78 洋上の迎撃
お茶を飲み終えた夏希は、あとのことを拓海に任せると、アンヌッカを伴いランクトゥアン王子に従って海岸へと赴いた。
砂浜から小船に乗り込んで、沖合いにいる艦隊に向かう。
「とりあえず旗艦へどうぞ。戦闘時には、高原弓兵が乗り込む民間徴用船で指揮を執ってもらいますが、よろしいですか?」
「それで結構です、殿下」
ランクトゥアンの言葉に、夏希はうなずいた。
旗艦に乗り込み、小さな船室に案内された夏希とアンヌッカだったが、腰を下ろす暇もなく士官が現れ、王子が甲板で呼んでいると告げられる。いぶかしみながら甲板への梯子を昇った二人に向け、王子が海上の一点を指差した。
「あれは、お連れの魔物ですかな?」
夏希は驚きに目を見張った。ユニヘックヒューマの小さな姿が、海の上を歩んでいたからだ。いや、その速さはむしろ走っているに近い。
「……竹馬?」
夏希は眼を凝らした。どうやら、例のステッキを竹馬にして、それに乗って走っているらしい。速度は……時速三十キロ程度だろうか。みるみるうちに近付いてくる。
「水の抵抗とか、凄いと思うんだけど……悩むだけ無駄か」
舷側までたどり着いたユニヘックヒューマが、動きを止めた。とたんに、竹馬がするすると伸び、甲板を越える高さまでユニヘックヒューマがエレベーターのごとく滑らかにせり上がってきた。手すりを飛び越えて甲板に降り立ったユニヘックヒューマが、竹馬をつかむ。二本の竹馬はすぽんと縮まり、彼女の手の中で一本に結合され、いつものステッキに戻った。
「ご指示通り追いかけてきたのです、夏希様! これは王子殿下、お久しぶりなのです!」
ステッキを振り回しながら、ユニヘックヒューマが挨拶する。
拓海は二万名の予備隊を三分割し、七千名ずつを東側および西側で攻勢を続ける部隊への増強として送り、ランクトゥアン艦隊に引き抜かれた兵力の穴埋めとした。残る六千名は、最終予備として手元に置く。
意外に難航したのは、高原弓兵の抽出だった。生まれて始めて海という膨大な量の水を見た彼らは、誰も外洋船に乗りたがらなかったのだ。拓海はベンディスに頼み込んで、なんとか人数を集めようとした。引き受けたベンディスが取った策は、なかなか巧妙であった。大勢の高原弓兵が見守る中で、妹のリダに参加宣言をさせたのだ。誇り高く勇敢な高原戦士にとって、まだ少女と言える年頃の女性戦士が参加するというのに、自分たちが尻込みするのは、耐え難い屈辱である。たちまちのうちに、三千人の参加枠は埋まった。その指揮は、そのままベンディスが執ることとなった。
拓海は、前線部隊に対し攻勢を弱めるように通達を出した。このまま無理に攻め続けても、損害が増えるばかりで敵は音を上げないと判断したのだ。ランクトゥアン王子の作戦が上手く行けば、ごく少ない被害だけでシェラエズ王女を屈服させることができるはずだ。
「攻勢が弱まったか。何か策を講じるつもりか、あるいは諦めたのか」
シェラエズ王女は思案した。
「ランブーン。小船の準備はどうか」
「順調です。南の陸塊にしては豊かな都市ですな、ルルトは。十分な量の油が集まりました」
笑顔で、ランブーン将軍が答える。
撤収船団の入港および出航時が、もっとも危険であるとシェラエズは懸念していた。そこで凝らされた工夫が、小型の漁船を徴用し、植物油脂や薪を満載して、奴隷兵士に操らせて敵船に体当たりさせる火船の準備であった。体当たりに失敗しても、火船がいるだけで敵船はルルト外港に近付くのをためらうだろう。ちなみに、火船に乗る奴隷兵士は任務終了後は奴隷身分から解放し、敵に降伏することを許すつもりであった。
「あと一日か」
早ければ、あさっての夜明け前くらいには、第二次撤収船団が現れるだろう。そこまで持ちこたえれば、タナシス本国に帰還できる。
「凄い数ね。まさに大艦隊だわ」
あたりを見渡しながら、夏希は驚嘆した。
前方をゆくオープァ海軍、ルルト海軍、東部海岸諸国合同海軍の艦艇は総計三十隻はいようか。後続する徴用民間船舶は、二十数隻。これだけ多数の風を孕んだ白い帆が大海原を滑ってゆく光景は、壮観としか言いようがない。
夏希が乗り込んでいたのは、ルルト船籍の大型商船であった。全長は、三十メートルを越える。乗員は、三十名ほど。もちろんこの他に、戦闘要員としてオープァの市民軍と高原戦士が合計二百名以上乗り込んでいる。
昨日の曇天とは打って変わり、今日の天候は快晴だった。懸念されたうねりもなく、海は穏やかである。今のところ、ユニヘックヒューマのジュースの出番はない。
ランクトゥアン王子の計画では、今日の午後半ばにタナシス第二次撤収船団と接触、交戦の予定である。艦隊は待ち伏せを掛けるために、会敵予想海域へと急いでいた。
「問題は、敵船団が予定通りの行動を取ってくれるかですが……」
アンヌッカが、語尾を濁す。
「そうね」
出航時刻が多少遅れるくらいならばいいが、予定コースを意図的に、あるいは不可抗力で外れたりすれば、会敵できないおそれが生じる。もし取り逃がせば、何の妨害も受けずに撤収船団はルルト海港へと入り込んでしまうだろう。出航時には捕捉できるだろうが、その場合の主動は敵が握ることになる。帆船で港を長期間に渡って封鎖し続けることは困難である。隙ができれば、軍船を後衛に使う形で脱出を図り、わずかな犠牲だけでタナシス側は逃げおおせてしまうだろう。ルルト解放という目的は達成できても、それでは勝利とは呼べぬ。
昼過ぎに、ランクトゥアン艦隊は会敵予想海域に到着した。
王子は艦隊を三つに分割した。足の遅い民間船をその場に待機させ、主力艦隊をやや北方に置く。撤収船団は、北東から南西方向へ向け進んでくるはずである。その退路を断つのが、目的である。特に足の速い小型の軍船は、広く散開させて北東方向に進出させて、哨戒にあたらせる。撤収船団の針路が予定とずれていた場合に備えてのことである。
準備を終えた夏希は、甲板に張られた日除けの下で、敵発見の報を待ち受けた。ちなみに、革鎧はまだ身につけていない。陸戦と違い、会敵してから実際の戦闘に突入するまで結構余裕があるので、暑苦しく体力を消耗し易い防具は直前まで付ける必要はないのだ。
夏希は竹竿を持参するのを忘れていたが、たいていの船には船の補修を始め様々な用途に使える予備の木材などが積載されており、その中には竹束も含まれていたので、握り易そうな一本をそこから拝借してきてあった。
「あ~、なんか胃が痛くなってきたわ」
夏希は腹をさすった。撤収船団の指揮官が、心変わりして別の針路を採用したら。あるいは出航が丸一日遅れたら。ひょっとすると、予定を早めて船団はすでにこの海域を通り過ぎてしまったかも知れない。地下組織が手に入れた情報が最初から間違っていた、それとも、そのあとで航海の計画が変更された可能性もある。
「日本海海戦の前のアドミラル・トーゴーの幕僚のような気分ですね!」
ユニヘックヒューマが、言う。
「どうしてそんな話知ってるの?」
「魔物ですから! と言いたいところですが、以前に拓海様に聞いたことがあるのです!」
じりじりと時間が過ぎる。夏希は胃の痛みに効くかと考えて、ユニヘックヒューマのジュースを一杯もらって飲み干した。
と、急に甲板上が慌しくなった。船員が走り回り始める。
夏希はメインマストの上を見上げた。見張り台に立つ水夫が、望遠鏡で北東方向を熱心に観察している。
「旗艦からの合図です、夏希様。敵を発見したとの一報です」
駆け寄ってきた高級船員が、早口で告げると、すぐに走り去った。
「情報は正確だったようですね」
アンヌッカが、微笑んだ。
「タナシス船団の航法の腕の良さと時間の正確性にも感謝しましょう」
夏希も笑みで応じた。胃の痛みは、きれいさっぱり消え失せていた。
ランクトゥアン王子は、敵船団予想針路のずれに合わせて、民間徴用船舶群に西への航行を命じた。同時に自ら率いる主力をいったん北に向かわせ、敵に視認されないまま背後に回りこもうとする。
一方、南の陸塊連合海軍の警戒船を視認したタナシス船団は、戦闘態勢を整えつつ従前の針路を維持した。発見された以上、一ヒネでも早くルルト外港に飛び込むのが、最も優れた安全策だからだ。だが、その針路前方に、二十六隻の連合海軍船舶が立ちはだかる。
タナシス船団を率いるのは、第一次撤収船団を指揮したヤンバス将軍である。戦力は、軍船十一隻と、新たにラドーム公国で徴用した数隻を含めた輸送船七十七隻。船の数は多いが、輸送船のほとんどは航海要員しか乗り組んでいない。目的はルルト市に立てこもっている兵員の撤収なのだ。往路に陸戦要員を乗せる余裕はない。
ヤンバス将軍はすぐに補佐役の意見を聞いた。陸戦の指揮には自信があるが、海戦の経験はほとんどない。
「見たところ、敵はすべて商船です。速度は遅いはず。ここは強行突破しましょう。幸い、追い風です」
補佐役は、そう進言した。
「そうしよう」
ヤンバス将軍は、前進全速を命じた。軍船を前に出し、輸送船の盾とする。
タナシス軍船が、五隻と六隻の二隊に別れ、こちらに船腹を見せる。
連合海軍側各船は、そこへ果敢に突っ込んでいった。接近した各船から、火矢が飛ぶ。タナシス側も射返す。たちまち、数隻で炎があがった。水夫が走り回り、海水を掛けて消火に勤める。
見守る夏希のそばにも、火矢が突き刺さった。夏希はあらかじめ甲板上に用意されていたタライから桶で海水を汲むと、燃え盛る火矢に引っ掛けた。駆けつけた水夫たちも、桶で水を掛け始めた。火矢は、通常の矢よりも金属製の鏃部分が長く、そこに一部を樹脂で固めた布を固く巻きつけ、植物性油脂を浸み込ませたり塗り込んだりしたものである。
さらに連続して、甲板に火矢が突き立つ。帆にも突き刺さり、いくつもの炎が上がる。
夏希はアンヌッカとともに水を掛け続けた。実際のところ、よほど多数の火矢を一度に打ち込まれない限り、帆はともかく甲板や上構が炎上することはない。むしろ乗員を消火活動に悩殺させて、その戦闘力を抑制するのが、火矢攻撃の一義的な目的である。
比較的小型で足の速い何隻かは、すでにタナシス軍船に近接し、焙烙攻撃に移っていた。小さな陶器の壷などに、焼夷性の物質……たいていは植物性の油脂類だ……を詰め、火を点じて、あるいはそのまま敵船へと投げ込む攻撃方法である。多くの場合、投擲距離を伸ばすために、ハンマー投げのように一メートルほどの丈夫な紐が取り付けられており、投擲手はこれを頭上などで振り回してから投げる。甲板に落下、あるいは船上の構造物にぶつかった焙烙は衝撃で砕け、火矢とは比べ物にならぬ量の焼夷物質を撒き散らすので、その効果は火矢十本分にも匹敵しようか。
こちらの船に近接され、タナシス側軍船が陣形を乱した。双方の何隻かで、火の手が上がる。接舷戦闘も開始された。敵船に乗り移り、あるいはこれを迎え撃って、槍や剣で戦うのだ。
夏希の乗る船も、一隻のタナシス軍船に狙いを定めて、焙烙攻撃に移った。十数個の焙烙が飛び交い、甲板に炎が踊る。
「接舷するぞ! 掴まれ!」
高級船員の一人が、怒鳴る。
夏希は桶を放り出すと、手すりを握り締めた。
どん。
甲板に、衝撃が走る。ルルト船は、一回り大きなタナシス軍船に接舷した。
夏希は手すりに縛り付けてあった竹竿を急いで回収した。長剣を抜いたアンヌッカが、走り寄ってくる。
敵の方が大型なので、甲板の高さも若干高い。そこから、タナシス兵が続々と飛び降りてくる。得物はほとんどが、ちょっと中国風の長柄刀だ。船上では、槍などの長物はかえって使いづらい。
手槍と鉈を手にした高原戦士たちが、すかさず前に出てタナシス兵に立ち向かう。数は高原戦士たちのほうが多かったが、船上の戦いに慣れていないために、苦戦する。揺れる甲板の上では、慣れないと激しい動きをしただけでもバランスを崩しかねないのだ。
高原戦士一人を屠ったタナシス兵が、やや離れたところで待機していた夏希に眼を留めた。長柄刀を振りかざし、駆け寄ってくる。
夏希は身構えた。竹竿を水平に持ち、突きの体勢に入る。
すかさず、アンヌッカが前に出た。タナシス兵に、上段から斬りつける。
長柄刀と長剣が切り結んだ。夏希は竹竿で突くタイミングを計った。
いったん剣を引いたアンヌッカが、再び斬りつける。受けたタナシス兵のがら空きになった脇腹を目掛け、夏希は竹竿を突き入れた。
タナシス兵が、憤怒の表情で夏希を睨む。連環鎧越しでも、今の一撃はかなり効いたはずだ。ひょっとしたら、肋骨の一本くらい折れたかもしれない。
再び斬りつけたアンヌッカの剣を払ったタナシス兵が、夏希に向け踏み出した。夏希は身構えた。叩き合いになれば、竹竿は一撃で折られてしまうだろう。タイミングよく突きを繰り出し、前進を止めねばならない。
いまだ。
夏希は渾身の力をこめて突いた。狙いは少し外れ、タナシス兵の左胸に竹竿の先端が当たる。
半身となったタナシス兵が、無理やり右手の長柄刀を振るった。夏希は急いで腕を引いたが、間に合わなかった。長柄刀の先端が、夏希の左手前腕部手首近くを切り裂く。
鋭い痛みとともに、鮮血がぱっと散る。夏希は痛みを無視して、必死に竹竿を再度突き出した。これ以上近接されたら、殺られる。
竹竿の先端が、タナシス兵の胸を突く。振るわれた長柄刀が、竹竿を叩き折った。
「死ねっ!」
タナシス兵の背後から、アンヌッカが気合とともに長剣で斬り付けた。無防備だった首筋に、刀身が滑る。一瞬だが、鮮血が水鉄砲のように勢いよく中空に噴き出す。
夏希は身を引いた。タナシス兵が、前のめりに倒れる。手から落ちた長柄刀が固い甲板に落ち、がらんといううつろな音を立てた。
「夏希様!」
周囲を警戒しながら、アンヌッカが夏希に駆け寄った。
「大丈夫」
夏希は折れて短くなってしまった竹竿を左脇に挟むと。懐から取り出した布を右手に持って傷口に押し当てた。生成りの布が、見る見るうちに赤く染まる。
「状況は落ち着いたようです。手当てしましょう」
長剣を甲板に突き刺し、いつでも手に取れるようにしたアンヌッカが、自分の懐から布を取り出した。
夏希は頭をめぐらせた。他の味方の船が、敵軍船に接舷したらしく、戦況はこちらの優位に思えた。乗り移ってきたタナシス兵は、いずれも自分の船に戻るか、高原戦士に斬り倒されてしまったようだ。
「痛みますか?」
「かなり」
夏希は出血時の手当ての方法を思い出し、甲板に座り込んで左腕を上げ、傷口が心臓よりも高い位置になるようにした。鋭い痛みは弱まったが、代わりに生理痛を思わせる身体に響くような鈍く重い痛みが強まっている。アンヌッカに促され、夏希は傷口に当てていた布を外した。すかさず、アンヌッカが布を押し当てる。
「だいぶ出血がひどいですね! お手伝いしましょう!」
とことこと現れたユニヘックヒューマが、夏希の左上腕部にどこからともなく取り出した紐をきつく巻きつけた。
「ちょっと傷を見せてください!」
ユニヘックヒューマに要求され、アンヌッカが当て布を外した。
「骨には達していませんが深い傷なのです! これは縫った方がいいのです! まずは消毒です!」
ユニヘックヒューマが、夏希の左手をつかんだ。止める間もなく、それを自分のスカートの中に潜り込ませる。
夏希の左手に、液体が掛かる感触が伝わった。……ユニちゃんのジュースだ。
「では、縫うのです! アンヌッカさん、手伝ってください!」
アンヌッカが、ユニヘックヒューマに指示されるままに夏希の左手を支え、指で傷口を閉じる。針と糸を取り出したユニヘックヒューマが、そこを器用にちょこちょこと縫い合わせた。
「上手いわね、ユニちゃん」
痛みを堪えながら、夏希は褒めた。
「やり方は、コーちゃんに教えてもらったのです!」
縫い終えたユニヘックヒューマが、新しい布をくるくると夏希の前腕部に巻きつける。いまだ出血は続いていたし、痛みもひどかったが、とりあえずこれで死ぬようなことはないだろう。
「アンヌッカ、状況は?」
「よくわかりませんが、どうやら勝ったようですね。炎上している船は、みな軍船ですし、近くにいる軍船も船上にいるのは高原戦士や海岸諸国人ばかりです」
「そう、良かった」
夏希は眼を閉じた、なんだか、とっても眠くなっている。失血のせいだろうか。
二十七隻の連合艦隊民間船は、十一隻のタナシス海軍軍船を打ち破ることはできなかったが、軍船を輸送船から切り離すという任務には成功した。単に乗員と戦闘要員の数だけで比べれば、前者は約四千八百であるのに対し、後者は三千二百である。錬度から考えれば、海を見たのは生まれて始めてという高原戦士が半数以上を占めている連合艦隊側に比べ、すべてが海軍所属であるタナシス側の方がはるかに上だ。にもかかわらずここまで連合艦隊側が健闘したのは、やはり全般的な士気の差が大きかった。すでにタナシス海軍兵士は、第一次撤収船団の護衛という任務を通じて、母国の遠征軍が敗れたことを承知している。そして、今回の任務も第二次撤収船団の護衛という、不名誉かつ意気の上がらない任務である。そしてそのうえ、予想だにしなかった海域での待ち伏せ。これら複合的な原因から、一般の水兵や海兵は戦う意義を見出せず、誇りを持って戦うことよりも、無事に故郷に帰ることの方を強く望んだのであった。
急速に南下したランクトゥアン王子率いる連合艦隊本隊は、低速のタナシス輸送船団にあっさりと追いついた。
輸送船は散開して逃走を図ったが、三十二隻の連合艦隊各艦はそれを一隻ずつ拿捕に掛かった。水夫ばかりで陸戦要員がほとんど乗っていない輸送船は、いったん連合艦隊の海兵に乗り込まれてしまえば降伏するしかなかった。
ランクトゥアン王子は、旗艦が二隻目の拿捕に成功した時点で、艦隊集合の旗流信号をマストに掲げさせた。艦隊の目的は、敵船団撃滅ではない。ルルト海港に、タナシス船を入れさせないことにあるのだ。逃げた輸送船を追って散るより、艦隊を再編成させて一ヒネでも早くルルト沖に向かう方が、上策と言えた。
第七十八話をお届けします。久しぶりに評価ポイントをいただきました。ありがとうございます。