139 事業計画
「お二人には、たいへんに世話になった。改めて、礼を言わせてくだされ」
薄い褐色の肌をした、ハンサムな中年男が、夏希と凛に対し軽く頭を下げる。
……えーと、この人の名前、なんだっけ……。
夏希はちょっと引き攣った笑みでそれに応じた。ラドーム王国の国王にしてカミュエンナ王女の父親。ずっと『カミュエンナ・パパ』と呼んでいたので、どうしても名前を思い出せない。
「こちらこそ、お世話になりました、陛下。さまざまな便宜を図っていただき、本当に感謝に耐えません」
思い出すことを諦めた夏希は、そう返答してごまかした。国王なのだから、とりあえず陛下呼ばわりしておけば、失礼には当たるまい。
「ところで陛下。王女殿下は、ご一緒ではないのですか?」
一通り近況の交換などが終わったところで、凛が訊いた。
「あいつもなかなか忙しいようでね。いわば、この宴においては、いわばホストのようなものだからな」
カミュエンナ・パパが、ややひょうきんなしぐさで肩をすくめる。
「ここに居りますわ、お父さま」
その背後から声が掛かり、カミュエンナが歩んできた。インドのサリーを思わせる、色鮮やかな布を巻きつけたドレスを纏っている。肩や脚など褐色の肌を惜しげもなくむき出しにしており、慎ましやかなサリーとは違いかなりセクシーな感じだ。
夏希は凛とともに、カミュエンナに丁寧に挨拶した。世話になったことも確かだが、夏希はこの女性にかなり好意を抱いている。
「お父さま。どうやら、ひと雨来そうですわ」
挨拶が終わったところで、口調を変えたカミュエンナが、国王に向かいそう告げた。
「そう言えば、そんな雲が出ているな」
頭を巡らせたカミュエンナ・パパが、水平線の彼方に眼をやる。夏希も釣られたように海の方を見たが、海上遠くに焼いて膨らんだ切り餅のような形の雲がぽっかりと浮かんでいるのが見えるだけだ。
「お二人とも、失礼するぞ。雨対策を指示せねばならん」
カミュエンナ・パパがそう言って、足早に去る。
「わたくしも、お父さまの手伝いをしてきますわ。お二人とも、今のうちに天幕の中で居心地のいい場所を探しておく方が、いいですわよ」
カミュエンナがそう忠告してから、父親のあとを追う。
夏希は凛と視線を見交わした。
「地元民の言うことは、聞いておいた方がいいよね」
「そうね」
ふたりは手近にあった大きな天幕の中に入った。食べ物と飲み物を確保してから、空いているテーブルに座る。
外では、大勢の人々が雨対策を開始していた。防水布を広げ、露天にあったテーブルや椅子を覆う。屋外で料理をしていた人たちも、慌てて食材や食器の片付けに入っている。
ほどなく、あたりが急に薄暗くなった。雷鳴が轟き、それを合図にしたかのようにぱらぱらと雨粒が天幕を叩き始める。
「始まった」
串に刺した焼肉をかじりながら、凛が言った。
何名もの人々が、雨に追われるように慌てて天幕の中に入ってきた。そのうちの二人は、夏希と凛がよく知る人物であった。拓海とリダだ。
「あれ、リダも貴族になったのかしら?」
夏希は首をひねった。この宴、参加できるのは貴族だけである。たしかに、リダは支族長の娘だから、血筋は良い。しかし支族長の地位は世襲ではないので、支族長本人はともかくその子供は貴族と同等とは見られないはずである。
「あ」
凛が、腰を浮かせた。
「どうしたの?」
「リダを見て」
凛が手を差し伸べ、いまだこちらに気づいていないリダを指す。
夏希は訝しながらリダを見やった。いつもの男っぽい服装ではなく、今日のリダは慎ましい白いドレス姿だ。だがしかし、頭には高原の民のトレードマークである長い布を巻きつけた被り物を着けている。色は、いつもの深緑色。
「今日は、可愛い格好してるね」
「そこじゃない。もう少し、上」
「上?」
夏希は視線をリダの頭部に向けた。頬の十文字の傷は、相変わらず目立つ。いつも通りの、生真面目な表情。そして、これまた見慣れた深緑色の被り物。
……ん、待てよ。
夏希は違和感を覚えた。なんだか、いつもと違うように見える。
ない。
不意に、夏希は気付いた。いつも、左耳の前あたりに可愛らしく垂れていた、被り物の余った端が、ない。……未婚女性の、証が。
「……参加資格は、ジンベル人貴族夫人、ってこと?」
「でしょうね。拓海の奴、しばらく高原でなにやってたかと思えば……結婚式だったとは」
呆れたように、凛が言う。
「お、こんなとこに居たか」
ようやく二人の存在に気付いた拓海が、上機嫌そうに近寄ってきた。リダが、続く。
「お久しぶりね、新婚さん」
夏希はそう声を掛けた。拓海が、苦笑する。
「いやいや。もうばれてたか」
「……なんであたしたちも呼ばなかったのよ。祝福してあげたのに」
凛が、そう突っ込む。
「いや、いろいろ事情があってな……」
「まさか、出来ちゃった婚とか?」
夏希は冗談めかしてそう言った。
「ないない」
手をぱたぱたと振って、拓海が否定する。
「祝い事に関しては、高原の民は迷信深いのです」
拓海に代わって、リダが説明を始めた。
「結婚の儀を行うに相応しい時期を逃したくなかったのです。拓海に無理を言って、妻にしていただきました」
……ほう。奥方らしく、名前が呼び捨てになってる。
夏希は感心した。もともと、リダは可愛い顔に似合わず気が強い娘である。拓海が尻に敷かれている様子を想像した夏希は、頬を緩めた。
「なに、にやにやしてるの?」
凛が、訊いてくる。
「なんでもないよ」
頬を緩めたまま、夏希はそう答えてごまかした。
雨脚が急に強くなり、天幕の周囲が乳白色にけぶりだした。雨粒が天幕と地面を叩く轟音が、辺りを満たす。
こうなると、会話は不可能である。拓海が、いかにも新婚の夫らしい気配りでリダのために椅子を引いた。微笑んで座ったリダが、優しげな視線で拓海を見上げる。
凛がこちらを見て、やってられないといった風情で肩をすくめた。
夏希は笑った。飛沫を含んで少しばかりひんやりとした風が、轟音とともに四人を包み込んだ。
豪雨は五ヒネ足らずで終わった。天幕の端から滝のように落ちていた雨水が、急に細い幾筋かの流れに変わり、やがてそれが銀色の鎖のような水滴の連なりとなる。復活した日差しが、天幕のくっきりとした影を濡れた地面に再び描き出した。
「ところで、ふたりとも、少しばかり金儲けをしたくはないか?」
急に、拓海がそう切り出す。
「お金儲け? なに企んでるの?」
すかさず、凛がぐっと身を乗り出した。
「郵政事業を立ち上げようかと思ってな。物流が発展すれば、必然的に扱われる情報量も増大する。現状の船主や船頭に委託する原始的な手紙の配送制度では、すぐに限界が来るだろう。それに先駆けて、手紙と小荷物専用の水運および陸上配送のネットワークを、展開する事業だ。とりあえず、海岸諸国主要都市間での手紙と、ノノア川およびジンベル川沿いの定期配送路設立を目指している。憲章条約軍の部隊間通信を引き受ける目処は付いてるし、絶対成功するぞ」
「それは上手くいきそうね。どう思う、凛」
夏希は経済通の友人に確認した。
「眼の付け所はいいわね。でも、出資してあげない」
「どうして?」
夏希はそう訊いた。夏希自身、現地通貨でかなりの額を溜め込んでいる。憲章条約軍軍人としての俸給や、外交部に所属していたときの諸手当、その他などで結構な額をもらっていたし、食費その他必要経費はジンベル王国から支給されていたので生活費を払う必要もなかった。アンヌッカやシフォネの給料も、夏希の財布から出ていたわけではない。凛も同様なので、相当のお金を溜め込んでいるはずだ。そしてもちろん、それらは元の世界に持ち込んでも何の価値もない代物だ。ここで投資という形で使い、この世界の発展と人々の生活向上に役立てる方がいいのではないか。
「実は、あたしにも立ち上げたい事業があるのよ」
「ほう。凛ちゃんらしく、外食チェーンでもおっ始めようというのか?」
興味深げに、拓海が訊く。凛が、首を振った。
「違うわ。狙ってるのは、服飾関連よ。既製服の大量生産と販売。布地は大量仕入れすれば単価は下げられるし、縫製も分業化で単価が下がる。自前で小売までやれば、相当安く販売できるはずよ。高原は無理としても、海岸諸国や平原くらいなら、充分商売になるわ」
「うわ。いかにも凛らしい事業ね。出資するなら、そっちの方がいいなあ」
やはり夏希も女性である。アパレル関係に、興味は高い。
「そう上手くいくかな。古着の流通はあるから、小売段階では問題はないと思うが、この地では金を出して新しい服を手に入れる、という発想が乏しいからなぁ」
拓海が、疑義を呈した。凛が、笑う。
「……女心をわかってないわね。大丈夫。宣伝戦略はもう練ってあるから。中世的世界でのファッションリーダーは、やっぱり王族や貴族なのよ。いままで築いたコネをフルに生かして、各国の王族や貴族女性にうちのブランドの服を着てもらうのよ。そして、その簡略化版を大量販売する。流行を、こちらで作り出すの」
「そうか。じゃ、郵政への出資の件は忘れてくれ。良かったら、俺の商会のサービスを店舗間通信に利用してくれよ」
あっさりと出資要請を引っ込めた拓海が、そう提案する。
「もちろん利用させてもらうわ。ねえ、その商会で将来制服とか採用しない? 格安で作ってあげるわよ」
「そいつはいいな。ぜひ頼むよ」
凛の提案を、拓海が快諾する。
拓海とリダと別れたふたりは、天幕を出ると再び歩き出した。家畜が食むような丈の短い草が一面に生えているので、雨上がりにも拘らず地面がぬかるんだりはしていない。ただし、地面がややくぼんでいるところには、やや濁った水が溜まっていた。雨のおかげで、気温も若干下がったようだ。しかし、この日差しのもとではじきに湿度が急激に上昇し、却って蒸し暑くなるだろう。
「竹竿の君でいらっしゃいますね?」
そう呼びかけられて、夏希は足を止めた。
声を掛けてきたのは、中年の女性であった。肌は白いが、高原の民とは少し雰囲気が違うので、おそらくは北の陸塊の住人だろう。褐色の長い髪を、頭の上で丁寧に結い上げてある。美人とは言いがたいが、愛嬌のある顔立ちだ。もちろん、見覚えはない。
「えーと……」
「始めてお目にかかります。ペクトール王国貴族、マリンサスと申します」
中年女性が言って、ぺこりと頭を下げる。
「高名な竹竿の君にお目にかかれて、光栄ですわ。わがペクトールが独立を果たせたのも、閣下のご尽力の賜物です。お礼を申しあげます」
「憲章条約軍に属する軍人として、総会の決定に従い従軍し、憲章条約が掲げる理念である平和主義と民族自決の原則を守るために働いただけです。ペクトールの独立は、ペクトール王家と市民の力によるものです。わたしは、微力ながらそれをお手伝いしただけですよ」
夏希は教科書どおりの謙遜を述べた。
「連れを、紹介させていただきます」
マリンサスが、後ろに控えていた中年男を手招いた。男が、数歩進み出る。タナシス人のような東洋系の容貌だが、肌はミルクチョコレートのような色をしている。
「カレイトン王国貴族、イムサーンです」
イムサーンが、頭を下げた。
「イムサーンと申します。以前は、西部同盟で外交関係の仕事をしておりました」
西部同盟、と聞いて夏希の機嫌がわずかに損ねられた。タナシス王国との戦いで西部同盟が実質的に憲章条約軍と共同軍事行動を取ったためにうやむやになってしまったが、旧タナシス王国と憲章条約諸国との離間工作や、リスオン市のタナシス王宮におけるタナシス外交団暗殺計画……夏希自身、危うく殺されるところだった……の黒幕が西部同盟であったことは、ほぼ間違いがないのだ。
イムサーンが、先ほどマリンサスが述べたと同じような世辞を並べ立てる。夏希は、それを聞き流した。適当に返答をしておいて、立ち去る。数ヒネ後、イナートカイの国王と雑談をしている時にはすでに、夏希の脳裏から二人の北の陸塊貴族のことはすっかり抜け落ちていた。
「たいした女性だ。あの体格と、見ただけでわかる胆力。あれならば、刺客を退けても不思議はない」
足早に立ち去る夏希を見送りながら、相変わらずの悲しげな表情でイムサーンがつぶやく。
「あれほどの傑出した女性を、我々は亡き者にしようとしたのですね。事態がそれを希求していたとはいえ、愚かでしたわ」
マリンサスが、言う。
「まあ、わたしは満足だ。祖国は独立を回復した。憲章条約のおかげで、強いタナシスの復活もあるまい」
イムサーンが、近くを通りかかった給仕を呼び止めた。酒の入ったカップを二つ取り、片方をマリンサスに渡す。
「わたしも満足ですわ。わたしが入手した情報によれば、彼女がカートゥールの野望をこちらの望みどおり打ち砕いてくれたようですし」
カップを受け取ったマリンサスが、微笑む。
レムコ同盟内部は、一枚岩ではなかった。反タナシスでまとまっていただけの、組織なのだ。タナシス王国が力を失った段階で、カートゥール代表が目指すかつての大国、旧スルメ王国復活を支持する主流派と、参加各国が自主独立路線を歩むべきと考える反主流派に分裂してしまう。ペクトール人であるマリンサスは、当然後者であった。反主流派は、積極的にカートゥール潰しに動くことになる。その動きの中には、憲章条約側やタナシス王国に対し、カートゥールの危険な動きをさりげなく伝えて警戒を促し、その野望阻止のために誘導する、といったものも含まれていた。
「乾杯しましょうか。憲章条約軍の名将、竹竿の君に」
マリンサスが、カップを差し上げた。
「あそこに居るのは……駿とハルントリー王子ね。なに話してるのかな?」
凛が、指差す。
ハルントリー王子のいでたちは、ゆったりとしたパンツと飾り帯、軽い麻の上着につば広の帽子という海岸諸国の礼服であった。対する駿の姿は、なんと燕尾服であった。……違和感あること、この上ない。
「駿らしい、笑えないジョークね。生馬が羽織袴で現れるようなもんだわ」
くすくすと笑いながら、夏希は近寄っていった。
「生馬なら、大小挿したうえに髷結ってくるわね」
そう言いながら、凛が続く。
「夏希殿、凛殿」
ふたりの接近に気付いたハルントリーが破顔した。
「で、なにをお話されていたんですか?」
挨拶が終わったところで、凛が訊く。
「教育のお話を聞いておりましてな。非常に興味深い話です。『幼少期に長い教育期間を設けることは、決して無駄ではない。人生の長さを考慮すれば、良質な教育を受けた者は低質な教育を受けた者よりも多くを生み出すことができる』とか」
半ば感激の面持ちで、ハルントリーが言う。
「船と同じです、殿下」
駿が、言った。
「速い船を造るには、遅い船を造るより金も時間も掛かります。ですが、長期的にみれば速い船を使った方がより多くの人や者を運ぶことができる。初期投資は、決して無駄にはならないのです」
「うむ。よくわかる喩えだ」
「初等教育システムを設置するモデル地区に、ルルト王国を選定させてくれ、と殿下にお願いしていたところだよ」
駿が、夏希と凛に向き直った。
「南の陸塊では一番豊かで、識字率も高いからね。ようやく師範学校設立の目処が付いたし、そろそろ本格的に始めてもいいころだ」
「ずっと前から、教育やりたいって言ってたもんね」
夏希は眼を細めた。
「駿殿のご提案、わたしは大賛成だ。さっそく、陛下にお願いしてこよう。では、失礼しますぞ、夏希殿、凛殿」
ハルントリー王子が、去る。歩き方がややぎこちないのは、古傷のせいである。
「熱弁をふるったら、喉が乾いたよ」
嬉しそうに駿が言って、手近の天幕に入った。盆の上からカップを取ると、一気に半分くらいを飲み干す。
「ところで、なんで燕尾服なの?」
「各国王族が集まるんだ。これ以上相応しい服装はないと思うけどね」
夏希の質問に、駿がしれっとした表情で答える。
「どうだい、凛ちゃん?」
駿が、ファッションモデルばりにくるっと一回転してみせた。
「ふーん。縫製はハイレベルね。どこで作らせたの?」
「ルルトだよ。かなり払ったけどね」
「第一号工場は、ルルトに建てようかしら」
「工場?」
駿の疑問に、凛が自分の事業内容を説明する。
「いいね。凛ちゃんのセンスなら、成功しそうだな」
「凛が服飾系の事業。拓海が郵便事業。駿が、教育事業。……生馬は、アノルチャ条約に基く北部駐留軍の面倒を見ているんだっけ」
夏希は、指を折りながらそう数え上げた。みんな、何かしら目標を持って仕事に励んでいるようだ。
「あんたも何かやりなさいよ」
駿に付き合って飲み物を味わいながら、凛がせっついた。
「……時間掛かるじゃない。もうあんまり、時間残ってないはずだよ」
夏希はそう主張した。一年間の延長を決めたヴァオティ国王との契約は、あと百日ほどしか残っていないはずだ。その程度では、事業など初めても中途半端に終わってしまうだろう。
「そうだったな。夏希は一番最初に来たから、当然最初に帰らなきゃならないんだな」
駿がカップを置く。
「延長しようかな、半年くらい」
凛が、言った。
「そのくらいあれば、事業の基礎くらいは立ち上げられるでしょう。代理人に任せれば、あとは何とかなるでしょうし」
「帰らない、という選択肢はないのかい?」
にやにやと笑いながら、駿が言う。
「それは……ないと思う」
夏希は苦笑した。こちらの世界にはすっかり慣れたし、かなり気に入ったが、それでも自分が『余所者』であることは自覚している。永住するつもりは、毛頭ない。
「駿は、こっちに骨を埋めるつもりなの?」
凛が、訊いた。
「いや。帰るよ。できれば、もう一度来たいけどね。こちらで色々なことをやったが、やはりまだ勉強不足、知識不足、そして経験不足だ。自分の至らなさを、痛感しっぱなしだよ。向こうへ帰って、しっかりと学び直してから、戻ってこれればいいんだけど……魔力の源がなあ」
駿が、ぼやくように言う。
「その点に関しては、エイラとサーイェナと……ラクラシャだっけ? この三人に期待するしかないわね」
夏希はそう言った。魔力をほとんど使わないやり方が見つかれば、何度も往復することが可能だろう。
「もっと頻繁に行き来できると、便利なんだけどねえ。そんな小説も、あるし」
ファンタジー小説通の凛が、物憂げに言った。
「そうなんだ」
「鉛筆から発電機まで、主人公がなんでも必要に応じて持ってこれるからね。すっごく便利よ。もっとも、そんな小説は数少ないけどね」
「どうして?」
「当然でしょう? 小説に限らず、エンターテイメントは何らかの縛りを設けたほうが盛り上がるのよ。主人公が万能だったり強すぎたり、便利すぎるアイテムを持ってたりすると、ストーリー作りに苦労しちゃうのよ」
「それもそうね」
夏希は納得した。
第百三十九話をお届けします。ご都合主義パーティ二回目です。