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白き巫女と蒼き巫女【改稿中】  作者: 高階 桂
第一章 高原編
17/145

17 緊急召喚

「で、勝てる方法って、何なの?」

 凛から借りた手拭いでシャツの水気を吸い取りながら、夏希は詰問口調で尋ねた。

 砦の北側にある小屋のひとつに、夏希らは集っていた。小さい上にちょっと低すぎるテーブルを挟んで、彼女の正面に生馬、右側に凛。左側には、アンヌッカが座っている。コーカラットも同席していたが、話し合いの内容には興味がない様子で、部屋の隅でゆっくりと回転している。

「エイラに頼むしかない」

 生馬が言って、自分の水筒から水をひと口飲んだ。

「ってことは、召喚?」

 凛が、訊く。

「そうだ。この状況を打破できる人物を、エイラに召喚してもらうんだ」

「そりゃ、プロの軍人とか呼べれば、うまく行くかもしれないけど……」

 夏希は口を尖らせた。経験豊富で、なおかつ中世的な軍事に詳しい人を召喚できれば、ジンベル防衛隊と市民軍を率いて蛮族を打ち破ってくれるかもしれない。しかし、今までの経験からすれば、エイラが召喚できる人物は夏希のクラスメイトだけだ。まず期待薄だろう。

「ひとり、心当たりがある」

 生馬が、薄く笑う。

「……まさか、桧山君呼ぼうってんじゃないでしょうね」

 凛が、少しばかり尖った声で問う。

「そのつもりだ」

 しごく真面目な顔で、生馬がうなずいた。

「桧山君ねえ……」

 桧山拓海。彼も、夏希たちのクラスメイトである。成績はかなり上位だが、それほど目立つ存在ではなく、女子の間でも話題にのぼることのない男子ベスト3に確実に入る生徒だ。

「そういえば、生馬とは仲良さそうだったね」

 思い出しながら、夏希はそう言った。昼休みとか、よくふたりで話し込んでいたし、下校する時に並んで歩いている姿も何回か見かけたことがある。背は生馬のほうが二十センチ以上高いから、吊り合いの取れない妙な二人連れということで、鮮明に覚えている。

「拓海は重度の軍事オタクだ。あいつの軍事知識は半端じゃない。俺たちのクラスに、この苦境を救ってくれる者がいるとすれば……それは間違いなく拓海だ」

 生馬が断言する。

「他に方法もなさそうだしねぇ」

 夏希からおおよそ事態を説明されている凛が、頭を掻いた。

「アンヌッカ。どう思う?」

 夏希は副官に振った。

「生馬様が太鼓判を押しておられるのであれば、その拓海殿はきっと優秀なお方なのでしょう。僭越ながら意見を申し述べさせていただけるのならば、わたしは拓海殿を召喚すべきと考えます」

 控えめな口調で、アンヌッカが言う。

「コーちゃん……に意見を訊いても意味ないか」

「魔物は人間同士の紛争には非介入なのですぅ~」

 なおもゆっくりと……三秒に一回転くらいか……回りながら、コーカラットが答える。

「なら決まりだな。エイラに拓海の召喚を依頼する」

 生馬が、夏希と凛の顔を順番に見る。

「……いいわ。賛成する」

「同じく」



「他に方法はないと言うのか?」

 ヴァオティ国王が、生馬に問う。

「はっ。蛮族が造っている道はおそらく小さな荷車が通れるほどの幅があります。武装兵が二列縦隊で行軍できるでしょう。この道が砦まで至れば、数千の敵が襲ってきます。現状で撃退するのは、ほぼ不可能かと」

「まことか、ラッシ隊長?」

「生馬殿の申し上げた通りと思われます」

 ジンベル防衛隊隊長が、生馬の言葉を追認する。

 謁見の間には多くの人々が集められていた。夏希ら三人の異世界人。ジンベル防衛隊の幹部。国王の側近たち。エイラもいたが、コーカラットはスペースの都合上通廊に待機させられている。

「生馬殿。その人物を召喚できれば、蛮族を撃退できるのだな?」

 国王が、再び問う。

いくさに確実はございません。しかし、彼ならばやってのけると、それがしは確信しております」

 言葉とは裏腹に、やや自信なさそうに、生馬が答える。

 国王が、エイラを見た。

「巫女殿。召喚できるか?」

「生馬殿の言葉を拝借しますが……召喚に確実はございません。しかしながら、今までの召喚状況を鑑みますに……」

 エイラが、並んでいる三人の異世界人を見やる。

「彼らの近しい人物が召喚される可能性は高いと思われます。やってみる価値はあるものと、わたくしは確信しております」

「むう」

 一声唸った国王が、黙り込む。眉間の皺の深さが、その胸中の苦悩を如実に表しているかのようだ。

「陛下」

 ラッシ隊長が、決断を促すかのように、身を乗り出した。

「よかろう」

 国王が、断を下した。

「巫女殿。すぐに件の人物を召喚したまえ。ラッシ隊長。その者に防衛隊内で適切な地位を与えよ。生馬殿と協力し、蛮族撃退の策を練るように」



「……本当に桧山君が召喚されたのかしら」

「まあ、エイラが失敗して優秀な軍人でも召喚してくれたのならば、それはそれで嬉しい誤算だがな」

 夏希のつぶやきを聞きつけた生馬が、言う。

 すでに緊急召喚は行われ、市街地に出現した人物は市民と防衛隊兵士によって保護されたとの報せが届いている。夏希ら三人の異世界人とアンヌッカ、エイラ、そしてコーカラットは、足早に保護された人物のもとに向かっているところであった。

「こちらです、皆様」

 通りで待機していた兵士が、一行を路地に案内する。どうやら、一軒の民家に件の人物は保護されているようだ。

 生馬が先頭を切って階段を上る。夏希はそのすぐあとに続いた。奥の部屋の前で立哨していた兵士が、戸口から退いて一行を通す。

「来たな」

 生馬がにやりと笑って、戸口をくぐった。

「予想通りね」

 夏希も入室した。小さなテーブルを挟んで、やや小柄な若い男性が二十歳過ぎくらいのジンベル女性と身振りだけで談笑している。銀色のメタルフレームの眼鏡。運動不足を物語るやや小太りの体型。間違いない。桧山拓海である。

 拓海が、物憂げにこちらを見上げた。夏希に目を留め、破顔する。

「おや、夏希じゃないか」

 え。

 夏希は戸惑った。桧山拓海とはあまり接した機会はない。何度か会話した覚えはあるが、いつも『森さん』と呼んでもらっていたはずだ。

「おお。凛ちゃんもいるのか」

 夏希に続いて姿を見せた凛に、拓海が笑顔のまま声を掛ける。エイラが入室すると、拓海が腰を浮かせた。アンヌッカが顔を見せたところで、完全に立ち上がる。

「おい、拓海」

 生馬が、拓海の肩をつかんだ。

「なぜ、俺を無視する」

「あ、お前もいたか。まあいい。俺はあの娘が気に入った。あとはお前にやる」

 拓海が、そう言いつつエイラを指差す。

「……なに言ってんだ、拓海?」

「だから、他の女はお前の好きにしていいから、邪魔するな」

「寝ぼけてるのか、お前?」

「寝ぼけてなんかいない。寝てるんだ。ここは俺の夢の中だろ?」

 笑顔の拓海が、言う。

 ようやく夏希は拓海のボケた発言を理解した。異世界に放り出された彼は、この状況を自分の夢の中だと解釈しているのだ。

「言っとくが、これは現実だ。お前の夢じゃない」

 生馬が説得にかかる。

「馬鹿言うな。こんなきれいなお姉さんや、美少女、夏希に凛まで揃ってるのに、現実だとでも言うのか。アホか、お前は」

「アホはお前のほうだ。いい加減、目を覚ませ」

「じゃあ、現実と言うことにしておいてやる。だから、おれがあの美少女と楽しんでるあいだは邪魔するな」

 拓海が生馬を押し退けようとする。

「やめんか!」

 生馬が声を荒げつつ、拓海の腕をつかんだ。

「放せ生馬。そのあいだ、お前は夏希とでも遊んでろ」

「あのねえ、桧山君」

 頭痛がしそうな生馬と拓海のやり取りに呆れた夏希は、思わず一歩前へ踏み出した。

「ほら、夏希もやる気だぞ。相手してやれ」

 拓海が、生馬を夏希の方へ押しやろうとする。

「よせ、拓海」

「遠慮するな。どうせ俺の夢の中だ。それに、お前夏希に気があるんじゃなかったのか?」

 拓海の言葉に、生馬が思わず動きを止める。

「たしか二ヶ月くらい前、夢の中で夏希とやったとか……うぐっ」

 生馬の大きな手が、拓海の口を塞いだ。

「ちょっと、男同士で話をつけてくる」

 慌てた口調で言った生馬が、拓海を半ば抱きかかえ、引きずるようにして戸口に向かった。もちろん、口は封じたままだ。アンヌッカとエイラが、急いで道を開ける。

「……召喚したの、失敗だったかなぁ」

 凛が、頭を掻いた。

「かもね」

 ため息をつきつつ、夏希も同意した。


 いかなる手段を講じたのか不明だし詳しく知りたくもないが、生馬は拓海にこれは夢でないことを納得させたらしい。

 さらに、コーカラットの紹介とエイラの言語の魔術、さらにエイラやアンヌッカとの会話という状況説明三点セットで、ようやく拓海も自分が異世界に召喚されたことを納得したようだった。

「そうか。宮原もいるのか。で、なんで俺が召喚されたんだ?」

 皆の顔を眺めつつ、拓海が訊く。

 生馬が、蛮族襲来の危機について説明を始める。途端に、拓海の目が輝いた。

「ほう。俺に軍隊の指揮を任せようというのか?」

「いや。それは無理だ」

 生馬が、首を振る。

「あくまで指揮を執るのはラッシ隊長だ。俺はナンバー3。あくまでラッシ隊長の部下だ。お前にはそれなりのポストを用意してもらうが……俺より格下なのは間違いない」

「まあ、仕方ないな。外部の人間を招請していきなり指揮させるなんて、まともな軍隊のやることじゃないし」

 拓海が、納得したようにうなずきつつ腕を組む。

「とりあえずいったん王宮に戻ろう。詳しい説明は、そこでしてやる」

 生馬が、言う。


 生馬による状況説明は、一時間を越える長さとなった。地図や組織図、場合によっては実物を参照しながら、全般的な政治情勢、ジンベルとその南方の地形、ジンベル防衛隊と市民軍の編成、その使用する武器、蛮族の様子などを事細かに説いてゆく。

「とまあ、こんな感じだ」

 喋り疲れたのか、生馬が首筋を軽く揉みながら、言う。

「どう? 桧山君なら、勝てそう?」

 夏希は訊いた。

「情報不足だな。やはり、現場をこの目で確認しないと、なんとも言えない……。その前に、桧山君ってのは、やめてほしいね。学校じゃないんだから。呼び捨てでいいよ」

「わかったわ、拓海」

「とにかくもっと情報がほしい。生馬、肝心なことを訊くが、蛮族の戦争目的はいったいなんなんだ?」

「それが、よくわからんのだ」

 生馬が、困り顔をする。

「これが蛮族による平原地帯侵攻の先駆けなのか、あるいはジンベルにのみ局限した侵略なのか、または単なる略奪行なのか。ひょっとすると、蛮族内部の政治的理由で、派遣部隊を編成しただけかもしれない。蛮族に、常備軍はないからな。純然たる内政上の問題がからんでいる可能性も否定できない」

「戦争目的不明か。これは、厄介だな」

 拓海が腕を組む。

「ねえ、戦争目的って、そんなに大事なの?」

 凛が、訊いた。

「大事だよ、凛ちゃん」

 拓海が丁寧な口調で答える。

「戦争目的がわかれば、戦略目的と戦略目標を予測できる。戦略目的と戦略目標がわかれば、戦術が予測できる。戦術がわかれば、敵の作戦内容が予測できる。作戦内容がわかれば、先手を打ったり弱点を衝いたり奇襲を掛けたり罠に嵌めたりできる。歴史の話をしようか。第二次世界大戦の太平洋戦域で、アメリカは日本の戦争目的およびその戦略が基本的に防勢であることを知っていたし、日本海軍の能力ではアメリカ西海岸を脅かすことが不可能なことも開戦前からの情報収集と分析で理解していた。だからこそ、主力艦隊やフィリピン、グアムなどの要地を失っても慌てずに戦力再建を行いつつ、先にドイツを片付けるという戦略が取れたわけだ。当時のソ連も同様に、日本が極東で戦端を開く気がないことを知っていたから、全力をドイツに対し注ぐことができたし、ウラル以東に安心して軍需工場を移築できたんだ。敵の意図を知ることは、重要なんだよ」

「よろしいですか」

 戸口に、アンヌッカが現れた。一枚の紙を手にしている。

「いいわよ」

 夏希は許可を与えた。アンヌッカが、一礼してから入室する。

「本日捕虜にした蛮族から尋問で得られた情報です。お聞きになりますか?」

「いいタイミングだな。頼む」

 生馬が、報告を促す。

「捕虜の所属……イファラ族ディーバ支族。姓名……オッカ・アサ。年齢……三十四歳。その他、個人的な事柄も供述しましたが、これは省略させていただきます。彼の任務内容……作業箇所前縁前方における警戒。作業内容……高原地帯北端から渓谷部密林を抜け平原地帯南端に達する軍用路の建設。動員人員……彼の推定で約一万名。軍用路完成後に行われるであろう軍事行動に関して……目的、不明ながら彼の推定ではジンベル攻略。規模、不明ながら彼の推定では数千。指揮官、イファラ族氏族長サイゼン。なお、これも彼の推定ですが軍用路建設速度は一日につき九ないし十シキッホとのことです」

「ずいぶんと細かく聞き出せたものね」

 凛が、感心した。

「……尋問係が、優秀ですので」

 ややためらいを見せながら、アンヌッカが答えた。夏希は捕虜となった蛮族に同情した。推測だが、尋問にはそれなりに苛烈な手段が使われたのではないだろうか。

「一日十シキッホか。すごいペースだな」

 生馬が、唸る。

「シキッホって、何メートルだっけ?」

 凛が、首を傾げる。

「百歩で一シキッホよ。だいたい、六十メートルくらいね」

 夏希は教えてやった。ちなみに、一歩の長さはキッホという単位である。Kの音を抜くと『一歩』という日本語に驚くほど似ているが、どうやら偶然の一致のようだ。

「あの位置から砦まで、約三キロか。早ければ四日後、遅くとも五日後には、到達するな」

 広げてある地図を睨みながら、生馬。

「スピードアップしちゃうんじゃないの?」

 夏希はそう言った。

「たぶんな。かなり工事現場には近づいたが、騒音は思ったより少なかった。意図的に騒音を抑えていたに違いない。川沿いの工事だったにも関わらず、川を泥などで濁らせることもなかったし。それなりに、秘匿しつつ工事を進めていたのだろう。こちらにばれた以上、なりふり構わず作業を進めるに違いない。余裕はないな」

「じゃ、急いだ方がいいね」

 拓海が、立ち上がった。

「この目で戦場予定地を確認したい。その上で、細かいことは決めようや」


 市街地を足早に歩みながら、一行は南の城壁へと向かっていた。

 地図を手にした拓海がきょろきょろとあたりを見回しながら進み、その両側に陣取った生馬とアンヌッカが、適宜注釈や解説を挟んでいる。夏希と凛は、聞き慣れない専門用語が頻出する会話についてゆけずに、やや後方を歩んでいた。

 やがて一行は南の城壁に到達した。アンヌッカが、砦へ行く川船を調達しに行く。残る四人は、古びた石の階段を登って、城壁の上に立った。

「立派な城壁だな。蛮族に、攻城兵器はないんだな?」

 拓海が、生馬に確認する。

「ない。馬鹿でかい斧や先を尖らせた丸太を別にすればね。まあ、破壊するより乗り越える算段をしてくるだろうな」

 夏希は胸壁から身を乗り出して下を見た。城壁本体の高さは四メートル程度しかない。胸壁を加えても、せいぜい五メートル。短い梯子でも充分に届くし、数人掛りなら組み体操の要領で一人を上に押し上げて、易々と登ってこれるだろう。

「門はふたつか。どんな感じだ?」

「あまり丈夫ではないな。弱点といえば弱点だ」

 生馬が顔をしかめる。

「扉そのものは分厚くて頑丈。しかしカンヌキは金属製ながらいささかしょぼい。カンヌキ棒は木製だしな。ニアン製の鉄パイプがあるから、いざとなったらそれを何本かまとめてカンヌキ棒代わりに差し込むつもりだが。もしそこまで攻め込まれたら、さらに後ろにバリケードでも築いて抵抗するしかないな」

「門がむき出しだからな。構造的には、弱い城壁だ」

 拓海が小馬鹿にしたような口調で、言う。

「しかしこっちへきてからもうだいぶ経ったんだろ? なにか新しい兵器とか作り出せなかったのか?」

「馬鹿言うな。ゲームでも漫画でもないんだ。火薬発明したら国力ポイント30パーセントアップ、次のターンで領土倍増ってなわけにはいかん」

「まあ、火器は無理だろうな。この気候じゃ、硝石は取れまい」

 拓海が言って、大げさに空気の臭いを嗅ぐ。

「硝石って、なんだっけ?」

 凛が、訊いた。夏希も聞き覚えがあるが、具体的にはよく知らない。

「硝酸カリウムを主成分とする鉱物だ。黒色火薬の主原料でもある。ここみたいな湿気の多い気候だと、天然硝石は産出しない。日本もそうだったから、戦国時代は土中の微生物を使って何年もかけて作り出すか、外国から輸入するしかなかった」

 戦国オタクの生馬が、ざっと解説する。

「とにかくある戦力でなんとかせにゃならんのだな。生馬、望遠鏡貸してくれ」

 拓海が言い、受け取った望遠鏡であちこちを眺め始める。時折地図に視線を走らせ、また望遠鏡を覗く。

「任せておいていいのかなぁ」

 凛が、つぶやく。

「とりあえず信用するしかないわね」

 素っ気なく応じた夏希は、後ろ手を組んで立っている生馬に歩み寄った。身振りで少し離れた場所に誘ってから、小声で訊く。

「ねえ、さっき拓海が口走った話だけど……」

「あー、なんの話か忘れたな」

「夢の中でやった、とかいう話」

「……忘れてくれ。健全な青少年が健康的な眠りの中で見たしょーもない夢だ」

 ほんのり赤面しつつ、生馬が答える。

 夏希は生馬をまじまじと見た。イケメン、というほど男前ではないが……実際のところ、駿のほうがルックスははるかに上である……なかなか精悍な顔つきで、その高身長とスポーツマンぶりも相まって生馬は女子の間ではかなり人気が高い方だ。だが、夢の中でとは言えセックスの相手をさせられたと聞けば、夏希としては面白くない。

「わたしに気があったの?」

 生馬が気圧されているのを見て取った夏希は、面白半分にそう問い詰めた。

「……お前は美人だし、気がなかったといえば嘘になるな」

 赤面の度をやや深めながら、生馬が言った。

「だが、ぶっちゃけて言えば男子高校生なんて、クラスの女子の半分くらいとはチャンスがあれば『やりたい』と思ってるような生き物だ。気に障ったのならば謝るが、夢の中でのセックスなんて、ありふれたことなんだ。……それくらい、夏希なら知ってるだろ」

「まあね。そういうことなら、忘れてあげるわ」

 夏希は鷹揚さを装って言った。実のところ、夏希の男性に対する知識と経験はかなり限定されている。ここで突っ込んだ話をして、ぼろを出すのは避けたかった。

「よし。ここの視察は終わりだ。砦へ向かおう」

 いいタイミングで、拓海が宣言する。


第十七話をお届けします。

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