「あー…いや、ゼルファードの為に何か出来ないかなってね」
「十分されていますよ」
「それは別さ。例えばカジノを作るとかさ」
「面白そうですね」
乗り気のクレミアは、俺の話を聞いてくれることに。
せっかくなので噴水広場にあるベンチに座った。
俺はさっそく何を作るべきかクレミアに相談した。
「なにがいいかな」
「そうですね。この村は娯楽が少ないのでカジノはありかと」
「いいのかな」
「ラグナゼオン帝国では『モンスターレース』なる公営ギャンブルがありますよ」
「モンスターレースか。懐かしいな」
「おや、エルド様は賭け事をなさったことがあるようですね」
「婚約指輪の入手の為に、所持金を増やす必要があってたまたまさ」
「こ、婚約指輪!?」
当時、魔王ネクロヴァス討伐の為に世界各地を渡り歩いていた頃だ。ラグナゼオン帝国に滞在中、俺はどうしても金が必要になった。
好きだった貴族令嬢と婚約まで結んだ関係まで進んだのだ。
だから、婚約指輪をゲットする為にモンスターレースに挑んだ。
結果、百万ブル以上を獲得した。
――だが、貴族令嬢は寝取られた。
ヤベ、思い出しただけで吐血しそう…………。
あんな可愛くて性格の良い貴族令嬢、なかなかいなかったぞ。でも、寝取られた。しかも、同じパーティの男にな。
ああ、所詮俺は“NTR勇者”なんだ。
「…………(しゅん)」
「お、落ち込まないでください、エルド様! よしよし」
まさかのクレミアが俺の頭を撫でて慰めてくれた。おかげで少し心が晴れたぜ。
「ありがとう、クレミア。そうだな、帝国の真似事にはなるが、モンスターレースはありかもしれん」
「可愛いペットタイプのモンスターを利用すればよいかと」
「名案だな、それ!」
帝国では獰猛なオークだとかゴブリン、コボルトも参加させていたな。ドラゴンが現れた時は会場がめちゃくちゃになったこともあった。
クレミアの言う通り、大人しいモンスターを使えば問題ないだろう。
ゼルファードを盛り上げる為、俺はまずモンスターレースから着手することに決めた!
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