39 高原の蒼き巫女
夏希らに宿舎として宛がわれたのは、さして広くもない一軒家だった。土間になっている玄関兼台所兼納戸がひとつと、板敷きの狭い部屋がふたつ。トイレは、近くにある共同トイレを使うようだ。
「製材加工技術は平原の方が上だな」
台所の板壁や柱を検分していた拓海が、言う。
「それはそうでしょう。樹木自体、高原には少ないのですから」
乱れた髪を直しながら、エイラがそう応じる。
「ハナドーンの製材を持ってくれば、よく売れるだろうな」
「停戦交渉が始まってもいないのに、もう商売の話? いずれにしても、ジンベルの儲けにはならないじゃない」
早くも皮算用を始めた拓海に、夏希は揶揄を込めた言葉を投げた。
「いやいや。そうでもないぞ。地図を見るとわかるが、高原から平原へと流れている川で、まともに川船が運航できるのはジンベル川だけなんだ。主流のノノア川でさえ、山岳地帯を縫って流れているから急流はあるは滝はあるわで船は使えない。つまり、平原と高原が交易しようとすれば、すべての物資がジンベルを通過することになるわけだ」
「中継貿易を企んでるの?」
「単なる物流拠点だけでも、経済効果は間違いなく大きいよ」
拓海が、真剣な表情で言う。
「高原に売れる物は、たぶんかなりの品目に上るだろう。例えばさっきも言ったが、ハナドーンの製材。あそこのチークに似た各種製材は、素晴らしい品質だ。高温多湿でも腐食しにくいし、比較的軽くて丈夫だしな」
「銅は売れそうにないわね」
台所の隅の台の上に置いてあった鈍く光っている銅製の壷から、竹の柄杓で水を汲みながら、夏希は言った。
「色からすると、純銅だな」
近寄った拓海が、壷をこんこんと叩く。
夏希はこれも銅製らしいカップ三つに水を注ぎ入れた。拓海とエイラに渡し、自らもひとつを手にする。
「ニアン製品に比べると粗雑だが、なかなかの加工技術だ」
ごくごくと水を飲み干した拓海が、言う。
「なんか意外ね。狩猟民族って言うから、もっと技術的に遅れてるかと思ったけど」
「意外じゃないよ。武器に関しては、平原と比べても遜色のない加工技術を使ってたしな。鉈なんて、見事な鍛造品だった。あと三百年もしたら、日本刀を生み出せたんじゃないか」
にやにやしながら、拓海が銅のカップを差し出してお代わりを要求する。
「よろしいですか、皆様」
戸口から、控えめに声が掛かった。
顔を見せたのはエワだった。旅のあいだはつけていなかった高原の民女性特有の被り物を、頭に巻いている。色は、芥子を思わせるくすんだ黄色だった。
「なにかしら?」
エイラが、問う。
「サーイェナ様が、お見えになりました。皆様にご挨拶なさりたいそうです」
「噂の巫女さんか」
拓海が、同意を求めるかのようにちらりと夏希に視線を走らせた。
「いいわ。入ってもらってちょうだい」
夏希はそうエワに告げた。拒む理由はなにもない。
「承知しました」
エワが引っ込む。すぐに、戸口に人影が現れた。
宿舎に入ってきたのは、なかなかに印象的な人物であった。
高原の民の女性にしては上背があり、おそらく拓海と同じくらいの身長だろう。年齢は、二十代後半といったところか。面長で、優しげな眼差し。薄茶色で、緩くウェーブした長い髪。纏っている衣装は、エイラのそれと同じような浴衣を思わせるものだったが、色はややくすんだようなシーグリーンだった。被り物は、高原の民らしく布を巻き付けていたが、こちらの色は深い青。身体つきはがっちりしており、胸部は豊かに盛り上がっている。
「色っぽい姐さんだな」
拓海が、ささやく。
「高原へようこそ、皆様。わたくしは高原の蒼き巫女、サーイェナと申します」
女性としてはちょっと低めの声で、サーイェナが挨拶する。エイラから順に、三人と一匹は自己紹介した。
「そう。あなたがエイラ殿の使い魔なのね」
コーカラットに、サーイェナが微笑みかけた。
「そうなのですぅ~。よろしければコーちゃん、と呼んでいただきたいのですぅ~」
嬉しげに、コーカラットが触手をくねらせる。
「じゃあ、わたくしの使い魔も紹介しましょう。ユニちゃん、いらっしゃい」
振り返ったサーイェナが、手招く。それに応え、魔物が戸口を越え、とことこと入ってきた。
コーカラットと比べると、こちらの方がはるかに人間に近い形状だった。胴体の上に頭が載っているし、手足も二本ずつある。そのうえ、服まで着ている。
とはいえ、それはあくまでコーカラットと比べて、の話である。身長は、一メートルほどと小柄だ。頭身は三頭身。大きな頭部には、コーカラットのそれと同じような黒い円でしかない眼がふたつと、しまりのない口がある。鼻がないのも、コーカラットと似ているが、こちらには眉があった。もっとも、毛が生えているわけではなく、さながらギャグマンガのキャラのような一本の黒い線だけだったが。頭の頂部からは青緑色の長い髪が生えており、先端は腰の辺りできれいに刈り揃えられている。
着ているのものは、黒とグレイを基調にしたドレスのようなもので、裾は足首まであった。その小柄さに合わせて腕は短く、右手には長さ三十センチくらいの、黄緑色のステッキのような物を握っている。脚の長さはドレスに隠されてよくわからないが、腰の位置から考えるとこちらもそうとう短いようだ。履物は履いておらず、素足だった。
衣装と手にしたステッキのせいか、なんとなく女児向けマンガかアニメに出てくる魔法少女をデフォルメしたようにも見える。
「この子が、わたくしの使い魔であるユニヘックヒューマです。ユニちゃん、ご挨拶なさい」
「みなさん! あたいは、サーイェナ様にお仕えする使い魔、ユニヘックヒューマであります! ユニちゃんと呼んで欲しいのであります!」
サーイェナに促され、デフォルメ魔法少女……ユニヘックヒューマが、手にしたステッキをぶんぶんと振り回しながら、元気よく自己紹介する。声は少女のように甲高く、コーカラットに比べるとはるかに早口だ。
「わたくし、コーカラットと申しますぅ~。コーちゃんと呼んでいただきたいのですぅ~。同胞とお会いするのは、久しぶりなのですぅ~」
触手を振りながら近づいて来たコーカラットが、そう挨拶する。
「あたいも同胞には久しぶりに会ったのであります! 会えて嬉しいのです、コーちゃん!」
喜びの表現なのか、ステッキを器用にくるくると回しながら、ユニヘックヒューマが言う。
「……えらくシュールな光景だな」
拓海が、ぼそっと言った。
「そうね」
夏希も同意した。生首風海月状魔物と、三頭身魔法少女風魔物の交歓など、めったに見られるものではない。
「では皆さん、そろそろ宴の支度が整う頃合です。ご案内いたします」
サーイェナが言い、にこりと微笑みつつ、戸口の外を指し示す。
宴の会場は、近くにある小さな広場であった。沈みゆく太陽に照らされ、紅に染まったそこには、すでにいくつもの篝火が焚かれていた。埃避けだろうか、地面には控えめに水を撒いた跡があった。
サーイェナに促されるままに、夏希ら三人の客人は地面に敷かれた茣蓙のような敷物に腰を下ろした。エイラの隣には、ちゃんとコーカラットの席も設えられている。
すぐに、数名の女性がやってきて、飲食を必要としないコーカラットを除く各人の前に、食物が盛られた盆を置いた。金属のカップに、飲み物も注がれる。
「さあ、遠慮なくどうぞ」
夏希の隣に座ったサーイェナが、飲食を勧める。
夏希はカップを取り上げて、中身を啜ってみた。
お酒だった。果実酒らしく、桃のような香りがする。
「……おいしいけど、他の飲み物いただけません?」
「お酒は苦手でしたか」
サーイェナが、給仕役の女性を手招く。夏希のカップが下げられ、代わりのカップが置かれる。今度の中身は、麦茶によく似た味がした。もちろん、アルコールは入っていない。
夏希は箸を取り上げると、盆に盛られた食物をつつき始めた。メニューは、ジンベルで食べていたものとそう変わりはなかった。味をつけた米飯、茹で野菜、焼いた芋や根菜などなど。味付けは平原地帯のものより淡白で、塩味中心の素朴なものらしい。
「高原の蒼き巫女か。ありふれてるがなかなか格好いいふたつ名だな」
断りを言って中座したサーイェナの後姿を眺めながら、拓海が言う。
「対抗して、エイラも何か名乗ったら? 平原のなんとか巫女って」
冗談口調で、夏希は言った。
「そうですね。『蒼き』というのはおそらく装束の色から来ているのでしょうから、わたくしが名乗るとすれば『白き巫女』でしょうか」
真顔で、エイラが応じた。
「白き巫女と蒼き巫女ねえ。……売れないゲームのタイトルみたいね」
夏希は苦笑した。
「……なんか、やな予感がするんだが」
カップを握った拓海が、夏希にそっと耳打ちする。
広場の真ん中に、鹿のような動物が運ばれつつあった。首に縄を掛けられ、口と前後の足首も縛られている。
「……ひょっとして、本日のメインディッシュ?」
夏希は箸を握ったまま硬直した。
「どうやらそのようだな。狩猟民族の宴なのに、肉料理がないからおかしいと思ってたんだが……」
拓海が、苦笑いしつつ盆の料理をつつく。
見守るうちに、大きく平べったい木桶が運ばれてきた。
「なに、あれ」
「血を受けるんだろう。狩猟民族だからな。獲物の血液一滴すら無駄にしないんだよ」
「後ろ向いてても、失礼には当たらないわよね」
「たぶんな」
鹿を運んできた高原の民の一人が鉈を抜いたところで、夏希は身体ごと後ろを向いた。ちらりと横目でうかがうと、エイラも同様に広場の中央に背を向けている。
一方拓海は、料理を口に運びながら、畜殺の様子を眺めているようだ。
「よく平気ね」
「グロ耐性は結構あるほうだからな。結局、食文化の違いでしかないんだし。あんただってクロマグロ解体するシーンは、よだれを垂らしながら食い入るように見つめるんじゃないのか?」
「確かにね」
夏希は認めた。
解体された鹿の肉が、中央の篝火で炙られ始める。
そのころになると、広場の宴席に三三五五人が集まり始めた。入れ替わり立ち代り夏希らのところにやってきて、丁寧に挨拶してゆく。大半は、地元であるハンゼイ氏族の有力者だった。挨拶を終えた人はそのまま宴席に戻り、酒盃を手にする。
それが終わると、給仕係りの女性たちが焼きあがった肉を配り始めた。夏希の盆にも、部位は不明だが一キログラムはありそうな塊がでーんと載せられる。そのあとから、鞘付きの小刀も配られた。どうやら、これで切り分けて食べるのが作法らしい。
「削ぎ切るようにすると、食べ易いですわ」
夏希らが戸惑っているのを見たサーイェナが、右手に小刀、左手に箸を持って、見本を見せてくれた。箸で肉を抑え、薄片を器用に切り分けてゆく。
夏希は真似してみたが、慣れぬせいでどうも上手く行かない。
「そりゃまあ、幼いころから鉈を振り回してりゃ刃物の扱いも上達するんだろうな」
拓海も苦労しているようだ。ぼやく声が聞こえる。
「駄目ですわ。おいしそうなのに。コーちゃん、ちょっと手伝ってくれる?」
匙ならぬ箸を投げ出したエイラが、使い魔を呼ぶ。
「おまかせくださいぃ~」
漂ってきたコーカラットが、刃物モードにした触手を三本ほど素早く振り回した。二十秒足らずで、盆の上の肉の塊は骨と薄片だけになった。
「コーちゃん、俺のも頼むよ」
拓海が、手招きする。
「承知しましたぁ~。夏希殿も、いかがですかぁ~?」
「お願いするわ」
「さて。そろそろ、仕事の話をしようじゃないか」
拓海がカップを置き、サーイェナを見た。
「そうですね」
サーイェナも箸を置く。
「まず、あなたの立場を確認しておきたい。あなたは、高原の民にとって、どういう存在なんだ?」
「調整役、とでも言いましょうか。氏族としては、ずっと南方に住んでいるスリッツ氏族に属しています。高原の魔力の源は、そこにあるひとつだけですから、巫女の一族が存在するのは、スリッツ氏族だけです。ご承知でしょうが、高原の民の各氏族の結び付きは、きわめてゆるやかなものです。そのような中で、スリッツの巫女一族は、いわば氏族を超越した中立的な存在として、各氏族間で利害の対立があった場合に、その調停に当たってきた歴史があるのです。現在のところ、一族の中でわたしがもっとも技量の優れた巫女になるので、巫女一族の代表としてみなさまにお会いしているのです」
「つまり、政治的な権力は持っていないが、高原の氏族すべてに対して強い影響力は持っているということね」
夏希は確認した。
「そういうことになります。少なくとも、どの氏族であれわたくしの言葉には耳を傾けてくださいます。魔界の膨張に関しても、同様でしたし」
「では、高原側の交渉の窓口はあなたでいいのですかな?」
拓海が、訊く。
「はい。イファラ族を除くすべての氏族長から、本件に関しての交渉権は一任されています。わたくしとサイゼン殿が納得するだけの譲歩をあなた方がしてくだされば……もちろんジンベル側がその譲歩を確実に履行してくださるとの条件つきでありますが……戦争は終わります」
「ですがその前に、問題の魔界の膨張についてお聞かせ願えませんか? 詳しい経緯を知りたいのです」
エイラが割り込んだ。
「巫女としては、当然ですね。もちろん、お話しますわ」
サーイェナが、身体ごとエイラに対し向き直った。高原と平原、二人の高位巫女の視線が、絡み合う。
高原の民が魔界の膨張に気付いたのは、ほぼ一年前であった。
不変であると信じられてきた魔界と人間界との境界線が、ごく僅かずつではあるが移動している……人間界が狭くなっているという驚くべき報告を受けて、サーイェナを始めとする高原の巫女一族はさっそく調査に乗り出した。魔界と魔術は関連があると見られていたし、ことは一氏族の手に余るレベルであると思われたからだ。
観測の結果、魔界は一日あたり八キッホほど(約4.8メートル)の速度で、人間界を侵食していることが判明した。ゆっくりとしたペースだが、一年となると実に三十二シキッホ半(約1950メートル)もの土地が失われることとなる。高原の民の居住域と、魔界との境界線の距離が離れているので、いまだ直接的な被害は生じてはいないが、このままでいけば、十数年後にはもっとも南方に居住する氏族は移住を余儀なくされるだろうし、おそらく五十年以内に高原地帯はすっかり魔界に飲み込まれてしまうだろう。
サーイェナらは打開策を見つけるために、魔界膨張の観察を続けた。その結果、魔術の大量使用と魔界膨張の速度に因果関係があることを発見した。スリッツ氏族の居住地で大量に魔術を使用した時には、魔界膨張の速度が上がることがわかったのだ。
サーイェナはただちに高原地帯での魔術使用を禁止した。その結果、魔界膨張の速度はやや鈍化したものの、なおも一日あたり七キッホ半ほどの速度で高原を蝕み続けていた。
高原以外に存在する魔力の源の使用を禁じなければ、魔界膨張を阻止することはできない。そう考えたサーイェナは、各氏族の長と協議したうえで、まず最も近い魔術使用国家である平原のジンベル王国に対し、魔界膨張を遅らせるために魔術使用の抑制を求める親書を送った。だが、何度送っても一向に反応がない。もちろん、魔界膨張の速度が落ちる気配は微塵もなかった。
業を煮やした何人かの氏族長は、ジンベルへ武力を用いて侵攻を行い、魔力の源を強制管理することを主張、サーイェナも気は進まなかったが、周囲に押し切られる形でこれを承諾。かくして、ジンベルに最も近いイファラ氏族が、ジンベルに対する限定的軍事攻撃の準備を整えることとなる……。
「あとは、ご承知の通りです」
話し終えたサーイェナが、自分の飲み物を啜った。
「事情は理解したよ。で、次に為すべきは本当に魔界が膨張しているのかどうか、俺たちに証明してもらうことだと思うが……」
拓海が、サーイェナを見据えて言う。
「よろしいです。明日、お目にかけますわ。魔界との境界まで参りましょう」
「お尋ねしてもよろしいですか?」
エイラが、身を乗り出した。
「なぜ魔力を使うと、魔界が膨張するのです?」
「わかりません。ですが、相関関係があることは確かです。何度も実験して、確かめましたから。これは推測ですが、もともと魔力の源の役目は魔界の膨張を押さえるものではなかったのではないでしょうか」
「……そういえば、凛もそんなこと言ってたっけ。あ、凛って言うのは、わたしの仲間のひとりよ」
以前のプチ会議の席でのやり取りを思い出しつつ、夏希も口を挟んだ。
「しかし、高原やジンベル以外にも、魔力の源はあるんだろ? そのすべてで魔術の使用を制限しない限り、魔界の膨張は止められなさそうだが……」
拓海が、首をひねりつつ言う。
「おっしゃる通りですね。ですが、ジンベルが魔術の使用を抑制してくれるだけで、魔界膨張の速度をさらに鈍らせることが可能でしょう。いずれは、ワイコウや海の向こうのタナシスにも親書を送り、協力を求めねばならないでしょうが、まずは出来ることから始めていかないと……」
「なんか、話が大きくなってきたわね」
夏希は頭をかいた。ジンベルとイファラ族との和平が成立したとしても、魔界膨張の問題は解決しないのだ。放置すれば、いずれ平原の民と高原の民は生活圏をめぐって衝突してしまう。それどころか、高原に続いて平原までもが魔界に飲み込まれる可能性も高いのだ。海岸諸国に所属し、平原と交流もあるワイコウはともかく、外交関係すらないタナシスの協力を得るなど、困難なことに違いない。
「こらこら。むやみに話を広げるなよ。交渉ごとを手早くまとめたかったら、条件をなるべく狭めるのが常道なんだから」
冗談めかして、拓海が夏希をたしなめる。
「ですが、魔界の膨張を利用してジンベルとイファラ族の和解を図るという手は使えそうですね」
エイラが言った。
「それは、俺も思ったよ」
すかさず、拓海が同意する。
「なるほど。共闘せねばならない懸案事項を強調して、手を結ばざるを得なくするわけね」
夏希もうなずいた。近代のヨーロッパ主要国や日本の戦国大名が、政治的な都合や損得勘定だけで、仇敵とあっさりと手を結んだようなものだろうか。
「仕事の話はこれくらいにしておきましょう。皆様には、宴を楽しんでいただけねばなりません」
にこりと微笑んだサーイェナが、酒の入った銅の壷を取り上げると、拓海とエイラのカップに注ぎ足した。
「そうだな。せっかくだから、楽しまないと損だ」
美人の酌に機嫌を良くしたのか、拓海が満面の笑みでカップの中身を旨そうに干す。
「そうね」
同意した夏希も、コーカラットが切ってくれた肉を口に入れた。懸念された獣臭さもなく、柔らかくて、少し塩をつけただけでもおいしい。
他の宴席についている人々も、それなりに盛り上がっているらしい。あちこちから笑い声が聞こえる。エイラの隣にいたコーカラットは、隅の方でしゃがみ込んだユニヘックヒューマと、なにやら熱心に話し込んでいるようだ。魔物同士、話が合うのだろう。
第三十九話をお届けします。ようやく『蒼き巫女』サーイェナ様ご登場です。