5話 村人とタレをつくる。伝統と呼べるほどではないが、なくなるには惜しい味
5話。
…ニンゲンヤメマスカ?
この村にきてから早5日が経とうとしていた。
「トナスさん、モブブの花とってきました」
「セイゴくん、それはモブブじゃなくてリグリの花だよ
でもとってきてほしい花はそれだからいいんだけれど」
「俺、名前覚えるの苦手なんですよ
でも見たものはすぐ覚えられるんで」
「ははは、まああってるからいいよ!」
村に転がり込んだ次の日には
すっかり回復した俺は
村の外で薬草を摘んだり
アヒルのような鳥、アフォの捌き方を教えてもらったり
アフォを秘伝のたれで焼いた料理を教えてもらったり
そいつで地酒を一杯やったりと
転生前よりめちゃ充実した村人ライフを送っていた。
あ、草のコップに入ったおしっこポーションを
腰を悪くした村長に飲ませてあげたのも
この村でのポイント稼ぎにもなったようだ。
そもそもあれを飲めば疲れなんて吹き飛んだのよ?
とはルナの言葉。
なんか忘れてたんだ。
嘘です、なんか時間たった尿って飲みたくなかった。
とはいえ
腰痛に苦しんでいた村長はえらく感謝して
空き家まで貸してくれた。
俺もうこの村の住人だな。
「住人だなじゃないわよ」
「なんで?」
「なんでって
あなたは改造勇者13号なのよ?」
なんだその不穏なワードは…
まえにも聞いた気がするが。
「あなた神様から聞いてないの!?」
聞いてないな…
なんでもこの世界で1000年に一度
【厄祭】と呼ばれる
魔障界からの浸食があり
それに対抗できないと人類が滅亡するらしい…
正しくは、魔障界とこの世界が融合し
結果、魔障の毒で人類が虫のように
バッタバッタと死んでゆくのだ
俺はショウリョウバッタが好きだ
閑話休題ー
でその【厄祭】に対抗すべく
この世界の神様が頑張って地上に干渉し
3人の巫女を遣わすらしい。
で、その巫女さんが【神祭】って儀式を
して【厄祭】を相殺するんだとか
神祭で厄祭を相殺って
韻を踏んでるな
まあいい…
でもその巫女を狙うのが
魔障界から魔障の穴を通ってこの世界に顕現する
魔人なんだとか
数こそ少ないが人間なんかよりはるかに強力な奴ららしい
でもこの世界の神様は巫女を遣わすだけで
息切れ状態だ
なので上位次元である地球の神様に強い魂レンタルして
肉体改造した現地人にぶっこみ勇者として
巫女を守らせるんだとか
「で、地球の神様レンタル枠MAXまで貸してくれて
あんたが最後の13人目」
「俺、最後」
「そ、最後」
すでに先ナンバーの勇者たちが魔人倒したり
巫女の護衛についてるから
まあ、俺は補欠枠ってところか
「とはいえ補欠だからって練習サボっていいわけにはいかないでしょ?」
「補欠なら練習サボるだろ」
「ま、負け犬…あんたなんで勇者になれたの?
レジェンドスキルもらった?」
「いや、爺の股間に張り付いたドラゴンの向こう側から
ポテンシャルスキル・シナモンブレイカーをもろうた」
「…何言ってんの?
私の受けたお告げと違うんだけれど」
どうもルナが神から受けた告げだと
13番目の勇者は直接攻撃力はないが、強力なサポートスキルを持ってくるとのこと
妖精はそういうふうに神様からのお告げを受け、勇者が顕現する場所に
まちぶせるんだとか…
「待ち伏せとか嫌な言い方言わないで」
いいじゃないかまちぶせ…なんか告白しそう。
「悪かったよ…でも本当のことだぞ、ジジイの股間に小さなドラゴンが…」
「あー…ちょっとまって
なんか、えっと、伝承で聞いたことある」
どうやら
まれに魂の形が歪んでいて
聖域での認識がうまくいかないヤツがいる事があるそうな
「するとなにか、神様はまともにやり取りしていたのに
俺だけがお薬キメてサイケでマイムマイムな夢を見ていたってのか?」
「サイケでマイムマイムはわからないけれど、そういうことになるわね」
「じゃあ、おれの本当のスキルは何なんだ?」
「それは…大聖都に行かないと分かんないわね」
大聖都?なんそれ?
「次の目標が決まったわね…」
きりっと青空を見上げるルナだったが
おれは大聖都がどこにあって何をすればいいかわかんないので
そういうのを共有してから、一緒にキメ顔したかったなと思った。
気づいてしまったよ、自分の空っぽさに。
これは小説じゃなく箱庭テストのようなものだ。