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(5)

 イラリオさんは、今日はいつもより少し豪華な騎士服を着ていた。黒地に金の装飾が施されているのは同じなのだけれど、その装飾が全体的に豪奢なのだ。上着の丈も、普段着ているものよりも少し長めで式典用だと感じさせる。


 イラリオさんが立つセローナ大聖堂の前で、馬車が停まる。最初に馬車から出てきたのはヴィラム殿下だった。金色に煌めく髪とイラリオさんと同じような青い瞳。穏やかな雰囲気はチェキーナ大聖堂で最後にお見かけしたときと全く変わらない。ヴィラム殿下はイラリオさんを見つけると、何か声をかけて軽く抱擁をした。


(なんか、仲よさそう?)


 ふたりの様子を見て、なんとなくそう感じた。イラリオさんのほうも笑顔だったから。

 ヴィラム殿下はイラリオさんとの抱擁を解くとすぐに馬車の元に戻り、片手を中に向かって差し出す。その手に別の手が重なり、次に出てきたのは新聖女であるルイーナ様だった。


 周囲の人達から一層大きな歓声が上がる。聖女様!と叫ぶ声があちこちから聞こえてきた。


 イラリオさんは聖女様に丁寧に腰を折ると、その手を取って指先にキスをする。イラリオさんに笑顔を向けられ、ルイーナ様も微笑むのが見えた。


(ふーん……)


 なんだろう。なんとなく面白くない。

 聖女候補だったときの私には一度もあんなことしなかったのに。


 ヴィラム殿下と聖女様の到着と時を同じくして、セローナ大聖堂の扉が開け放たれる。中から出てきたのはブルノ大司教だった。ブルノ大司教も丁寧に腰を折り、ヴィラム殿下とルイーナ様に挨拶をしていた。そして、一堂は大聖堂の中入ってゆく。


(もしかして、礼拝をしてくれるのかな?)


 聖女の礼拝は結界を強力に維持する効果がある。最近神聖力の結界が弱まっているセローナ地区にとって、とてもありがたいことだ。


 私はザグリーンと共に大聖堂の入り口に近づく。入り口の警備をしていた顔見知りの騎士さんに中に入ることは止められてしまったけれど、そこから中を眺めることに関しては何も言われなかった。開け放たれた両開きの扉から見える大聖堂の内部には、今日も光の精霊達が飛び交っていた。


[こんにちはー]


 光の精霊がルイーナ様に大きな声で話しかける。けれど、ルイーナ様はそれに答えることなく無視して素通りした。


(何で精霊さんに返事をしてあげなかったんだろう?)


 まさか聞こえていないのかと思ったけれど、聖女であるルイーナ様に聞こえていないわけはないと思い直す。

 きっと、長旅の直後で返事するのも億劫なほど疲れていたのだろう。


 聖堂の奥の礼拝用の椅子にヴィラム殿下やイラリオさん達が座ってゆく。ブルノ大司教は祭壇の脇に立ち、祭壇の中央に進んだのはルイーナ様だった。


 ルイーナ様が祈りを捧げる。

 すると、聖堂の中にいる光の精霊達がそれに応えるように祝福の光を振りまいた。聖堂内に無数の煌めきが舞い、周囲に降り注ぐ。


「さすが聖女様だ」

「素晴らしいわ」


 私と並んで聖堂内を窺っていた見物人が、感激したように語り合う。ブルノ大司教が、祈りを捧げ終えたルイーナ様に向かって頭を下げているのが見えた。


 けれど、私は別の意味で驚いていた。


(聖女様の神聖力って、あんなものなの……?)


 確かに聖女光臨の儀で見たときもあんなものだったけれど、あれではブルノ大司教や私ともほとんど変わらないような気がする。


 てっきり、聖女に選ばれるともっと劇的に──例えば、セローナ地区ぐらいであればその力で簡単に覆い尽くせるほどに神聖力が強くなるのだと思っていた。


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