4話 汝ニンジンを愛せよ?それは無理な相談だ
4話…
おいおいもうギブアップかい?
「ついた」
「ついたわね」
俺たちは村についた
5時間歩いた
足が棒だよ棒は固いよ固いは親父の腕っぷし…
もう疲れてまともに考えられない。
「さあ入りましょ!」
ルナ元気
なぜなら俺の頭にずっと乗ってたから
俺の頭の上で枝に引っ掛けたパンツを乾かしていたから
でもパンツをはいていない妖精が頭の上に座っていたから
俺は頑張れたんだ
俺は変態だから…
「俺は変態だから」
「わかったから入りましょ」
村は簡素で質素で、もうぼろい柵に囲まれた
木造の家が15棟くらいのちっさい村だった
あとアヒルみたいなのが結構いるのが柵の隙間から見えた
「あ、あひる?」
「あほ」
「なんだと?」
「あ、違う違うあの鳥がアフォっていうのよ
別にあんたのことじゃ…ブブッ」
「お前おまえおまえー」
「いいから早くはいるー」
ペシペシと頭をたたかれ
ぼろい村の入口へ行く、俺!
「開けてください!!」
ドンドンドン!!
「ちょ、なにやってんの!もっと穏便に!」
「もっとウォンビンに!?ヨモニ開けてくださーーーい!!」
ドドンドンドン!
なんだなんだという声とともに
数人の男たちが農具を武器に門から出てくる。
「なんだおまえら!」
前歯の欠けたでっぷりとしたおとっつあんが
フォークのでっかい奴を手に怒鳴りかけてくる。
「なんだおまえー大声出せば俺が引くと思ってんのか!」
「ちょっと!」
もはや小さいながらも、肘で全力エルボーをげしげしかましてくる
ルナを無視しおれは続ける。
「疲れたんだよ!足が棒だよ!助けてよ!優しくしてよ!!愛してよーーー!」
気づけば俺は泣いていた。
おれ、異世界にきて心細かったんだな。
ルナがいてくれたけれど、なんか質量的に小さかったし。
おれは前歯が欠けたでっぷりとしたおっさんにしがみつき
赤子のように泣きじゃくった。
誰でもいいから抱擁して愛してほしかった。
「おい…遭難して混乱してるみたいだぞ」
「とりあえず入れてやっか…」
他の村人がなんか言っているけれど
俺の意識はすでに沈んでゆく途中だった…
どれくらい眠っていたのだろう
気づけば俺はわらのベッドで横になっていた
「あ、目が覚めたようね」
近くの家具に腰掛けていたルナがせわしない羽音で寄ってくる。
「ここはどこだ…おれは誰だ?」
「えっ!?まさか記憶が」
いや、俺はセイゴで異世界に転生したことは覚えている
そういうことではなく、今俺を観測しているもう一つの視点の俺は
果たして本当に俺といえるのだろうか?もしかしたらその意識体的な俺というのは
宇宙にもリンクしており、いずれアカシックレコードにもつながる可能性もあるのでは?
ということを説明したら
「あっそ」
の一言で片づけられてしまった。
まったく、学術的センスのない妖精である。
と、その時
薄暗い部屋のドアから、なにか見かけたような前歯の欠けたデブのおっさんが
入ってきた。
「気が付いたか」
手には水と黒くて硬そうなパンがあった。
おれは軽く会釈する
こういうのって日本人的だな…
しみついた日本人の卑屈っぽい動作に
自分で辟易しながらも俺はおっさんに手渡された
パンと水にがっついていた。
「はは…そのパンはゆっくり食わんとのどに詰まるぞ」
「ホンハホトハイハロ」
「食べるかしゃべるかどっちかにしなさいよ!
トナスさんすみません…」
「いいさ」
このおっさん、トナスという
そしてここはトナスの家で、疲れで気絶した俺を養生してくれていたみたいだ
いいやつだなトナス。
「ありがとうトナス」
「呼び捨て!」
「ははは、いいよルナちゃん」
水とパンを食った後
俺はお砂糖たっぷりのロイヤルミルクティを要求したが
「ろいやる…なんだいそりゃ」
とのことで、まあ森にへばりついている小さな村じゃあ
そんなのあるわけないか、早く俺なんかにも優しい性格のいい貴族とのコネ作んなきゃな
なんて思って留飲を下げていると
「あんたねー、ろくなこと考えてないでしょ」
とルナが俺の生存戦略にケチをつけるようなことを言ってきた
失敬な奴だ。でも頭の上に載っていたぬくもりを思い出し笑顔を返す
「キモイ」
ちっ…
「ところでお前さんたちどこから来たんだい」
トマスがいうにはこんなところで遭難するのは
ここらの人間じゃないだろ、とのこと
なんでも西にはイソ・ジンの街
東にはルイ・ジンの街
その中間地点にこの村があり、さらにこの村と街との中間には
それぞれ旅人用の小屋もあるとのこと。
「あった?」
「えっと…気づかなかったかも」
俺もルナも小屋に気付かずぶっ通しで歩いてきてしまっていた。
「まあ小屋にも気づかず、くたくたになってたってことで
ここら辺のもんじゃねえなって分かるわけだ」
なるほど。
「で、ルナ
俺はどこから来たってことにすればいい?」
「そうね森を北に抜けたところに確か、ヒルマデって街があったから
そこの出身ってことにしましょ。あっ、身分証はゴブリンに追いかけられて落としました」
そういって二人でトナスをじっと見る。
「おい…わしはなんていえばいいんだ?」
「じゃあ私の言ったことを復唱して。
(ヒルマデから来たのか、大変だっただろう
まあ体が回復するまでゆっくりしていきな!
おっと、もちろん元気になったら
村の手伝いはしてもらうぜがっはっはっ)
はい!」
「え…あー…すまないもう一度言ってくれ」
「おい、ルナ
トナスのおっさんえらく純粋だぞ」
「そうねトナスさんとってもいい人だわ
きっと大自然の太陽を浴びてのびのびと育った
トマトとナスみたいな人なのよ」
「村人の鏡だ」
「わしは…ほめられているのか?」
「あたりまえだろ、トナスさん
俺安心したらまた眠くなってきました
続きは明日ってことでいいですか?」
「あ、ああ…すまなかったね
ゆっくり休んでくれ」
「ありがとうトナスさん」
「お世話になります」
こうして村のよき人に出会えた俺たちは
ちょっとチクチクする藁のベッドで二度寝を決め込んだ
今何時かなんて知らんよ、とりあえず
もっかい寝てから考えるおやすみ…
トッポギ丸大ハムのオヤジが
チュロスを売ってたんだ…そう、俺の父親だったんだ。