表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/55

第2話 辺境の地ゼルファード

【シュヴァルク王国:ロンヴェル草原】



 王国を追放され、聖女オーロラを拾った俺は、辺境の地ゼルファードを目指す。俺にとっての未開の地。はじめて訪れる場所だけに少し楽しみだ。


 俺の隣で腰まで伸びる美しい銀の髪を(なび)かせるオーロラ。どうして、あんな場所で暴漢に襲われていたのやら――。


 のどかな道を歩いていると悲鳴が聞こえた。



「いやあああッ!」



 現場へ駆けつけると、そこには緑色の怪物ゴブリンが一体。女性を襲っていた。

 俺は直ぐに剣を抜き、邪悪なゴブリンを一撃で粉砕(ふんさい)した。



『ギャアアアアアッ!』



 一瞬で灰塵(ちり)と化すモンスターは、そんな雄叫びを上げて今世(こんせ)から消え去った。

 魔王軍が消え去ってもモンスターは世界中に無限に沸き続けている。被害を受け、困る人々も多くいた。まさにゴブリンに襲われていた若い女性を俺は助けた。



「あ……ありがとうございました!」

「いいさ。一応、勇者だからな。いや、元勇者かもしれないが」

「あの魔王ネクロヴァスを倒した伝説の勇者エルド様ですか! 素敵ですっ」



 女性は感謝しつつも、村へ戻っていった。

 人助けは勇者の基本だ。俺は数多くの村や街を救ってきた。


「さすがエルド様ですね!」


 聖女を自称するオーロラは、俺を称賛した。嬉しいけど、コイツは何もしなかったな。いや、俺だけで十分な相手(ザコ)だったけど。

 剣を(さや)に納め、隣で(はしゃ)ぐオーロラに視線を送る。


「それより、辺境の地ゼルファードはあとどれくらいだ?」

「さあ?」


「さあって……」


「わたくし、一度も行ったことがありませんので……たぶん」



 最後、ボソッと聞こえたような。

 そうだったのか。てっきり一度くらいは見て回っていたのかと。……まあいい、今からその“新天地”を目指すのだから――。


 モンスターを討伐しながらロンヴェル草原を真っ直ぐに進む。


 やがて村が見えてきた。

 シュヴァルク王国からかなり離れた場所だから、辺境の村だな。しかし、村っぽくないというか。



「日も傾いている。寄っていこう」

「それはいいのですが……」

「どうした?」


「一文無しなのです」


「なにっ!?」



 この聖女、手持ちがないのかよ。という俺も、たいした所持金は持っていなかった。シュヴァルク王国を追放されて、まともなアイテムを持っていけなかったからな。なんなら大半を押収されちまった。

 唯一は、武器である『聖剣アルビオン』のみ。それ以外は身に着けている衣服だけ。裸にされなかっただけマシだな。



「どうしましょう。ごはんも食べられません」



 ぐぅ~っと情けなくお腹を鳴らすオーロラ。頬を赤くして困惑していた。腹ペコなのかよ。



「解かった。さっき倒したゴブリンの収集品を売ろう。少しは金になるだろう」



 ブルックリン――略して『ブル』は世界共通貨幣なのである。

 先ほど入手したゴブリンの爪ならひとつで100ブル。飲み物くらいは買えるだろうな。少しは腹の足しになるか。


 しかし、宿屋に泊れるほどの金にはならない。


 ならば“ギルド”でクエストを受けるのもアリだろう。勇者として活動していた時、何度も何度も地味なクエストを受けてはレベルアップしたものだ。



「では、この先の『バレッサム』という村へ」

「なぜ知っている」


 オーロラが指さす方向には【この先バレッサム】という看板が立てられていた。なるほどね。




 バレッサムの村は、辺境の地にしてはシッカリしており建物も立派だった。これは村というよりは、ちょっとした“街”だぞ。


 なかなか立派な建物を前に立ち尽くしていると、村の人たちがワラワラと現れ、俺たちを物珍しそうに観察していた。な、なんだぁ? 俺たちは珍モンスターじゃないぞ。



「おぉ、勇者エルド様じゃ」「マジじゃん!」「へえ、本物だぁ」「かっけー!」「魔王を倒したんだって!?」「世界が平和になってよかったよ!」「村へようこそ!」「この村は飯がうまいぞ~」「温泉もあるぜ」



 なんだか村の人たちは優しそうに見えた。へえ?


「エルド様、歓迎されていますね!」

「あ、ああ……」


 俺の知名度のおかげなのか、なんなのか。

 やりやすくていいけどね。


 そんな大衆の中で白髪白髭の老人が杖を突きながら現れ、俺の前に。



「勇者エルド殿、よくぞ参られました」



 重厚感のある声。

 その一瞬で俺は、この老人が只者ではないと判断した。昔は、凄い戦士か何かだったのだろうな。



「えっと……」

「申し遅れました。この村の村長で『タルモレア』と申しますじゃ。ぜひ、親しみを込めて“タル”とお呼びくだせぇ」



 ご高齢の白髪の老人はそう名乗った。村長なのか。



「ありがとう、村長。俺たちは辺境の地ゼルファードを目指している。一泊させてくれ」

「おぉ、あのゼルファードを。それはそれは……歓迎しますじゃ」


「へ……? だって辺境の地ゼルファードはかなり遠い場所にあるって」



 そうだ。

 謎の商人も、このオーロラもそう言っていた。相当な奥地のような言い方だったけどな。しかし、村長のタルは首を横に振って否定し、正解を教えてくれた。



「ここが『辺境の地ゼルファード』でございますじゃ」



 そうハッキリと断言した。

 村の人たちもウンウンと深くうなずく。


 うそ……だろ!?


 信じられなかったが、ここまでの人数に言われたら信じるしかないだろう。確かに少しは歩いたけど、こんなアッサリ到着?

 オーロラに視線を向けると(あわ)てていた。



「そ、その! わたくしも初めてのことなので! ……たぶん」



 また語尾で何かボソッと言ったな?

 小さくて聞き取れなかった。



「そうか。まあいい、ここが辺境の地ゼルファードなら目的地に到着だな」

「でしょ! スローライフをするんでしょう!?」

「まあな」



 早い到着だったが、これで――。



『まてえええええええいッ!』



 そんな大声がして、背後から馬に乗った複数の騎士が現れた。……おい、あれは『シュヴァルク王国』の騎士じゃねえか!



「なぜここに!」



 騎士のリーダーらしき男が俺の前に来た。

 兜までして無駄に武装しまくってるな。まるで戦争でもしに来たような、そんな雰囲気だ。



「勇者エルド……貴様はハルネイド様からティアナ姫を奪った重罪人! カイゼルス王の名の下に処刑する――!!」



 そう声高らかに宣言する騎士。……なん、だと?



 俺もオーロラも、そして村の人々も呆然(ぼうぜん)となっていた。な、なにを言っていやがる……まったく意味が分からねえ!


 そもそも奪われたのは俺の方だ。被害者は俺だぞ!

 なのになんで、ここまでの仕打ちを受けねばならん!!



「ふざけんな!」「そうそうだ!」「勇者エルド様は村娘を救ってくれた!」「世界を救ってくれたんだぞ!」「そんなお方を処刑!?」「王国はついに狂ったか!」「これだからカイゼルス王は!」「また革命を起こされたいか!」



 なんとゼルファードの人々は俺の為に怒ってくれていた。……泣けるじゃねえかよ。でもな、巻き込んでしまって申し訳ない。

 俺なんかの為に。



 気づけば俺は、10人の騎士に囲まれていた。

 剣を向け、明らかな殺意を向けていた。コイツ等、マジか。

 俺と殺り合おうってか。

 元とはいえ勇者であるこの俺と。



「エルド様!!」

「オーロラ、お前は村の人たちと一緒にいるんだ」



 聖剣アルビオンを抜き、俺は騎士たちに刃を向けた。

 できれば王国の者は傷つけたくなかった。でも、それよりも俺はゼルファードの人たちを守りたい。


 まだ数分の関係ではあるけれど、それでもこの人たちは俺を味方してくれた。俺を大歓迎してくれた。


 理由はそれだけで十分だ。


 そこにオーロラを含めてやってもいい。


 こんな人間味のある温かい人たちを守らなくて、なにが勇者だ。



「ひとつ聞かせろ! ハルネイドとは貴族か」

「様をつけろ、様を! そうだ、ハルネイド様は貴族の中の貴族。大貴族なのだ!」



 どうやら、相当身分が高いらしい。だからティアナ姫にも接近できたのだろう。でも、もうどうでもいい。俺はあんな頭も股も緩い姫を愛してなどいないッ!


 身も心も……一生も捧げるつもりだった。


 だが、寝取られと追放というダブルパンチ。

 あまりにも残酷すぎた。

 死よりも恐ろしい罰だ。


 俺は今も尚、心に深い傷と追っていた。でも、忘れようと必死に前を向いて、この辺境の地ゼルファードにたどり着いたんだ。



「……お前たちを倒す!」

「ほぅ!? 我々はカイゼルス王に認められし上級騎士。いわば親衛隊。普通の騎士とは違うのだよ……!」



 俊敏(しゅんびん)な動きで突撃してくる騎士。しかし、村の中の子供が石を投げた。それがコツンと騎士の頭に。



「……勇者エルド様をいじめるな!」

「ガキがああああああああ! 邪魔をするな!!」



 子供を()とばす騎士。

 その光景に俺はブチギレた。

 瞬間で騎士の(ふところ)に入り、胸の鎧をそのまま掴んだ。ギリギリと(へこ)むような音が響く。



「子供相手になにしてんだ!!」

「なっ……いつの間に!!」


「お前は怒らせてはいけない男を怒らせた」


「……なにィ!?」

「この俺だああああああああああッ!!」



 魔王のペットだった邪竜をぶっ飛ばした大技火属性スキル『クリムゾンブレイク』をゼロ距離で発動。

 騎士を吹き飛ばし、残り9人にブチ当てて四方八方に飛び散らせた。


 意識のある騎士は直ぐに逃げ出し、遠くへ行った。

 リーダー格に対しては、村人がブチギレて更にトドメと言わんばかりにボコボコに。……ざまぁねえな。



「大丈夫ですか、ヒールしますね」


 と、先ほど蹴とばされた子供に治癒魔法を施すオーロラ。なんだ、そういう支援魔法が使えたのか。聖女とは本当らしいな。

 子供の傷は回復。両親がオーロラに何度も礼を言っていた。



「ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」

「いえいえ。わたくしより勇者エルド様にお礼を」



 気づけば俺はゼルファードの人たちに囲まれ、胴上げされていた。



「勇者様万歳!!」「やっぱり勇者はすげぇよ!!」「かっこよかった!」「うん、このゼルファードに相応しい」「ここに住めよ!」「可愛い女もたくさんいるぜ!」「よっしゃ、今日は宴じゃ~!」「飲むぞー!!」



 この村の連中、ノリがいいな。

 でも悪くない。


 俺は早くもこの『辺境の地ゼルファード』が気に入りつつあった。

面白い・続きが読みたいと感じましたら

↓にある★★★★★を押していただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ