(6)
礼拝を終えたルイーナ様達一行が大聖堂の中から出口に向かって歩いて来る。
じっと見守っていると、ルイーナ様やヴィラム殿下が私達のほうを見て驚いた顔をしていることに気付いた。イラリオさんに何か話しかけ、イラリオさんがそれに答えている。
「あれがイラリオの聖獣ですか。美しい聖獣ですね」
「ああ。アメイリの森で助けた縁で契約を結んだ」
こちらに近づくにつれ、イラリオさんとヴィラム殿下の会話が聞こえてくる。どうやら、ザグリーンを見て驚いていたようだ。
「一緒にいる子供はどなたなの?」
私のほうを見ながら、ルイーナ様がイラリオさんに尋ねる。
「セローナ地区推薦の聖女候補だったアリシアの妹です」
「まあ、そうなのね」
ルイーナ様はにこりと微笑んで、私の前で腰を屈めた。
「あなたのお姉さんのことはとても残念に思っています。わたくしも、とても親しくさせていただいていたの。聖女光臨の儀の前日まで、どうこの国を守るべきかと一晩中語らい合ったものだわ」
(えっ?)
何を言い始めるのかと呆気にとられた私に気付く様子もなく、慈愛に満ちた瞳でこちらを見つめるルイーナ様は、饒舌に語る。
「彼女が亡くなったと聞いたとき、ショックのあまり一週間泣き暮らしました。でも、こんなことじゃだめだと気付いたの。わたくしが立派に聖女の勤めを果たすことが、彼女への一番の弔いだって。だから、あなたもお姉さんの分まで強く生きるのよ」
わかった? わたくしとの約束よ? と続けて、ルイーナ様は言葉を閉じる。
周囲からはルイーナ様の優しさへの感激と尊敬の念からか、すすり泣く声が聞こえてきた。
(??? これって、何の茶番劇なの?)
あまりにも唖然としてしまって、言葉が出てこなかった。
とても親しくしていた?
どうこの国を守るべきかと一晩中語らい合った?
一体どこの誰の話をしているのだろう。
私は話しかけたら無視されて、それ以来一度もルイーナ様とは言葉を交わしていないのだけど?
「緊張して言葉も出てこないのね」
ルイーナ様はポケットからハンカチを取り出し目元を拭く真似をしてから、私の頭を軽く撫でる。
イラリオさんからよく頭を撫でられることはあるけれど、ルイーナ様にされるのはなぜかぞくっと不快感がした。
「聖女様、そろそろ……」
後ろに立つ近衛騎士のひとりが、そろそろ行こうとルイーナ様を促す。ルイーナ様は「わかったわ」と言って立ち上がると、再び乗ってきた馬車へと消えていった。
◆ ◆ ◆
──ヴィラム殿下が新聖女のルイーナと共に、セローナを訪問する。
そんな知らせを受けたのは、僅か数日前のことだった。
王室の近衛騎士が早馬を走らせてきたので何事かと思えば、ふたりの来訪を告げる先触れだった。しかも、届いたときには既に王都であるチェキーナを出ているという急っぷりだ。
「どうなっている?」
近衛騎士が届けてきた書簡を見つめ、俺は呟く。
王室関係者が地方の視察を行うことは時々ある。しかし、半年以上前から綿密に計画されるのが通常だ。間違ってもこんな、「既に王宮を出たから後はよろしく」的なことはしない。
「急に来訪を決めたのでしょうね」
執務室のソファーセットに向かい合って座るロベルトも俺と同じように感じたようだ。
「私の考えでは──」
ロベルトは前置きをしてから、慎重に選ぶように言葉を紡ぐ。