第12話 勇者抹殺計画 Side:ティアナ
上級魔導士が全滅した。
そう報告を受けて、私は眩暈がして倒れそうになった。
これではハルネイドを救出できないじゃない……!
勇者エルド、そこまでして自分自身を……聖女を、辺境の地を守りたいの。
くだらないわッ!
私の幸せは守らなかったクセに!
許せないわ。絶対に許せない。
魔王を討伐しだとか世界を救っただとか関係ない。それはもう終わったこと。
「お父様、今度は私が直接出向きます」
「……ティアナよ、ハルネイドは諦めろ。あの男は運がなかったのだ」
「いいえ、諦めません。ゼルファードを滅ぼして彼を救います。そして勇者を抹殺します」
そう伝えるとお父様は王座を立ち、渋々ながら『勇者抹殺計画』に同意してくれた。
「いいだろう。可愛い娘の頼みだからな……」
「本当ですか!」
「ウム。ティアナよ、上級魔導士が全滅したことは知っておろう」
「はい……」
「つまり勇者を抹殺するには通常手段では倒せぬということだ」
上級騎士も倒され、魔導士すらでも勇者に太刀打ちできなかった。これ以上の戦力はない。ただでさえ、魔王軍との戦いで疲弊しているのだから――。
「どうすればいいのでしょうか?」
「仕方あるまい。……これはまだ実験段階だったのだが、シュヴァルク王国を守る為に開発中の“新薬”があるのだ」
「新薬、ですか」
「我が家臣オルジスタは、錬金術師。ヤツに頼み、不死の軍団を作れぬか聞いてみたのだ。するとすでに実験をしていたのだ」
オルジスタは側近中の側近。お父様は特に絶大な信頼を寄せているようで、魔王軍との戦時では沢山の助言を貰ったり、騎士や魔導士の肉体強化など実験もしていたようだったけど……。
すると奥からオルジスタが現れた。
髪をオールバックにし、眼鏡を怪しげに光らせる男性。外見は20代後半のような顔立ち。けれど確か実年齢は40代とも聞いた。実際のところは分からない。
「不死属性を持つ魔王軍幹部の血を入手できましたので、実験はかなり進みました」
「ほう、オルジスタ。それでどうなった?」
「はい。オークの集落に散布したところ、途端にゾンビ化。オークはゼルファード周辺を徘徊している模様でございます」
「素晴らしい! して、人間にも効力が?」
「今のところは確認されておりませんが……それをゼルファードの村人に向けて実験したい次第です。王の許可さえいただければ……」
と、オルジスタはサラリと恐ろしいことを言ったけれど、それはとても良い案だと思った。そうね、どのみち滅ぼさなければならない辺境の地よ。
あんなところ何もかも無くなってしまえばいい。
そして、住人もゾンビになってしまえばいいのよ!
「お父様、オルジスタのゾンビ薬を使ってみたいです」
「そうだな、ティアナ。どちらにせよ、勇者エルド……いや、裏切者エルドを処刑せねばならん。エルドを匿っているゼルファードも同罪だ」
お父様はオルジスタの新薬使用許可を出してくれた。これで今度こそゼルファードも、エルドもおしまい……!
全員ゾンビになってしまえ!
「ありがとうございます、お父様。愛しておりますわ」
「ああ、ティアナ。任せたぞオルジスタ」
私はさっそくオルジスタと共に実験室へ向かった。新薬を持ち出し、それを更に散布する。こんな簡単なことで勇者を抹殺できるなら最高ねッ!




