第17話 宮廷錬金術師の男
マップを頼りに『悪魔のマーク』の場所に。
付近になってズジン、ズシンと巨大な地響きが反射していた。……なんだ、この重厚感。
気配も邪悪だぞ、これは。
ボスモンスターというより、これでは魔王軍幹部レベルの――まさか。
たどり着くと、そこには。
「あ、エルド様! あの巨大なモンスター!」
「ああ……ゴーレムだ」
ゴーレムは全長5~6メートルはあろうかという巨体。しかも、なぜかドロドロしていやがった。まるで“ゾンビ”のような。
[ゾンビゴーレム]
[モンスター情報]
ゾンビ感染したゴーレム。
ゾンビ化したことにより、ボス化した。
攻撃力が倍増しているので注意。
オーロラが碧玉を使用したのか、モンスターの情報が手に入った。
ゴーレムですらゾンビになるのかよ。知らなかったぞ。
「これがボスモンスターの正体か。醜いな」
「さっさと浄化しちゃいましょう。ホーリークレスト!」
早くも浄化魔法を放つオーロラ。
白い光がゾンビゴーレムに激突する。
お、これはやったか……!?
聖女の力だ。これならばヤツは一撃で……む?
『――――!』
ゾンビゴーレムは目を赤く光らせ、こちらに怪光線を放ってきた。……ちょ、えッ!? マジかよ!
咄嗟の判断で俺は、オーロラを抱えて回避した。
……っぶねえ!
アレを喰らっていたら、こっちが致命傷だったぞ。
「な、なんで……」
「あれでボスだからな。そう簡単には倒せんってことだ」
「なるほど……不死とはいえ恐ろしいですね」
楽に倒せる相手ではないな。
ここは俺が聖剣アルビオンで――!
少し距離を離れ、オーロラを後方へ置いた。
「ここで後方支援を頼む!」
「了解です!」
俺は再びゾンビゴーレムの元へ向かった。
ヤツはまたも目から怪光線を放ってきた。……クソッ、普通のゴーレムはこんな攻撃してこないぞ!
聖剣アルビオンで光線を弾き飛ばし、俺は更に前進する。
「くらえッ! クリムゾンブレイク!」
赤く燃え盛る爆炎が激突。
火属性スキルをお見舞いすると、ゾンビゴーレムの体は真っ二つに。炎を上げて大炎上していた。
『――――グ、ガァ……』
やがてバラバラに吹き飛んだ。
ふぅ、よかった。思ったよりは弱いボスモンスターだったな。
「お疲れ様です、エルド様っ!」
「ああ。これくらいなら楽勝だ。魔王軍幹部よりは弱かったよ」
「さすがです。このまま周辺のゾンビ系モンスターも倒してしまいましょう」
「そうだな。今はゾンビを倒しながら、シュヴァルク王国の悪事を探ろう」
焔玉で周囲を明るくしながら、森の中を突き進む。
マップを見ながらながら迷うこともないし、雑魚モンスターは一掃できた。
これなら、ゼルファードも守れるし一石二鳥だな。
そうやって討伐にも力を入れていると――。
マップにまた『悪魔マーク』の表示が現れた。
「あれ、エルド様。これ……」
「ボスモンスターだ。だが、こんな短期間で出現するのはおかしい」
普通、エリア内に一体いればいい方だ。ほとんど見かけることもないし。……とはいえ、例外もある。難易度の高いダンジョンなら複数体のボスモンスターが徘徊していることもある。
けど、この森はそんな場所ではない。
つまり、誰かの手によって出現したんだ。こんなことが出来るのは召喚術師か……錬金術師だろう。
召喚術師はありえないな。
世界に指で数えるほどしかいないと聞くし。
錬金術師なら可能性は高い。
なぜなら……。
悪魔マークの場所まで向かうと、そこには予想通りの人物が立っていた。
あの男、間違いない。
その優男は俺たちの来ることが分かっていたかのように微笑む。
「……久しいな、エルド」
「オルジスタ……!」
世界に一人しかいない『宮廷錬金術師』だ。かなり優秀で、あのカイゼルス王のお気に入り。唯一信頼を置いている側近だな。
ヤツがこんな辺境の地で、こんな森の中をウロついているとは怪しい実験をしていたのだろう。
「いつか会う日が来ると思っていたが、こんなに早く再会することになろうとは」
「おい、お前か! お前がゾンビを作っていたのか!」
「そうとも」
コイツ、アッサリ認めやがった。
ということは……俺たちを全滅させる自信があるってことか。
「ティアナ姫の差し金だろうが、やめろ!」
「やめろ……? エルド、お前こそ何故あんな価値のない村に加担する? ゼルファードはシュヴァルク王国に反旗を翻した愚者の集まり」
「そんな風に言うな!」
「王は頭を痛めているのだよ。だから、せめて苦しみのないやり方で村人を処分しようと配慮なさってくださったのだよ」
懐から怪しげなポーション瓶を取り出すオルジスタ。まさか、あれがゾンビ化する薬ってことなのか。
「それが“元凶”か!」
「そうだ。これは私が解発した新薬。魔王軍幹部スペクターの血を採取して作ったのだよ」
「スペクターだと!」
不死王リッチよりも上位存在で、最低最悪な不死ゾンビ野郎だ。だからこそ、魔王にスカウトされて幹部になったらしいがな。
アイツを倒すのに多くの仲間を失った。
しかも、死体に乗り移って操るわ、融合させてバケモノを作り出すわで散々なモンスターだった。
そのバケモノとなったスペクターに触れられるだけで強制的に融合させられるし……。生きた人間も何人も犠牲となった。
最終的に何十人と死亡し、バケモノの一部となっていたな。
だが、俺はあえて『闇』の力を使いヤツを粉々にぶっ飛ばした。それしか方法がなかったからだ。
「現場に微量だが血が残っていたのだよ」
「お前、それを使ったのか!」
「そうだ。おかげで研究は飛躍的に進み、こうしてゾンビを増殖できた」
「オルジスタ、お前を倒す!」
「倒す? たわけたことを。エルド、貴様に私を捕らえることなど出来ぬ」
「なんだと!」
聖剣アルビオンを構え、俺は突撃した。その次の瞬間には白い閃光が場を包んでいた。……くッ、閃光弾かよ!
錬金術師の一部には、ポーションに爆薬とか仕込んで爆弾ポーションで攻撃したりするヤツもいるが、閃光弾タイプもあったとは……!
気づけば、オルジスタの姿はなかった。
「逃げられましたね、エルド様」
「……くそ! でもこれでシュヴァルク王国の仕業だと分かった」
「はい。さっきの彼、ポーション瓶の回収を忘れていますし」
「お、おい。触れて大丈夫なのか?」
「大丈夫です。わたくし、聖女ですから!」
「……なるほど」
これで“証拠”は手に入った。これはどう見ても錬金術師のポーション瓶。僅かな成分も残っているだろうし、他に錬金術師がいれば分析もできるだろう。
よし、一度ゼルファードへ戻る!




