第14話 NTR勇者のはじまり
久しぶりに昔の夢を見た。
あれは俺がまだ勇者として旅立って半月が経った頃だった。
「……ごめん、エルド」
切なそうにベッドの上で声を漏らす少女。
よりにもよって彼女は知らない中年の男と……。
初恋の相手は――あっさりと寝取られてしまった。
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シュヴァルク王国に辿り着く前。
俺は勇者として魔王の幹部の討伐を進めていた。
パーティは若い女賢者のスクイズ。
ギルドのパーティ募集で知り合った少女だった。
美しい赤い髪。赤い瞳。細身の体なのに目立つほどの大きな胸。これほどの美少女と出会えて俺は嬉しかった。
一緒にモンスターの討伐を進め、苦楽を共にした。
居酒屋では酒を飲みかわし、一緒に魔王を倒そうとまで誓った仲だった。
「スクイズ、君の賢者の力は必要だ。ぜひ最後までついてきて欲しい」
「もちろんよ、エルド。あたし、あんたみたいな勇者様を待っていたんだから」
笑顔でそう答えてくれるスクイズ。
彼女と過ごす時間はとても楽しい。いっそ、恋人になれたらいいのにな。
正直、俺は村を出てからまともな恋愛をしてこなかった。
だからスクイズは初恋の相手だった。
それから村周辺の魔王軍幹部を討伐。
また名声を上げ、これをキッカケに俺の名は大きく広ることになった。そして、スクイズとも付き合うことになったのだが――。
村へ戻り、俺は武具屋へ。
不要になったアイテムを売却しにいった。
その間、スクイズはどこかへ。場所は教えてくれなかった。
まあいい、俺は彼女を信じているからな。
売却が済み、ふと目に入った露店で指輪を見つけた。それを婚約指輪代わりに購入。これを後で渡そう。
宿屋で戻ると気配を感じた。
きっとスクイズが先に――。
「……ごめん、エルド」
え?
てか、この音はナンダ?
「エルドォ? ああ、あの男か。それより、スクイズ……お前がこんな股の緩い女だったとはな!」
「……だって30万ブルも出してくれるっていうから」
――は?
なんだと……?
まさかスクイズは、金につられてあんな汚らしい中年と寝たっていうのかよ……!!
「しかも生娘でこんなヘンタイ女とはな! 賢者なのに!」
「関係ないわ。世の中ね、金なんだから」
「違いねえ!」
ぱんぱんと響く音。
俺は絶望の渦の中に落ちていく。
スクイズ……お前は……。
お前はそんな女だったのかッ!!
付き合うって言ってくれたのは何だったんだよ。
なんで、どうしてだよ!!
脳が破壊されていく。
もうダメだ……。
俺はひとりでシュヴァルク王国を目指すことにした。
その先でティアナ姫と出会い、新たな恋が始まった。まさかお姫様に好きになってもらえるなんて……今度こそハッピーエンドを目指してやる――!
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「うあああああああああああああッ!!」
……夢か。
昔の悪夢を見るとは……。
今日からゾンビ調査と討伐をしなきゃならんのに。
……がんばろう。




