9話 イカ殺し塩辛の地獄-精霊の風を添えて-
9話です。
今回はちょっとだけ長めです。
↑なろうでよく見るこういうの言ってみたかった
俺たちは木賃宿で二日間過ごした。
寝て起きて風呂に入り、しばらくしたら
また風呂に入った。
風呂に入るたび知性が湯に溶け出してゆくようだった。
最終的には俺たちは風呂に入ってはぐったりするだけの
恐るべき呼吸するごみになっていた。
燃料はワインである。
前言撤回しよう、ワインを尿に変えるゴミであった。
どちらにしろゴミか…
しかし自虐はここまでだ。
なんせルナのションは最高級ポーション!
これを俺たちは道具屋に売り
なんと金貨2枚を手に入れた!
地球の貨幣価値で20万円である。
「これでしばらくここにいられるわねー」
「またワインが飲めるなあー」
木賃宿の一室でゴロゴロしながら
どろんとした目で金貨を弄ぶ俺たち。
まるでアヘン窟か何かである。
このままじゃいけない、頭の隅で警報はなれども
その警報に従うだけの理由が見つからない。
また次の船に乗ればいいじゃない。
どうせ苦労するんだから今だけ許されるだけくつろげばいいじゃない。
俺じゃなくても巫女さんは守れるし、俺補欠だし。
だから今だけ…
そう思っていると頭に直接声が鳴り響いた
「改造勇者集合!大聖都へ集合!」
ピリッとした若い男の声だ。
はぁ、動くきっかけができちまった…
俺のバカンスもここまでか。
俺だって心底ダメ人間じゃあないんだよ
きっかけさえあれば動けるんだ。
「ルナ、おいルナ寝るな」
「ふぇ?」
寝ぼけ眼の妖精をつまみ頭に乗せると
俺たちは船着き場へ向かった。
船着き場には結構大きな帆船が三艘に、小さな船がごちゃごちゃと停まっていた
しかしでかいなワビタマ湖
まるで海みたいだ。
「さあさあワビタマ湖向こう側、大聖都への道へはこの船だよー!」
口ひげを生やした小太りのおっちゃんが船の案内をしている
どうやらあの船のようだ。
「おっちゃん、大人一人妖精一匹」
「あいよ…って妖精連れ?もしかして勇者様かい?」
「ああ、13人目らしい」
「ちょっと失礼…」
そういうとおっちゃんはぴょんと跳ねて
俺の後ろ首筋あたりをのぞき込む
「ああ確かに13番目のようだね」
ちょっとまて俺の首筋になにかお絵描きされているのか?
「勇者様は首の後ろにアピタ文字で番号が描かれているんだ
知らなかったのかい?」
たぶん知っているけれど俺に伝えていない妖精が
頭の上ですやすや眠っている。
あとでちくちく愚痴ってやろう。
そして泣きそうになったら優しくなでてやるか。
そして勇者様からは船賃は取れないとのこと。
やったぜ!
「しかしあれだね、勇者を語ったら船乗り放題じゃん」
明太子食べ放題なみにうれしい
船に乗った俺たちは二番目にいい部屋に案内され
くつろいでいた。
渡航は順調のようだ。
「妖精を連れている人間なんてめったにいないし
ばれたら死刑よ、リスキーすぎてやらないわよ」
そんなもんか
「なあ、向こうに着いたらもっかいこっちに渡ろうぜ」
なんせ無料だからいっぱい乗らないと!
「…何のために船乗ってるか忘れたの?」
そうだった…ああ
己には理由があったんだ
「聲が…聞こえたんだ」
俺は流れてゆく時間を波に乗せ、やや斜めに首をかしげながら
アンニュイさをブレンドした流し目でルナを見た。
ああ、船と勇者って相性いいよな?
絵になるだろ?
そんな問いかけは心にしまって
ひたすらルナの反応を待つ。
時若干冷めた視線に耐えていると
ルナが問う
「どんなこえー?」
棒読みだ。
「大聖都へ改造勇者、全・員・集・合」
ふっ、と笑いルナに向け、
使命感を帯びた俺の瞳を向ける。
「じゃあ折り返したらだめでしょー」
「それもそうだな」
俺は再び窓に視線を向ける。
魚いないかな・・・
「あたし寝るねー」
「ああ、お休み」
俺も寝るか。
幸い船は揺れも少なく、ぐっすり眠った俺は
夜に目を覚ましてしまった。
おしっこして
また眠るまでごろごろするか。
ふと俺ってダメ人間だな-と思ったが
思ったところで変えられないし変える強制力もないから
まあいいかな。
とぼとぼと薄暗い船内を歩き共用トイレで用を済ませて
再び自分の部屋へ戻る途中…
「…ではかぼちゃの中身を」
「ああ、大聖都の羊たちに召し上がっていただこうではないか」
なんだ、こんな夜中にまで
レシピの考察をするクッキングバカがいるのか?
通りすがりの部屋からそんないかがわしくもなんともない話声が聞こえた。
「っ!」
「誰だ!」
バンと扉が開かれる
中からは黒いローブを着た若い男女が出てきた。
肌が青白い、なんか二人とも銀髪で釣り目で三白眼だ。
「なんだこらー、俺のパジャマにモンクあんのか!?」
俺は男につかみかかった。
「ちっ、何でもない、早くいけ…」
面倒くさそうに俺を振り払った男は、女とともに部屋に戻っていった。
なんか見た目が怖いから、寝ぼけたふりをして
そそくさと部屋に戻りルナを起こす
「おい、ルナ起きろ」
「うーん、まだ夢見る妖精でいさせて…」
こいつ…俺の頭の上で寝て、船の中でも昼から寝て、どんだけ寝るんだ。
「おい、早く起きないないと魔人が来るぞーー!」
「ふえっまじん!?」
「ははは、ようやく起きたかこの寝ぼすけ姫さん」
「もー、起こすのには早いわよ、マイプリンス…」
まあ冗談はこのくらいにして
おれはおしっこの帰りに羊にカボチャを食わせる計画を耳にしたことを話した
「なにそれあんたが見た夢?」
「俺がそんな優しい男に目るか?
たとえ夢でもあんな怖い目をした有蹄目に
カボチャなんかやるわけないだろう」
『クラーケンだーーーーっ!』
甲板からだろう声ととともに
船全体に警鐘が鳴り響く!
「おいおい、ここは湖じゃなかったのか?なんで海の悪魔がいるんだよ」
俺はパジャマままで、一番強そうなモップを手に戦闘準備していた。
このモップはなんか黒光りして、時代がかかっていていい。
きっと何人もの船乗りたちの手あかと潮風を吸って今、ここにあるんだろう。
勇気がわくぜ。
「甲板に出ればわかるわよ、クラーケンはクラーケンでも…」
たったったっ
軽快なステップで甲板への階段を駆け上がり、
下から押し上げ、かぱって開く木の扉を開けると
「うわっまぶしい!!」
イカ釣り漁船よろしく甲板は真っ白な光に包まれていた!!
「ホタルクラーケンよ」
ようやく目が慣れてくると船のヘリから140センチくらいのイカが
うようよと登ってくるではないか!
それも全身をまぶしく光らせて!
「下からくるぞ、気をつけ・・・うわーっ!」
誰かが叫んだ。
いまだに甲板はまぶしくて全体を把握できない。
「気を付けて、セイゴ!
ホタルクラーケンは強力な発光器官で目をくらまし、相手を捕食するの!」
なんてことだ、夜の太陽の元
繰り広げられるはイカ釣り漁船と真逆の地獄!
捕食者はイカ、ご飯は俺たちだ!
「こいつらくえるのか!?」
「くえるわ!」
俺は最も重要なことを聞き、強くモップを握った。
「今、闇の精霊にナシを付けたから薄い闇魔法を目の周りにかけるわ!
光はかなりおさえられるはず!」
「助かる!」
ルナが何かごにょごにょ言った後、ちょうど視界がサングラスをかけたようになる
見える、見えるぞ!
奴らの姿はまんまホタルイカを140センチに巨大化したような姿だった
きめえーーー!
巨大なイカって気持ちわるい!
「だがおれは許すわけにはいかな、イカはいつだって俺たちの食糧!
しおからーーーー!」
俺は渾身の力を振り絞ってホタルクラーケンにモップをたたきつけ
バキっ!折れた!
「くそっ、ルナ!もっと強いモップはないか!?」
「ごめんなさいモップはないわ、でも精霊の力が宿ったミドルソードなら
亜空間倉庫にあるわよ?」
「ちっ、それでいい出してくれ」
「らじゃっ!」
それは黄金に輝くミドルソードだった。
こいつはいい、きっと幾千もの精霊たちの手垢と精霊風にさらされてきたに違いない…!
まったく、ロマンのやろう
どこまで俺をワクワクさせる気だ!
「沖漬けーーーーーー!」
振りかぶると
フユン、という音とともにイカは真っ二つになった。
「ルナ、これいいな!」
「いいでしょ!」
俺は演劇の殺陣よろしく
バッタバッタと、もうショウリョウバッタも河原に逃げ出す勢いで
イカどもを叩っ切った。
イカたちは生命活動を停止し、
それに伴い発光も収まってゆく
やがて甲板は本来の宵闇を取り戻す…
「やったわね…って何やってるの」
「今度は暗くてよく見えないんだ…闇の魔法を解いてくれよ」
「あっ、ごめんごめん」
甲板にはイカの死骸が812匹も転がっていた。
いや、さすがに盛りすぎた
12匹です。
それにしても…
「くっせーーーー!イカくせえ」
そう、俺が真っ二つにしたばっかりに
イカの内臓が散らばり、塩辛をぶちまけたようなにおいが広がっていた。
「食べるの?セイゴ」
「なんか食欲失せたわ、あとは船の人たちがやるでしょ」
「でも船の人たち結構さらわれちゃったみたい」
甲板では乗組員が生存確認のための点呼を行っているようだが
8人ほどホタルクラーケンに海に引きずりこまれてしまったようだった…
「海って残酷ね」
「そうだな」
俺たちは強烈な臭いの中、目立たぬよう静かに自室に戻ろうとした。
自室の扉に差し掛かったころ、通路で、出会ってしまった。
あのクッキンバカブラザーズに。
「おい」
ちっ、男のほうが声をかけてきた
どうやらロマンはグルメまで連れてきちまったみたいだ。
昔は嫌いだったんだ
塩辛と明太子。今は大好きさ!




