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■ 第10章 幼女薬師は今日ももふもふと騎士団をお助けします!

 意識を取り戻したとき、最初に目に入ったのは心配そうに私の顔を覗き込むイラリオさんだった。


「……イラリオさん?」

「エリー。エリー!」


 いつもの凜々しい顔を崩してどこか泣きそうな表情のイラリオさんは、感極まったように私の名前を呼びぎゅっと体を抱きしめる。

 イラリオさんに抱きしめられると、なぜかとても安心するのを感じた。


(あれ、私って……)


 そこまで考えて、気を失う前の記憶が甦る。

 私はイリスに呼ばれて行ったアメイリの森で、獣に襲われるイラリオさんを見たのだ。


 混乱してイラリオさんを助けてほしい、もう魔獣なんて現れないように神聖力の結界を回復させてほしいと強く願った瞬間、起ったのは摩訶不思議な出来事だった。

 幼児化していた私の体は元の十八歳に戻り、私の目の前に現れたのは不思議な男性だった。


『おかえり、我が娘よ。祈りを』


 確かにあの男の人は、そう言った。


(あれは、やっぱりお父さんなのかな?)


 遠い記憶の中でお母さんと一緒にいた、綺麗な男の人。まるであの日から全くときが経っていないかのように、男の人は同じ姿をしていた。


 ──神様、イラリオさんを助けて。そして結界を再生させ、この世界を救ってください。


 私は必死に祈りを捧げる。すると幼児の姿をしているときとは比べものにならないほどの神聖力が体から溢れ出し、周囲が覆われるの感じた。それが最後の記憶だ。


 私ははっとして自分の両手を目の前にかざす。六歳の子供の手だった。


(全部、夢?)


 わけがわからない。


「イラリオさん? ここは……? 私はどうしてここに? イラリオさんの怪我は?」


 矢継ぎ早に質問する私を見つめたまま、イラリオさんは言葉を詰まらせる。


「エリーは気を失っていたからザグリーンがここまで運んだ。怪我は、その……回復薬を飲んだ」

「そっかー、よかった」


 じゃあ、やっぱりあれは夢じゃなかった?

 とにかく、イラリオさんが無事なことにホッとする。存在を確かめるように手を握って頬ずりすると、イラリオさんはひゅっと息を呑む。そして、おずおずと頭を撫でてきた。


「魔獣は?」

「もう大丈夫だから、安心しろ」

「うん」


 私は素直に頷く。


(ザグリーンがやっつけたのかな?)


 そして、状況が段々わかってくると心配なことが出てきた。私はちらりとイラリオさんを見る。


(イラリオさん、私が元に戻った姿を見てないよね……?)


 あの場にいたのは、不思議な男の人とイリスとザグリーン、それに魔獣とイラリオさんだ。イリスとザグリーンは元々私が姿を偽っていることを知っているからいいとして、イラリオさんに知られるのは避けたい。


「ん? エリー、どうした?」


 私の視線に気付いたイラリオさんが心配そうな顔で私を覗き込んでくる。


「…………。心配かけてごめんね」

「何だそんなこと。気にするな。今日は大事を見て一日入院みたいだが、明日には退院できる」

「うん……。今日の夕ご飯、イラリオさんが好きな鶏肉のソテーのはずだったの」

「それはちょっと残念だ。また別の機会に作ってくれ。エリーが作ったものは何だって美味しいからな」


 また別の機会にと言ってくれたということは、私はまだイラリオさんと一緒にいていいのだろうか。


 イラリオさんを見ると、優しく笑いかけられた。なんだかその表情を見たら、胸がキュンとした。


「イラリオさん。私、これからもイラリオさんと一緒にいていい?」


 私はおずおずと尋ねる。


「当たり前だろ」


 イラリオさんはそこで一息置くと、私と目を合わせるように体を屈め、まっすぐに見つめてきた。


「どんな姿であっても、俺にとってエリーは大切な存在だ」


 私はひゅっと息を呑む。


(どんな姿であっても?)


 それはつまり、イラリオさんが私の元に戻った姿を見たということで──。


「あの……」


 嘘をつき続けていたことを責められるだろうか。私は、どう弁解すればいいのかと視線をさ迷わせる。

 

「……ごめんなさい。だますつもりはなかったの」


 泣きそうな顔をした私を見つめ、イラリオさんは困ったように笑う。


「だましたなんて思っていない。ただ、きみが亡くなったんじゃないってわかって、安心した」


 いつものように頭を優しく撫でられて、その優しさに涙が堰を切ったように溢れてきた。


 私はこの人が好きだ。イラリオさんが好きだ。


 最初は、捕まったら殺されてしまうから子供になっていることを隠していた。

 でも、いつしか彼への思いは恋心に変わっていた。

 大人だってばれたらイラリオさんが一緒にいてくれなくなってしまうかもしれないって思って、それが怖くてアリシアであるという事実を隠していた。


 涙ながらに告白する私を、イラリオさんは「バカだなあ。エリーのことを追い出すわけないだろ」と言って抱き寄せる。

 結局、イラリオさんは私が泣き疲れて再び眠ってしまうまで、ずっと背中を撫で続けてくれたのだった。



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