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(9)

「では、これで五人の聖女候補が全員揃いましたね。早速聖女光臨の儀を始めます。説明は聞いていますね?」


 大司教の問いかけに、五人の聖女候補達が頷く。


「それでは早速始めましょう。まずは中央地区チェキーナ大聖堂推薦の聖女候補、ルイーナさん」

「はい」


 大司教に名前を呼ばれ、私と並んで一列に座っていた令嬢のうちひとりが立ち上がる。赤味を帯びた金髪が印象的な人だ。つかつかと祭壇の前に歩み寄ると、その場に跪いた。華奢な手を胸の前でしっかりと組み、目を閉じて頭を下げる。


「おおっ!」


 その姿を見守ってい人々から驚きの声が上がる。

 祭壇の上部、ステンドグラスになっている辺りから降り注ぐ光が青白く煌めき、まるで雪のように無数の光が舞い降りた。


(あれは精霊の祝福かしら?)


 私はその光景をじっと見守る。以前、自分の誕生日にも精霊達があんな風に光を放ってお祝いしてくれたことがあった。

 さすがだ、とか、見事だ、という声が聞こえてくる。


 ルイーナと呼ばれた令嬢はその反応に満足げに微笑むと、立ち上がって周囲の司教そして王族の面々にも会釈をして席に戻ってきた。


「次は、東部地区リラーナの──」


 その後も順番に聖女候補達が呼ばれ、祭壇に祈りを捧げる。程度の差はあるものの、キラキラと光が降り注ぎ、幻想的な景色が広がった。けれど、最初のルイーナ様ほど大きな反応がある方は今のところいない。


(これは、ルイーナ様で決まりかな)


 呑気にそんなことを考えながら、私は自分の順番を待つ。


「最後に、北部地区セローナ大聖堂推薦の聖女候補、アリシアさん」

「はい」


 私ははっきりと返事をすると、祭壇の前へと歩み寄った。中央に立ち精霊神を模したといわれる彫像を見上げたと、なぜか不思議な感覚がした。

 懐かしいような、安心するような──。


 両手を胸の前で組み、目を閉じて跪く。心の中で、祈りを捧げた。


(無事に次の聖女様が見つかり、この世界の平穏が続きますように)


 その瞬間、頭の中に話しかけるようにはっきりとした声が聞こえた。


 ──あなたのことをずっと待っていました。聖獣の愛し子よ。世界の均衡を守るのはあなたです。


「えっ?」


 突然の声にびっくりしてぱちっと目を開ける。周囲を飛んでいる精霊が悪戯をして囁いたのかと思ったけれど、何も飛んではいなかった。


「アリシアさん。祈りを捧げてください」


 大司教が怪訝な表情で諭してくる。


「え……?」


(どうしよう。もしかして、私だけ何もおこらなかった?)


 なんと言うべきか迷ったけれど、ここは正直に言ったほうがいい気がする。


「捧げました」

「捧げた?」

「はい。世界の均衡を守るのは私だと、神託を得ました」


 その瞬間、ガタンと椅子が倒れる大きな音がした。


「なんという不敬だ! 精霊神様の言葉を、直接聞いたなどと恐れ多い」


 そう叫んだのは、先ほど平民風情と私を小馬鹿にするような発言をした司教だった。


「でも、聞きました」


 私は咄嗟に言い返す。本当に聞こえたのだ。


「黙れ!」


その司教は怒りで顔を真っ赤にした。


「そもそも、聖女候補が平民だという時点でおかしいと思っていたのです。他の四人は周囲が輝くという明らかな変化があったのに、アリシア殿だけ何も起らなかった。本当は、聖女候補ですらない偽物の可能性すらあります」

 司教は私のことを偽聖女候補だと断定するように言い切った。その場にいた多くの人達もその発言を聞き、「偽物ですって?」「まあ、恐れ多いわ」などとざわめき出す。


「偽物じゃないわ。それに、聞いたもの!」

「では、どうそれを証明する?」


 私はぐっと言葉に詰まる。先ほどの声はアリシアしか聞いていない。

 周囲のこの反応を見る限り、誰にも聞こえていなかったと考えて間違いなさそうだ。となると、私が不思議な声を聞いて神託を受けたということを証明する方法はない。


「もう一度、あの聖石を触れば──」

「聖石が反応するのは一度きりです。それ故、信用に足る人間にのみ聖女候補探しを任せるのです」


 大司教が首を横に振る。


「え?」


 一度きり? そんな話、イラリオさんからは聞いていない。


「いくら聖女候補が見つからないとは言え、とんでもないことを。偽物が聖女候補を名乗るなど、国家反逆の大罪だ。すぐに火あぶりにすべきです」


 先ほどの司教が更にそう叫ぶ。周囲の司教達も、想定外の事態にどうするべきなのか判断が付かない様子だ。


「本物だという証拠はありませんが、偽物だという証拠もありません。アリシアさん、何か証明する方法は?」


 大司教がその場を治めようと、私に問いかける。けれど、聖石が使えないとなると証明する方法が思いつかなかった。



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