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白き巫女と蒼き巫女【改稿中】  作者: 高階 桂
第一章 高原編
21/145

21 砦、陥落

「間違いなく来る。伝令!」

 見張り台から望遠鏡を覗いていた生馬は、市民軍の少年兵を呼んだ。

「南の城壁まで伝令。発、教練隊長。宛、作戦隊長。蛮族の攻勢はまもなくと思われる。作戦計画に変更なし」

 十三歳くらいの少年兵……腰に大ぶりの鞘つきナイフを下げていることと、伝令の証である土染めの褐色の腕章をつけていることを除けば、どこにでもいる若いジンベル人と変わらない……が、しっかりとした口調で復唱した。彼らは生馬自らが市民の中から募集し、聡明さと脚力を重視して選抜、訓練を施した伝令兵である。作戦の鍵は部隊間の通信にある、と言う点で生馬と拓海の考えは一致しており、連絡に関しては充分に気を使い、準備を整えてあった。

 伝令兵が走り去ると、生馬は再び望遠鏡を密林に向けた。薄くたなびいていた朝靄が、日差しを浴びて急速に消えてゆくのが見える。その奥で、わずかではあるが動きが認められる。むろん、蛮族の攻撃準備だ。

 すでに配下の兵三百は戦闘準備を終え、配置に就いていた。撤退支援の市民軍五十名も、砦後方で待機中だ。砦は引き絞られた矢弦のように、戦いに備えている。

 生馬が覗く望遠鏡の接眼レンズが、曇った。

 腰に吊るしていた手拭いを手にした生馬は、それで接眼レンズを拭いた。ついでに額に湧き出た汗も拭う。

 太陽はいまだ東の低い位置にあったが、気温はぐんぐんと上昇を続けていた。いつもはジンベル渓谷沿いに涼風が吹いているのだが、今日は不気味なくらいに凪いでいる。

 手拭いを腰に戻しつつ、生馬はつぶやいた。

「暑くて長い一日になりそうだな」



「ご苦労だった。この下のラッシ隊長のところで待機してくれ」

 拓海が生馬からの連絡を伝えた少年兵を労いつつ、新たな命令を伝えた。一礼した少年兵が、身軽に梯子を伝い降りてゆく。

「……いよいよか」

 夏希は肚を括った。こうなったら、じたばたしても始まらない。拓海の作戦通りにことを進めて、蛮族が撤退することを祈るしかない。

「まあ、時間も人手も資材も不足していたが……なんとか間に合ったな。準備はすべて済ませた」

 拓海が、ジンベル市街地を見下ろす。

 ふたりは南の城壁の上に新たに建てられた見張り台の上に立っていた。高さ六メートルほどの、丸太を組み合わせた簡素なものだが、矢避けの板だけは四周にしっかりと張られており、曲射の矢を防ぐ屋根もついている。地面からの高さは、十メートル程度か。さすがに砦の様子は背の高い樹木が密集しているジャングルに遮られて窺えないが、ジンベル南平原はすべて見通せるし、背後に眼を転ずればジンベルの街も隅々まで見渡せる。

 夏希も拓海に釣られるように市街地を見下ろした。苦労して作り上げたキルゾーンのバリケードの連なりが、はっきりと見える。

「おそらく昼前にはここも戦場になるだろう。頼んだぞ、夏希」

 拓海が言って、手振りで降りるように促した。


 夏希はゆっくりと梯子を降りた。城壁の上で待っていたアンヌッカと合流する。

「いかがでした?」

「作戦隊長の見立てでは、昼前に襲ってくるそうよ。わたしたちも準備を進めましょう」

 夏希は先に立って城壁の階段を降りた。

 すでに、市街地はぴりぴりとした空気に満ちていた。ほとんどの家や商家が扉を閉め、のんびりと歩いているのは野良猫くらいである。何軒かの家では女性たちが集まって、炊き出しを行っていた。炊き上げられた米が大きな板の上に山盛りにされ、湯気をあげている。

「ついでに凛の様子を見ていきましょうか」

 夏希は西の市場へと向かった。市場と言っても築地や大田みたいなものではなく、広場の周囲に小規模な商店と差し掛け小屋が軒を連ねているだけだ。営業の権利は国家が管理しており、差し掛け小屋は商人たちがお金を払って借りている。それら商人は、自分の商品をそこで捌いたり、あるいは農産物を自ら直接売りたい農民や他国からやってきた商人に又貸しして利益を得ている。広場は露店が営業したり、他の都市からたまにやってくる芸人や楽人などの興行場所として使われているが、今日はその広さを利用して凛が指揮を執る臨時救護所が開設されていた。

「どう?」

「とりあえず、準備は万端ってとこね」

 手縫いした白いエプロンを着けた凛が、中途半端に胸を張る。

「……そうとう人手不足みたいね」

 夏希はテントもどき……地面に突き刺した数本の棒に布を張り渡しただけの、単なる日除け……の下で待機している救護要員を見て、首を振った。ほとんどが、初老の女性と幼い少女だ。男性の姿もあるが、むしろあんたの方が介護が必要じゃないの、と突っ込みたくなるような老人だけである。

「まともに動ける市民は女性でもみんな拓海が引っ張ってっちゃったからね。人手が足りるかどうかは、どれだけ怪我人の数が出るかに掛かってるわ」

 皮肉っぽく、凛が言う。

「何人くらいなら、対応できそう?」

「軽傷で百人、ってとこかな。重傷者は、せいぜい三十人ね。ジンベルの内科は、結構進んでるわ。漢方薬や薬用ハーブに使われているような植物が、医学院では薬として普通に処方されているし。でも、外科の方はさっぱりよ。消毒が必要なのは理解されているけど、その方法はお湯を使うのがせいぜい。石鹸が間に合ってよかったわ。あと、一応消毒用アルコールも作ってみたけど、ものになるかどうか……」

 凛が、並べてあるガラス瓶を見やる。

「そんなもの、いつの間に用意したの?」

「蒸留自体は簡単。ジージャカイから輸入した米の醸造酒を熱して、飛んだアルコールを集めただけ。まあ、米焼酎よね」

「ここ、焼酎ってないの?」

 夏希は訊いた。お酒はもちろん飲まないから、あまり興味はないが、焼酎が製造できるのならば輸出用の商売になるかもしれない。

「蒸留法は知られていないから、蒸留酒はないわ。醸造酒だけ。お米や芋から作る濁酒どぶろくと、もう少し洗練された清酒に近いお酒、それに果実で作るワインのようなお酒だけね。蒸留酒の生産はできないことはないけど、あんまりやりたくないなぁ」

 凛が、渋る。

「どうして?」

「強いお酒が未成熟な社会に無秩序に入り込むと、ものすごい悪影響があるのよ。それこそ、麻薬に近いくらい。ヨーロッパのジン、ロシアのウォッカ。アメリカ建国前の北米のウィスキー。中米のラム。ジンベル人もお酒を飲むけど、酔っ払って道を歩いていたりする人は見たことないでしょ? 弱い醸造酒でべろべろに酔うには相当の量を飲まなきゃならない。でも、蒸留酒ならすぐに酔える。心理的にも経済的にも、障壁が少ないの。強いお酒の流通は、注意して扱わないとアルコール中毒患者を大量に生み出すだけになりかねない」

「……って、ずいぶんお酒に詳しいわね」

「そこはあまり突っ込まないで」

 凛が、わざとらしく眼を逸らす。

「じゃ、お酒輸出計画は封印ね……あら?」

 夏希は脇の路地から歩んできたエイラに気付いて少しばかり驚いた。巫女の魔術は戦争に際しまったく役に立たないので、今日はてっきり自宅か王宮にこもっているはずだと思い込んでいたのである。

「ああ、彼女? 救護所を手伝いたいと言ってくれたから、加わってもらったの」

 夏希の驚きと視線の先に気付いた凛が、説明する。

「お早うございます、夏希殿、凛殿」

「夏希様ぁ~、凛様ぁ~。おはようございますぅ~」

 エイラに続いて、後ろから飛んできたコーカラットが挨拶する。夏希と凛も挨拶を返した。

 今日のエイラの装いは、いつもの巫女姿ではなく、足首まである薄手のワンピース姿だった。かなり着古してあるようだ。汚れるのを覚悟の上で着ているらしい。

「コーちゃんも、お手伝いするの?」

「はいぃ~。人間の争いには介入いたしませんが、怪我人の面倒を見るのは構わないのですぅ~。わたくし、かなり器用なのでお役に立てますですぅ~」

 触手を振りたてて、コーカラットが主張する。たしかに、触手の先を鋭いメスや小さなピンセットに変形させることができるコーちゃんなら、名外科医になれるだろう。

「結局、戦争になるのを止められなかったわね」

 悔しそうに、凛が言う。

「仕方ないよ。わたしたちの力じゃ、無理だもの」

 わずかに顔をしかめ、夏希は応えた。貴族に任じられ、賢者面などしているが、所詮は女子高生である。規模が小さいとは言え、国の政治や国家間の外交の流れを変えることは不可能だ。

「ねえ、夏希。あんた、あたしになにか隠してない?」

 顔を近づけた凛が、不意に小声でそう訊いてくる。

「隠しごと? まさか。ないわよ」

「普通、異世界召喚された人物は何らかの特殊な能力を持っているはずよ。実は魔術が使えたり、超能力が芽生えてたり、ほんとはジンベルの生まれだったりしない?」

「……それ、小説とかの話でしょ?」

「まあね。でも、それがお約束というものよ。エイラから、魔法のアイテムとかもらってないの?」

 真顔で、凛が問う。

「ないない。そんな凄い力があったら、戦争止めに入ってるよ」

 夏希は失笑した。ファンタジー小説のヒロインなら、ジンベル人と蛮族がにらみ合っているところへ出て行って、『流血は愚かだ』とかなんとか説くのだろうが……夏希がそんなことをしたらまず間違いなく全身に矢を浴びて絶命することだろう。

「あんたに期待したあたしが馬鹿だったわ。ま、とにかく、怪我しないでね」

 凛が真剣な表情で夏希に言う。

「向こうなら救急車呼んで入院すれば三日で退院できるような怪我でも、こっちじゃ命取りになりかねないわ。特に骨折は要注意よ。皮膚を突き破るような形で複雑骨折でもしたら、まず命はないと思ってちょうだい」

「わかった。充分に気をつけるわ」

 夏希はうなずいた。



「ついに来やがったか」

 望遠鏡を覗く生馬の口から、つぶやきが漏れる。

 密林の中から……より正確に言えば密林に隠された軍用路から、蛮族があふれ出てくる。ジンベル川にも、川船が現れた。蛮族戦士を満載し、川を下ってくる。

 すぐさま、砦から多数の矢が飛んだ。弓隊の統率は、防衛隊の弓隊長に任せてある。矢を惜しまずに使い、蛮族を砦に取り付かせないのが、当面の目的だ。

 生馬は望遠鏡を下ろした。戦場全体を眺め渡すようにして、戦況を把握しようとする。


 第一陣約七百の高原戦士が、一斉に突撃する。東岸に三百、西岸に三百、そして川船に乗るもの百。

 全員が、投げ槍兵である。彼らが使う投げ槍は、長さ一メートル半程度。手槍としても使える重い物を一本、投げ専用の軽い物二本を持つのが基本である。もちろん、厳格に定められた軍規があるわけではないので、携行本数は各自の裁量に任されている。通常、投げ槍兵が持つ盾は接近戦で敵の剣や槍を防ぐに効果的な四十センチ四方程度の木製角盾だが、今回は弓兵より借りた高さ一メートル半、幅六十センチほどの大盾を手にしている。これは木枠に厚手の革を二枚張ったもので、大きさの割りにきわめて軽量である。鏃の貫通を防ぐことはできないが、矢本体の勢いを削ぐことができるので、身体から離して支えている限り傷を負うことはない。

 雄叫びをあげて突っ込んでゆく第一陣を、密林の中に半ば隠れた弓兵四百が援護する。投げ槍兵の頭越しに放物線を描いて放たれた矢が、砦に篭るジンベル兵に降り注ぐ。そのほとんどは、屋根と胸壁に防がれてしまったが、弓兵たちは黙々と十秒に一本ほどの素早いペースで矢を射続けた。目的は、味方突撃の援護である。近代銃器による制圧射撃と同様、精度よりも発射体の投射数が物を言う。

 刈り残された切り株や下生えの根本、わざと置き去られた石などに蹴躓きながら、投げ槍兵の群れはいくつかの集団に分かれて突っ込んでゆく。掲げられた大盾に、ジンベル弓兵が放った矢が突き刺さる。足を取られて転んだ戦士には、容赦なく砦から矢が浴びせられる。高原の戦士は仲間の死体を踏み越えながら、しゃにむに砦に迫った。


 ……恐ろしい連中だ。

 見張り台から戦況を観察しながら、生馬は蛮族戦士の勇敢さに畏敬の念を覚えた。

 すでに、戦場には数十におよぶ蛮族戦士の死体が転がっていた。いずれも、矢を受けて倒された者だ。蛮族弓兵も盛んに射返しているが、ジンベル側はしっかりと守られた砦の中から反撃しているので、矢傷を受ける者はごく少ない。二百名の弓兵の半数は防衛隊の兵士だし、残る市民軍弓兵もかなり鍛えられた連中だ。士気も盛んで、果敢に反撃している。

 かつん。

 生馬が篭る見張り台にも、矢が突き立つ。

 当たれば死ぬかもしれない、と頭ではわかっていたが、生馬は頭を引っ込める気になれなかった。眼前で、文字通りの死闘が繰り広げられているのだ。男同士……たぶん、蛮族には幾許かの女性も混じっているのだろうが……の、命がけの闘争。

 生馬は息を大きく吸い込んだ。違う。空気からして、違っている。戦いに臨んでいる何百、いや何千もの人々が放つ殺気のような『気』が、大気中に満ち満ちている。平和な世界……生馬が暮らしていた時代の日本では、絶対に吸うことができない空気だ。

 これが戦場の空気なのか。戦国時代の数多の合戦も、このような空気の中で行われたに違いない。信長も、信玄も、謙信も、政宗も、勝家も……。宗茂や幸村や忠勝や、生馬ごひいきの義弘公も、この空気を吸い、そして戦ったのだ。

 ……この瞬間のために、俺は今まで生きてきたのかもしれない。

 生馬の脳裏に、そんな言葉が浮かんだ。映画のセリフだったか、小説の一節だったか。

 最初に耳にしたときには、いかにも陳腐なセリフだと思ったが、今は違う。間違いなく、境 生馬はこの瞬間のために生まれたのだ。そう彼は確信した。


 ジンベル川水中の杭に引っ掛かった川船から、高原の戦士たちが次々に飛び降りる。

 そこにも矢が降り注ぐ。河原の石に足を取られ、あるいは盾を掲げ損なった戦士に、容赦なく矢が突き立つ。あがる悲鳴と、流れる血。傷を負った戦士が、水辺に倒れ伏す。頭部に矢を受けて絶命した戦士が、船から弾き飛ばされるようにして水面に落ち、低い水柱をあげる。流された死体は水中の柵に引っかかって止まるが、血液の細く紅い糸は柵にまとわりつくように流れながら、さらに下流を目指してゆく。


 ……そろそろか。

 生馬は撤退命令を下すタイミングを計った。あまりに早く砦を放棄すれば、蛮族は罠を警戒するだろう。ごく自然に、支えきれないと判断しての早期撤退を装わねばならない。

 盾を構えた数名の蛮族が、砦前面に取り付いた。張り出し歩廊から下に向け、長槍が繰り出される。穂先は、簡単に盾を貫き、蛮族に突き刺さった。矢避けの革盾では、槍は防げない。

 蛮族の第二波が、雄叫びをあげながら突入してくる。その数、両岸合わせてざっと四百か。第一波は勢いを失いつつあるが、それでも幾許かは砦に取り付きつつある。

 潮時だ。

「伝令! 撤退準備!」

 生馬の声に、控えていた伝令少年兵四名が、弾かれたように見張り台を駆け下り、散ってゆく。伝令が命令を各隊に伝達してから、二ヒネ……約三分……以内に各隊が撤退を開始する段取りである。副砦には、旗を掲げて合図する手筈だ。

「ソリス。俺たちも行くぞ」

「はっ」

 残っていた伝令兵が、短めの槍を手にすると生馬に従った。まだ十四歳だがジンベル人としては長身で、百七十センチを超える。他の伝令兵と同じく集められて訓練された少年だが、飲み込みが早い上に腕っ節が強く、将来性を見込んだ生馬は護衛兼用の伝令として彼を手元に置いて使っていた。

 生馬は穏やかな表情を取り繕うと、見張り台を駆け下りた。撤退作戦の際に指揮官が必死の形相では、部下が浮き足立ってしまう。危急の際に狼狽する上官は、場合によっては敵よりも厄介な存在になるのだ。

「負傷者は残らず連れてゆけ!」

 何度も部下には徹底させたことを、さらに指示しつつ、砦の中を早足で歩く。

 手筈どおり、まず市民兵が持ち場を離れ、砦の外へと出てゆく。重傷者は四人がかりで手足を掴まれ、軽傷者は自らの足で、または他人の肩を借りて、整然と退却する。

 生馬は主砦の出口のひとつの脇に立った。作戦当初から、彼は自分が最後に砦を去ると決めていた。息のある部下は一人残らず撤退させることを徹底するためだったが、砦に対する感傷も少なからずあった。なにしろ、駿と二人三脚で作り上げた砦である。しかも、撤退を前提とした戦いであったが国王から正式に守備を任されたのだ。戦国マニアとしては、この砦は『自分の城』という意識があった。

 かつんかつんと、矢が屋根に降り注ぐ音が聞こえる。蛮族の喚声は、驚くほど近い。

 弓隊長の号令が掛かり、最後まで矢を射ていた防衛隊の弓兵が撤退を始める。負傷者が、半ば引きずられるようにして砦の外に出される。戻ってきた伝令兵が、生馬の横に集まった。ちらりと視線を走らせると、四人ともそうとう怯えたような表情だ。だが、ソリスだけは落ち着いている。顔に緊張の色は見えるが、怯んではいない。

「左、残存者なし!」

「右も残存者ありません!」

「副砦、赤旗を視認!」

 砦の左右の後衛を任されていた兵士と、見張りの兵士が相次いで生馬に報告する。

「よし、撤退!」

 生馬は命じた。砦前面をよじ登ってきた蛮族は、早くも胸壁のあいだに顔を覗かせている。


 すでにジンベル側の主力は砦を去り、ジンベル南平原へと続く細い道をひた走っていた。撤退援護の市民軍兵士大半が、そのあとに続く。

 砦から出た生馬らは船着場に走り込むと、待っていた川船十艘に分乗した。市民軍の船頭が、すぐさま船を出す。

 砦内に侵入した高原戦士は、速やかにこれを占拠した。一部の者が船着場に駆けつけた時には、生馬らを乗せた川船はうに二シキッホほど下流にあり、急速に離れつつあった。追撃しようにも川船は一艘たりとも残されておらず、何人かが悔し紛れに矢を射てみたが一本も当てることはできなかった。


第二十一話をお届けします。

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