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白き巫女と蒼き巫女【改稿中】  作者: 高階 桂
第一章 高原編
28/145

28 再戦に向けて

 第一次ジンベル南平原の戦い……この時点では単に『前回の戦い』と呼称されていたが……の十二日後、平原各国が提供してくれた正規兵力がすべてジンベルに集結した。その数、実に約五千百名。

 懸念された指揮系統は、当面各国派遣部隊指揮官を代表とした『ジンベル救援軍組織委員会』を作り、諸問題を協議しつつ解決する、という無難な形に落ち着いた。実戦の指揮に関しては、ジンベル防衛隊指揮官であるラッシ隊長を長とし、拠出兵力が多いニアン、ススロン、エボダの三国の派遣部隊指揮官がこれを補佐する統合司令部を作り、その中に各国の代表が士官を連絡将校として派遣する、という案が採用された。

 市街地の北にある放牧地にいまだ建設途上の派遣部隊宿舎に収容された『救援軍』……一部の部隊は天幕暮らしを余儀なくされたが……は、順次演錬を開始し、来るべき戦いに備えた。



「無理。絶対無理」

 凛が、さじを投げた。

「交易も再開しちゃったし、これだけ人の出入りが激しいといちいちチェックするのも無理。だいたい、総人口の四割以上もの外国人がジンベルに入ってきているのよ。防諜なんて、ざる同然だわ」

「まあ、仕方ないね。各国の支援なしには戦えないし、長期間交易を差し止めておけば、ジンベルの財政が干上がってしまう」

 駿が、肩をすくめる。

 王宮の夏希と凛の仕事部屋。その大テーブルに、五人の異世界人は座っていた。すでに日は暮れているので、部屋の中央天井近くには、光る球体がぽかりと浮かび、白っぽい光を投げかけている。

 防衛隊関連の仕事を共同で行っている拓海と生馬を別にすれば、夏希と凛、それに駿は日中顔を合わせることはほとんどない。そこで、最近では夕食前にはここに集まって、仕事の進捗状況を報告したりお互い知恵を借りたりするための『プチ会議』(命名者凛)を行うのが慣例化していた。

「よい点があるとすれば、今回の作戦計画は前回のように見た目でばれる、ということがない点だな。俺たちが黙っている限り、詳細が漏れることはあるまい。で、訓練はどうなってる?」

 拓海が、生馬に振った。

「本営襲撃の打撃戦力五百は、すでに選定した。ジンベルから二百、ニアンから百五十、エボダ、ススロン、ハナドーンから各五十。まとめて、俺が率いる。一応表向きは、戦線の直後に控置して、機を見て敵戦線突破に使う機動予備、ということにしてある。作戦計画は、直前まで明かさない予定だ」

「市民軍の方は?」

 拓海が、夏希に視線を当てる。

「訓練はほとんど進んでいないわ。みんな忙しくて。今回は、あんまり当てにしてほしくないわね」

 夏希は諦め顔でそう言った。いまだ非常事態が続いているとはいえ、市民たちにも自分の仕事というものがあり、それを長期間ないがしろにするわけにはいかない。『救援軍』に与える食料や、宿舎建設費用その他の諸経費をジンベルが賄うには、市民たちに働いてもらうしか方法がないのだ。

「……しかし、何でこうなっちゃったのかしら?」

 苦笑いしつつ、夏希は首を傾げた。いつの間にやら、夏希にはヴァオティ国王から『市民軍隊長』の肩書きが付与されていた。戦時にはジンベル防衛隊の指揮下に入るが、平時には国王の直接命令を受ける立場にあるという、臨時ながらかなり高位かつ重要な役職である。

「ま、人徳がなせる業、とでも思っとけ」

 生馬が、笑う。

「それで、高原戦士たちの状況はどうなんだい?」

 駿が、拓海を見つつ質問する。

「いまだ動きなし、だ。しかしながら、各国部隊から上がってくる本国からの情報を総合すると、再侵攻は近いらしい。十日から二十日後には、来るんじゃないかな」

「ほう、規模は?」

 意外そうな表情の生馬が、訊く。

「わからん。だが、氏族長サイゼン……解任されてなければの話だが……が馬鹿でない限り、一万は確実に超える規模だろうな。俺がサイゼンの立場だったら、一万五千以下なら絶対に仕掛けないがな」

 拓海が指を一本立てて、一万という数字を強調しながら答える。

「ジンベル防衛隊が、欠員補充のうえ三百七十。市民軍が、約三千。救援軍が、五千百。もう少しすれば、各国の市民軍も若干到着するから、それが五百として……総計九千近く。守勢なら、互角以上の戦いができそうだな」

 生馬が、そのいかつい顔に不敵な笑みを浮かべる。

「ところで、救援軍の様子はどうなの? 本気でジンベルのために戦ってくれそう?」

 夏希は男性三人の顔を順繰りに見ながら質問した。同じ平原の民であり、友好的な関係にあるとはいえ、ジンベルは安全保障に関して他国と特に条約などは結んでないと聞く。兵力を提供してくれたはいいが、まともに戦う気がないのであれば、役には立ってくれないだろう。

「一応、士気は旺盛だがな」

 拓海と駿の様子をちらりと横目でうかがってから、生馬が歯切れ悪く切り出す。

「幹部連中には、出世の糸口だと張り切っている奴も多い。一般の兵士は、なるべく怪我はしたくない、無事に祖国に帰りたい、と思ってるだろうな。それでも、市民軍よりは頼りになる」

「国によっても、意気込みの違いが感じられるね」

 駿が、言った。

「一番張り切ってるのは、ニアン。それに次ぐのが、ケートカイとイヤーラ。まあ、この二カ国はニアンの隣国だし、規模も小さいからニアンに引きずられているようなものだろうけどね。ススロンやエボダ、シーキンカイなんかはあまり乗り気ではないようだ」

「位置が悪いわよね、ジンベルって。高原の民が平原進出を企んだら、真っ先に狙われるところにあるんだもの」

「おっ。地理オンチにしちゃまともなことを言うじゃないか」

 凛の発言を、拓海が茶化す。

「さしずめジンベル川はモーゼル川、というところだな」

 駿がうなずきつつ言う。

「じゃ、ジンベルはメッツか」

 すぐさま、拓海が合わせた。

「そんなことより、次の戦い、勝てるんでしょうね?」

 茶化されたことにいらついたのか、凛が拓海を半ば睨みつけるようにして問う。

「前回よりは、多少楽だと思う。兵力差が縮まったからね。平原で戦う以上、かなりの損害を覚悟すべきだけど。言うまでもないが、敵は前回の戦いを反省して慎重に攻めてくるだろう。言い方を変えれば、そこがこちらの有利な点のひとつだ。疑心暗鬼に陥った相手は、とかくミスを犯しやすいものだからな」

「むしろ厄介なのは、戦後かもしれないね」

 駿が、穏やかな口調で語り出す。

「他に方法がなかったとはいえ、ジンベルは他の平原諸国も戦いに巻き込んでしまった。イファラ族も、他の氏族に応援を要請しているのは間違いない。下手をすれば、平原の民対高原の民という図式になりかねない。そうなると、長期化は避けられないだろう」

「いっそのこと、魔力の源をくれてやるか」

 冗談だとわかる程度にふざけた口調で、拓海が言う。

「それができれば、楽なんでしょうけど……」

 夏希は小さく嘆息した。捕虜の証言から得られた情報は、すべてまとめて報告書にして……ちなみに書いたのはアンヌッカである……ヴァオティ国王に提出済みだ。そしてもちろん、国王陛下はイファラ族に対する強硬姿勢を変えてはいない。魔力の源は、ジンベルの国力の源泉とも言えるのだ。これを譲り渡すのは、絶対にできない相談である。

「あれ、三分の一くらい切り取って、イファラ族に分けてやるとかできたらいいのに」

 凛が、言う。

「三分の一でイファラ族が満足するという保障はないぞ」

 拓海が指摘した。

「それはともかく、敵の目的がはっきりしたんだから、そろそろイファラ族と交渉してもいいんじゃないの? 砦に居座っているのなら、外交使節くらいすぐに送れるでしょうに」

 夏希はそう言って、外務大臣補佐である駿を見た。

「外務大臣もそう考えて、陛下に具申したんだが、却下された。時期尚早、というお考えのようだ」

「時期尚早?」

「もう一度くらい高原戦士の侵攻を退けて、相手の立場を弱くしてから交渉すべし、というお考えのようだ。基本姿勢は、魔力の源には指一本触れさせない、というところだからな。現状で使者を送っても、交渉決裂は眼に見えているよ」

 駿が首を振りつつ言った。



「異世界人、だと?」

 思いもよらなかった情報に、ベンディスは思わず大きな声をあげた。

「はい。複数の異世界人が、ジンベル人に協力しているようです。なかでも、イクマ、という男と、タクミ、という男の二人が、先日の戦いで多いに役立った、との噂です」

 連絡役の若い男が、生真面目な表情で告げる。

 砦の狭い一室で、ベンディスはビレットと共にサイゼン氏族長から派遣された連絡役の報告を受けていた。口頭での報告内容を書き取っていたベンディスは、もう一度連絡役に異世界人二人の名前を言わせて、その発音通りに文字を綴った。

「イクマ、にタクミ、か。これは厄介だな」

 隣の椅子に座るビレットが、ベンディスが書いた名前を読み上げて、渋面を作る。

「とすると、あの罠はジンベル人に入れ知恵をした異世界人のしわざか」

「ありえますな」

 ベンディスはうなずいた。

「続けてくれ」

 ビレットが、連絡役を促した。

「はい。異世界人に関しては、それ以上の情報が入っておりません。続きまして、ジンベル側の兵力状況についてですが……」

 連絡役が並べ立てる情報を、ベンディスは手元の紙に続けて書き取っていった。敵に関する事柄を述べ終わった連絡役が、今度は味方に関する報告を開始する。

「……再編成中の本隊に関する件は以上です。これで報告を終わらせていただきます」

 連絡役が一礼した。

「ご苦労」

 ビレットが立ち上がり、労いの意味を込めてサイゼン氏族長が派遣してきた連絡役の肩を叩いた。

 ベンディスは取っていたメモを眺めて、内心でため息をついた。

 とりあえず、戦士の数だけは、ハルシェ族およびオリオーレ族から借りた四千名を含め、一万一千名を超える人数をかき集めることができた。ビレットの手元にある千八百名を合わせれば、一万三千近い大軍である。

 しかしながら、それを喰わせていくだけの食料が、まだ集積できていない。

 当然といえば当然である。前回の七千名を越える遠征すら、短期でなければ食料が不足するであろう、という想定の元に行われたのだ。倍近い人数を食べさせるには、さらに準備に時間がかかる。

 そしてもちろん、時間というものはたいてい守勢を取る者の味方となる。

「えー、これは正式な報告ではありませんが、サイゼン氏族長よりベンディス殿に伝言があります」

 連絡役が切り出した。

 ベンディスは、はっとして顔をあげた。

 ……氏族長からの伝言?

「ベンディスに? 個人的なものか?」

 訝しげに、ビレットが問う。

「個人的といえば個人的なものですが、ビレット殿がお聞きになっても問題ないと思われます」

「聞かせてもらおう」

 ベンディスは立ち上がると、連絡役のそばに寄った。

「若干名のわが戦士が、ジンベルに捕らえられているのは、ご承知の通りです。ジンベル内の情報源によりますと、その中に特別扱いされている若い女性戦士が含まれているとのこと」

 若い女性戦士。ベンディス宛の伝言。

 ベンディスの脳裏に、鮮やかに妹の姿が浮かぶ。

「所属支族はツルジンケン。髪は金色で、歳は十四、五歳くらい。小柄だそうです。おそらくは、ベンディス殿の妹御、リダ殿ではないか、とのことです」

 ……リダが、生きている。

 ツルジンケン支族全体を見れば、前回の遠征に金色の髪を持つ女性戦士は何人か参加していた。しかし、これほど若く小柄な女性は、リダだけだ。支族名に間違いがなければ、まず確実に、ベンディスの妹であろう。

「良かったな、ベンディス」

 ビレットが、喜色もあらわにベンディスの肩をばんばんと叩く。

「……確かに嬉しいのですが、戦士としては不名誉なことですな」

 内心の喜びを無理に押し隠し、ベンディスはそう言った。仮にも支族長の娘とあろう者が、事情はどうあれ敵に降伏したのでは、体裁が悪すぎる。

「そのことですが、別の情報源によりますと、戦い当日に重傷を負った若いイファラ族女性戦士が、特別の計らいで治療され、命を取りとめたということがあったそうです。おそらくは、その女性がリダ殿だったのではないか、とサイゼン氏族長はお考えです」

「ならば、恥じることはない。リダは精一杯戦い、負傷して戦えなくなったのだ。恥どころか、立派な戦士ぶりだ。とにかく、生きていて良かったな、ベンディス」

 ビレットが、ベンディスの肩を力強くつかむ。

「では、わたしはこれで失礼します」

 連絡役が、一礼した。

「氏族長に、ベンディスが深謝していたと、伝えてほしい」

「承知しました」

「さて、これで次の戦の目的がひとつ増えたな。リダの救出だ。かわいい妹のためにも、絶対に勝たねばならぬぞ」

 ビレットが、ベンディスの眼を覗き込むようにして言う。

「そうですね」

 ベンディスは力強くうなずき、心中で誓った。

 ……リダ。必ず助け出すからな。待っていてくれ。



「あー、夏希と凛ちゃん。ちょっと、いいか?」

 『プチ会議』がお開きとなり、仕事部屋を出ようとした二人を、生馬が呼び止めた。

「なに?」

 凛が、面倒くさそうな表情で振り返る。

「ちょっと、相談があるんだ」

 小声で、生馬。

「わたしたちに?」

 夏希は小首を傾げた。

「そうだ。男どもじゃ役に立たない話なんだ」

「いいでしょう。聞きましょう」

「えーと、ジンベルで簡単に手に入って、なおかつ女性がもらって嬉しい品物って、なんだ?」

 真顔で、生馬。

「……女性がもらって嬉しいって……それプレゼント?」

 凛が、問う。生馬が、こっくりとうなずいた。

「どう考えても、もらえるのはわたしでも凛でもないわね」

 夏希は苦笑いを浮かべた。

「好きな女性でもできたの?」

 ずけずけと、凛が訊く。

「……正直に言うと、惚れられたらしい。あー、俺は硬派で通ってたから、こういうことは苦手なんだ。頼む、知恵を貸してくれ」

 いつもの生馬らしくない物言いに、夏希は凛と顔を見合わせて微笑んだ。

「いいわよ。でも、相手が誰だか知らないと、的確なアドバイスは無理ね。ダイエット中の相手に甘いものを贈ったりしたら、一発で嫌われちゃうわよ」

「相手は……あー、イブリスだ」

「イブリスって……まさか、イブリス王女?」

「そのまさかだ」

 イブリス王女。言うまでもなく、ヴァオティ国王の娘である。唯一の子であり、つまりは唯一の後継者だ。現国王が死去すれば、自動的に彼女があとを継ぎ、女王となる。

「凄いじゃない。結婚しちゃいなさいよ。女王の夫って、なんて呼ばれるんだっけ?」

王配おうはい、あるいは王婿おうせいね」

 歴史通の凛が、教えてくれる。

「生馬が王家の血縁となれば、わたしたちの地位も安泰でしょう。なにしろ、子供が将来のジンベル国王なんだから」

「……気が早すぎるぞ、夏希。一応コクられたが、プロポーズされたわけじゃないんだ」

 迷惑顔で、生馬。

「生馬はイブリスのことをどう思ってるの?」

「色々話してみたが、いい娘だよ。恋愛経験が乏しい俺が言うのもなんだが、かなり初心だな。正直、気に入った」

「国王はどうなの? 愛娘をたぶらかした罪で生馬が処刑、連座してあたしたちまで投獄、なんて話にはならないでしょうね」

 真剣な口調で、凛が訊く。

「その点は心配ない。一応、陛下承認の上での付き合いだ。より深い仲になるかどうかは……彼女次第だな」

「結婚しちゃいなさいよ。応援するわよ」

 夏希はけしかけた。イブリスはちょっときつい顔立ちだが、けっこう美人だし、ジンベル人としては背も高い。生馬とは似合いのカップルだろう。

「あのねえ、夏希」

 凛が、呆れたようにたしなめる。

「生馬が本当にイブリスの婿になったら、いろいろと大変でしょうが。国王が、娘婿が異世界に帰ることを、承認すると思う?」

「そっか」

 異世界人五人は、期間限定でジンベル王国に雇われた身なのだ。生馬が王室の一員となってしまえば、当然異世界へ戻ることはできなくなるだろう。

「まあ、そんなのは先の話だ。今は、とりあえず気の利いたプレゼントをイブリスに贈って、機嫌をとっておきたい。なにかいい案はないか?」

「プレゼントねえ」

 夏希は首をひねった。金や銀の産出が主産業のひとつである国家の王女なのだから、光り物など見飽きているだろう。商業が未発達なのでブランド物があるわけでもないし、他に女性が喜びそうなものといえば……。

「やっぱり、花とかが無難なのかな」

 自信なさげに、生馬が言う。

「あ、花さえあげとけば女の子は喜ぶ、ってのは男の妄想だから」

 凛が言い放つ。

「以前デート前に花束渡されてむかついたことあったし。映画の上映中ずっと握ってろっていうの? 気の利かない男は、嫌われるわよ」

「何かないかしらねえ」

 夏希は首をひねった。小国とはいえ王女様なのだから、何不自由ない生活を送っているはずだ。そんな女性が喜ぶプレゼントと言えば、何だろうか。

「……多少卑怯だけど、食べ物で釣ってみますか」

「食べ物? 俺、料理は苦手だぞ」

 凛のアイデアを聞き、生馬がきょとんとした顔をする。

「あたしが作るのよ。米粉クッキーか何かを。それを、『仲間の異世界人に頼み込んで作ってもらった特製』とか言って渡すの。たぶん、喜ぶと思うよ。以前に試作のお菓子を献上した時に喜んでもらえたから、甘いもの好きなはずだし」

「……かえって生馬と凛の仲を邪推して嫉妬したり、深読みして料理下手をつつかれたように感じたりしないかしら」

「ないない。今時の娘ならともかく、箱入り王女様よ。自分で料理などするはずないし、あたしなんて眼中にないわよ」

 凛がからからと笑いながら、夏希の心配を一蹴する。

「じゃ、暇ができ次第焼いてあげる。ということで、その時はシフォネ貸してね、夏希」

「……なんで?」

「うちのミュジーナは、最近ほとんどあたしの助手と化してるの。あたしも忙しいし、生地こねたりするのはシフォネにやってもらうわ。いいでしょ?」

「ならいいけど」

「すまんな、二人とも。迷惑を掛ける」

 生馬がその長身を折って、女性二人に頭を下げた。

「いいのよ。他人の恋路を手助けするのは、結構好きだから」

 凛がそう応じて、意味ありげににやりと笑う。


第二十八話をお届けします。

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