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白き巫女と蒼き巫女【改稿中】  作者: 高階 桂
第二章 海岸諸国編
51/145

51 船上の会食

 オープァ海軍に所属する二隻の帆船は、海岸からそれほど離れていない位置を西に向かって順調に航海を続けていた。風は北東から吹いてくるので、順風に近い。

「どのくらいの速度なのかしら」

 緑成す美しい海岸を眺めながら、夏希は誰に訊くともなく口にした。

「五ノットから六ノットくらいじゃないかしら」

 すかさず、隣に立つ凛が答える。

「どうやったらわかるの?」

 夏希は半ば驚いてそう聞き返した。自動車や自転車の速度ならば、乗り慣れているうえに道路際の建物などの比較対象物があるからおおよその見当がつくが、船となると皆目わからない。

「帆船の巡航速度なんて、せいぜいそんなものよ」

 凛が、笑いながら言う。

「順風でがんばっても、せいぜい十ノット程度。もっと近代的な横帆を多用した帆船なら、二十ノットを越えられるでしょうけどね」

「ふうん、そうなんだ。で、五から六ノットって、時速何キロ?」

「九から十一キロくらいね」

「意外と遅いんだ」

 時速十キロといったら、一般的な自転車よりも遅い速度である。

「しょせんは風の力頼りだもの。風力だけで時速数十キロを常時得られるくらいなら、人類は乗馬も内燃機関も発明しなかったでしょう」

 肩をすくめつつ、凛が笑う。

「それもそうね」

 夏希も笑った。


 昼食時になると、船首甲板にテーブルが三つ設えられた。乗り込んでいる合同外交団全員が一度に食事するスペースはないので、三回に分けて昼食が供されると説明される。各テーブルには、ランクトゥアン王子とマローア船長、それに副長がそれぞれホストとして同席した。このテーブルも、腰掛と同様真新しい。客人用に急遽積み込まれたものであろう。

 夏希には、エイラとサーイェナ、それに委員会および対策群のメンバー三名とともに、二回目の王子のテーブルが割り当てられた。

「船上ゆえたいしたものはお出しできませんが、どうぞ召し上がってください」

 水夫による男臭い給仕が終わると、ランクトゥアン王子がにこやかに勧めた。

 ルルトで出された豪奢な食事に比べると、テーブルの上に並べられた品数は少なく、いささか貧相ではあった。温い茶と野菜スープ、数種の燻製魚、冷肉の薄切り、漬物、それに炊きたてらしく湯気をあげている炊き込みご飯程度である。

 だが、この炊き込みご飯が絶品だった。何種類かの貝類が、丸ごとあるいは細切りにしてたっぷりと入っており、それらから染み出した旨みがご飯にしっかりと浸透している。深川飯に、さらに牡蠣を炊き込んだうえに、蛤の出汁を効かせたら、こんな味になるだろうか。おそらく使われている調味料はわずかな塩だけだと思うが、実に美味い。

「こんなおいしいご飯、生まれて始めて食べましたわ」

 夏希は思ったままを口にした。エイラやサーイェナも、同意する。

「気に入っていただけたようで何よりです。オープァ海軍名物の貝飯です。本来ならばありあわせの貝をぶち込んで炊き上げるのですが、今回は大切なお客様にお出しするために入れる貝を厳選しましたからね」

 嬉しげに、ランクトゥアンが言う。

「ところで、王子殿下はなぜ海軍にお入りになったのですか?」

 サーイェナが、話題を変えた。

「オープァでは、王家の者はそれなりの役職に就かねばならぬのですよ。わたしは王子とは言え、第六王子ですからね。重要な役職は、すでに兄たちが占めている。空いている役職は、海軍司令官くらいしかなかったのです。ま、お飾りですな」

 ランクトゥアンが、苦笑する。

 ……単なるお飾りじゃないわね。

 夏希はそう推察した。王子はよく日に焼けているし、上半身にしっかりと筋肉がついている。名前だけの海軍司令官ではなく、頻繁に海に出ていることは間違いない。近くで見ると、髪が痛んでいたり、手が荒れていたりするのもわかった。潮風に晒され、そして自ら水夫らと同じような作業にも参加するのであろう。顔立ちも女性的ながら、その大きな目が放つ光はかなり鋭い。

 食事後半の話題は、もっぱら人間界縮退問題となった。エイラとサーイェナが、王子を味方につけようとしていることを察した夏希は、たまに相槌をうつ程度で会話には加わらず、大人しくご飯を食べていた。

「ご心配なく。陛下もあなた方の言葉を信用するでしょう。断言はできませんが、わが国もルルトに同調して、あなた方に協力しますよ」

 ふたりの巫女の説明を納得顔で聞いていたランクトゥアン王子が、何度もうなずく。

「東部三カ国はどう反応するか、お考えをお聞かせ願えますか?」

 へりくだった調子で、サーイェナが尋ねた。

「オープァとルルトが連名で頼めば、協力してくれるでしょう。それは間違いありません。東部三カ国とは極めて親密な関係ですからね。ルルトがラクトアスと海岸沿いの小島の領有権を巡って争っていますが、あくまで外交上の係争に止まっていますし」

 ランクトゥアンが、頼もしい返答をしてくれる。

「となると、残るはワイコウ王国だけですね」

 エイラが指摘した。とたんに、ランクトゥアンの表情が曇る。

「事情は聞き及んでいます。カキ国王も、頑固なお方だ」

 嘆息気味に、王子が言う。

「まだ国王陛下にお目にかかっていない状態で言うべきことではないかも知れませんが……オープァとルルトでワイコウを説得していただけませんか?」

 すがるように、エイラが頼んだ。

「説得……は難しいでしょう。ご承知のように、今現在わが国とワイコウは疎遠ですからね」

 ランクトゥアンが、わずかに肩をすくめる。

「形の上では友好国ですし、相互防衛条約を始めいくつかの条約や協定も結んでいますが、いずれも古いものです。商売はルルトを通じて行っているだけで、直接の交易は皆無に近い。以前はワイコウにわが国の役人が常駐していましたが、ワイコウの南方への領土拡大に抗議して帰国させて以来、そのままになっています。ルルトとなると、さらに表立ってワイコウと対立している。カキ国王とルルトのエジャル国王は犬猿の仲、とも聞きます」

「それならば、ワイコウと縁を切ればよろしいのでは?」

 サーイェナが、空気を読まずに提案した。

「サーイェナ殿。それは僭越過ぎますわ」

 すかさず、エイラがたしなめる。

「いえ、構いませんよ。外国の方ならば、そう思って当然です」

 ランクトゥアンが鷹揚に言って、苦笑する。

「しかし、オープァとルルト、そしてワイコウはいわば血の盟友なのです。かつてワイコウが周辺諸国家に攻められたときに手を貸したのが、オープァとルルトでした。その結果、ワイコウはそれら小国を併呑し、強国となりました。その返礼として、西群島の海賊制圧のためにワイコウは義勇軍を差し向けてくれた。二百年も前の話だとは言え、共に肩を並べて戦い、血を流しあったいわば戦友なのです。相互防衛条約も、その時に結ばれたもの。軽々に放棄しては、戦いに倒れたご先祖様に申し訳が立ちません」

「血の盟友……中国と北朝鮮みたいなものね」

 夏希はぼそぼそとつぶやいた。無茶をする独裁者を見捨てられないところなど、よく似ていると言えようか。


 あらかた食事が終わると、水夫がデザートを運んできた。カットしたフルーツの盛り合わせだ。平原では見たことのない、ビー玉サイズの真っ白な粒が目を引く。皮を剥いたブドウの一種だろうか。

「ときに、夏希殿」

「はい?」

 いきなりランクトゥアンに話しかけられた夏希は、少しばかり驚いて慌てて箸を置いた。

「わたしも一応軍人です。あなたの活躍は聞き及んでおります。少しばかり、手柄話を披露していただけませんか?」

「いや、あの、その……。たいした手柄は立てていないのです、殿下。同じ異世界人で、拓海という男がいまして。彼がなかなかの知恵者で、彼の立てた作戦通りに市民軍を率いたら、勝てたというだけですわ」

 夏希は慌てたまま言い訳がましく語った。

「なるほど。しかし野戦指揮官は軍船の船長も同様。上官の立てた作戦に従ったとしても、現場での機敏なる判断や部下の掌握度合いなどは、野戦指揮官の度量と能力に依存しているはず。ご謙遜なさることはありませんよ、『竹竿の君』」

 にこやかに、ランクトゥアンが言う。

 ……オープァの王族にまで、この二つ名で呼ばれるとは……。

「恐縮です」

 せっかくエイラとサーイェナが言葉巧みに説得し、味方につけた王子の機嫌を損ねるわけにはいかない。夏希は無理に笑顔をつくると、可愛らしく小首を傾げて、王子に目礼した。



 ルルトと同様、オープァ王国の対応はきわめて友好的であった。

 オープァ国王は、人間界縮退対策に全面的に協力することを確約し、タナシスへの親書の副署も承諾してくれた。その旨を記載した書状を携えた使者は、合同外交団到着の二日目の早朝、船でオープァを発ち、ルルトへと向かった。

 国王は、ワイコウへの働きかけも行うと言明してくれたが、その際に付け加えた言葉は、『たぶん無駄に終わると思うが』であった。ランクトゥアン王子があらかじめ教えてくれた通り、オープァとワイコウの関係は疎遠のようだ。

 オープァの街は、その規模こそルルトよりは一回り小さかったものの、活気のある豊かな都市であった。海港も大きく、西群島からの貿易船が停泊している錨地とのあいだを、貨物を満載した小船がしきりに往復している。合同外交団への待遇も、ルルトで受けたものを比べ遜色のないものだった。

 オープァに三日間滞在した合同外交団は、ふたたびオープァ海軍軍船二隻に分乗し、ルルトへと戻った。すでにオープァ国王の副署のあるタナシスへの親書に、ルルト国王の副署もいただく。完成したタナシス国王宛の親書は、ルルトの外務大臣に託された。このあと、信頼できるルルト商人の手によって、タナシスの属国である島国、ラドームの外務当局に手交されることになる。

 ルルトでの滞在は一日で切り上げ、合同外交団はルルト側が用意してくれた商船に乗り、東部三カ国でもっとも西にある国、ラクトアス王国へと向かった。国王に謁見し、人間界縮退問題に対する協力を要請する。こちらでも、反応は良好だった。合同外交団は、さらにチュイ、ニガタキと訪れ、同様の要請を行ったが、いずれも国王は協力を約束してくれた。

「これで、本当に残るはワイコウだけ、となりましたね」

 ニガタキで与えられた宿舎……さすがに国家規模が小さいので、ルルトやオープァでの宿舎より格が落ちたが、それでもかなり豪奢なもの……でくつろぎながら、エイラが嬉しそうに言った。

「帰りにどうせワイコウを通るのよね。何日か滞在して、協力するように説得するの?」

 お茶を飲みながら、夏希は尋ねた。気候のせいか、茶葉の種類が異なるのか、あるいは製法に違いがあるのか、海岸地帯のお茶はなぜか平原のものより渋みが強い。

「あからさまに無視して素通りするのもひとつの手だとは思いますが、やはりカキ国王にご挨拶くらいすべきですね。ワイコウを除く海岸主要国家はすべてわたくしたちに協力してくれることになりました、とご報告しなければ」

 意地悪そうに目元を歪めながら、サーイェナが言う。

「ルルトとオープァの努力が実るといいけど」

 夏希はぼそりと言った。近日中に、両国の特使がワイコウを訪れ、魔術の使用を抑制して平原と高原とが行っている人間界縮退対策に協力すべきだと、説得することになっていた。順調に行けば、すでに特使はワイコウ入りしている頃合である。

「尽力してくれている両国には悪いですが、あまり期待できませんね」

 サーイェナが、言う。夏希もうなずきで同意した。



 海岸東部三カ国歴訪を終えた合同外交団は、船でルルトへと戻った。そこで一泊し、ルルト国王への挨拶を済ませた一行は、河港から川船に乗り込んだ。ちなみに、船の数は十五隻に増えていた。凛を含む商人たちが買い込んだ商品見本や、各国から贈られた土産物類が大量だったためである。

 川の遡航には時間がかかる。行きでは一日行程だったルルト-ワイコウ間は、今回は二日掛りだった。ワイコウに着いたのは日没直前だったので、一行はすぐに前回と同じ宿舎に案内された。

「相変わらず、警備が厳重ですね」

 宿舎の玄関で立哨している兵士を見やって、エイラが嘆息する。

 翌日、エイラとサーイェナを含む外交団主要メンバーは、ワイコウ政府要人との協議のため王宮へと出向いた。夏希は前回同様、留守番であった。

「暇なのです! 夏希様、散歩でも行きませんか?」

 ステッキを振りながら、ユニヘックヒューマが誘う。

「いいわね」

 夏希は即座に応じた。同じように暇を持て余していたコーカラットも、ユニヘックヒューマに誘われると喜んでついてきた。

 夏希はお供の魔物を引き連れて、庭園に設えられた小道を巡った。朝方降った雨のせいで、木々や草花はしっとりと濡れている。強い日差しが、それらを徐々に乾かしつつあった。

「海岸の気候に慣れちゃったのか、ずいぶんと蒸し暑く感じるわね」

 夏希は顔をしかめた。平原に戻れば、もっと暑いはずである。

「そういえば、前回散歩した時に、変な男の人と出合ったんだっけ。名前、忘れちゃったけど」

 今回の旅で、何百人もの人と引き合わされ、名乗られたのだ。王族などのよほどの大物でない限り、名前までは覚えていない。

「拓海様に似た方ですねぇ~。キュイランス、と名乗ってましたぁ~」

 コーカラットが、教えてくれる。

「そうそう。そんな名前だった。たしか、この先あたりに隠れてたんだよね」

 夏希は記憶をたどると、別の小道に踏み入った。見覚えのある花壇を過ぎると、これまた見覚えのある茂みの前に出る。

「止まるのです!」

 いきなり、ユニヘックヒューマが前に出た。ステッキを振り上げ、茂みを睨みつける。

「……まさか、また?」

 夏希は戸惑いの表情で、浮かんでいるコーカラットを見上げた。

「怪しい気配がするのですぅ~」

 コーカラットもすう~っと前に出て、夏希を守る態勢に入る。

「えーと、ひょっとして、キュイランスさん?」

 まさかとは思いつつも、夏希は茂みに向かってそう呼びかけた。

 がさごそという音とともに、茂みが割れる。ひょいと顔を覗かせたのは、やはりキュイランスであった。

「またお会いしましたね、夏希様」

 なんとなく拓海を連想させる中年男が、笑顔を見せて茂みから出てくる。

「またお前なのですか!」

 ユニヘックヒューマが眉を逆八の字にした呆れ顔で、ステッキを下ろす。

「で、今度は何の用?」

 同じく呆れ顔で、夏希は尋ねた。

「使節団がルルトから戻ってきたと聞き、どなたかとお話したくて、明け方からここに潜んでいたのです。旧知のあなた方と会えたのは、幸運でした」

「旧知、と言うほどの間柄じゃないと思うけど」

 夏希は一応そう突っ込んだ。

「実はわたくし、王宮内にコネがありまして、それなりに情報通なのです」

 夏希の突っ込みを聞き流し、キュイランスが続けた。

「カキ国王は、あくまで皆さんの提案を拒絶し、魔術の使用を続ける意向のようです。皆さんは、それに対し、どんな手を打たれるおつもりなのですか?」

「そんなこと、話せるわけないでしょ」

 夏希は拒絶した。外交上の秘密を、一市民であるキュイランスにべらべらと喋るわけにはいかない。

「そうですか。では、他の海岸諸国の反応だけでもお聞かせ願えませんか?」

 低姿勢で、キュイランスが頼み込んでくる。夏希はしばらく考えてから、教えてやることにした。公式には未公開情報だが、各国が委員会と対策群に協力することはいずれ公表されるはずだし、ここでキュイランスにそのことを伝えれば、ワイコウ市民のあいだに情報が広まって、ワイコウ政府に対する圧力になるかもしれないと考えたのだ。

「やはりそうですか。この件に関して、ワイコウは孤立したのですね」

 夏希の説明を聞いたキュイランスの表情が、曇った。

「カキ国王は、何を考えているの? このままだと、ワイコウの立場が悪くなるだけよ」

「わたくしの分析によれば、玉座維持のために必死になられているのだと思います」

 夏希の問いに、キュイランスが苦々しげに答える。

「玉座維持? 玉座を追われそうなの?」

「今すぐに、と言うわけではありませんが、カキ国王には敵が多いのです」

 心持ち声を潜めながら、キュイランスが続けた。

「実績を挙げ続けなければ、政敵の勢いが増してしまいます。ですから、陛下は強引な政策を取り続け、それなりに成果を挙げ続けました。魔力の使用をやめれば、ワイコウは混乱し、陛下を支持する者は減るでしょう。政敵の思う壺です」

「そうなんだ」

 夏希はしばし考えた。この怪しげな賢者の分析が正しければ、これは使える情報である。カキ国王に、政権維持の手伝いをしてやるから魔術の使用をやめろ、と提案することもできるし、その政敵とやらと手を組んで、クーデター成功の暁には魔力の源を引き渡してもらう、という方策も考えられる。

 全面的に信用したわけではないが、この男は使えそうだ、と夏希は判断した。

「ねえ。これからもたびたび会えないかしら」

「ありがたいお申し出です、夏希様。……しかし、わたくしはどうやれば皆様にお会いできるのでしょうか?」

「そうねえ。わたしが外へ出られない以上、あなたにここへ来てもらうしかないわね」

「雨季が終わると、庭園内に忍び込むのは難しくなりますが」

 キュイランスが、遠慮がちに指摘する。

「そうか。直接会うのが無理ならば、手紙のやり取りをするくらいしか方法はないわね」

 夏希は首を傾げて考え込んだ。いまだこの地の文字の読み書きはできないが、他に方法はないだろう。夏希はその視線を、そばで見守っているコーカラットとユニヘックヒューマに向けた。

「やっぱり、コーちゃんに頼むしかないわね。魔物がふらふら飛んでいるくらいなら、警戒されることもないでしょうし、魔物に喧嘩を売ろうとするほど愚かな警備兵もいないでしょう。彼女を使って、手紙のやり取りをしましょう。この近くに、目立つ建物とかない?」

 夏希にそう問われ、キュイランスが腕を上げてある方向を指した。

「あちらの方角、境界柵から半シキッホほどのところに、中央に井戸がある小さな広場があります。うまい具合にそこに叔母の家があるので、使ってください」

「じゃ、用事があるときはコーちゃんに手紙持たせて送り出すわ。刻限は……お昼過ぎにしましょうか。何か連絡したいことがあったら、合図して。そうね、窓辺に布切れ置いとくとかなにかして」

「では、こちらからご連絡したいときには、窓から紅い布を垂らしておきましょう。どの窓かわかるように、帰ったらさっそく布を垂らしておきます。手紙は、その窓から放り込んでくだされば、わたくしが回収いたします」

 キュイランスが、うなずく。

「そういうことで、頼めるかしら、コーちゃん?」

「お易いご用なのですぅ~。なんだか秘密めいていて、面白そうなのですぅ~」

 嬉しげに、コーカラットが触手を揺らす。

「では、わたくしはこれで失礼します」

 一礼して、キュイランスが茂みの中へと消える。

「面白そうなので、わたくしも一枚噛みたいのです!」

 それを見送ったユニヘックヒューマが、夏希に向けて主張した。

「そうねえ。じゃ、手紙の代筆を頼むわ。ユニちゃん、字は書けるでしょ?」

「もちろんであります!」

 ユニヘックヒューマが、嬉しげにステッキを振り回す。


第五十一話をお届けします。

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