(6)
ミンに案内されたのは、とても美しい場所だった。周囲を緑に覆われた山に囲まれたその湖で、その水は驚くほどに透明度が高い。湖岸から見ると、水底がはっきりと透けて見えた。小さな魚が泳いでいるのも見える。
「ここで見たの?」
私はミンに問いかける。
[うん、そうだよ。ちょっと周囲を探してくるね]
[私も行くわ]
ふわふわと飛んでゆくミンの後ろを、サンもついてゆく。
[待ってー。僕達も探すよー]と少し遅れてガーネとベラもその後ろをついて行った。
「俺達は湖岸沿いを探すか」
精霊達の背中を見送ったイラリオさんが提案する。
「うん。そうだね」
「じゃあ、あっち方向からぐるりと一周しよう」
イラリオさんは湖に向かって右方向を指さした。
地面に視線を走らせながら、私とイラリオさんは湖岸を歩く。イリスとザグリーンも後ろを付いてきた。
(ん? あれは……)
顔を上げて前を見た私は、遙か向こうにサンとミンとはまた違う精霊がいるのに気付いた。
黄色い衣装を着ており、姿形は風の精霊や水の聖霊に似ているけれど、全身がキラキラと輝いている。大聖堂にいる光の精霊と同じだ。
「リーン、あれは何の精霊?」
「光の精霊だ」
ザグリーンは私の視線の先にいるその精霊を見て、そう教えてくれた。やっぱり、思った通りだ。
光の聖霊は、水辺で足をバシャバシャとしながら遊んでいた。跳ねた水滴が太陽の光を反射してより一層煌めいている。
「こんにちは」
私達はその精霊に声をかける。
精霊は私の声に気付いてこちらを振り返ると、にこりと笑った。
[こんにちは。はじめまして]
「こちらこそはじめまして。私はアリエッタ。みんなからは〝エリー〟って呼ばれているわ。あなたは光の精霊?」
[うん、そうだよ。リアっていうんだ]
リアと名乗ったその精霊は、目をぱちぱちさせてこちらを見つめた。
「私の顔に何か付いている?」
じっと見つめられて、私は不思議に思った。
[ううん]
リアは首を横に振る。
[僕、人間の姿をした聖獣って初めて会ったから珍しくって]
それを聞いて、私は目を瞬かせる。
人間の姿をした聖獣?
(あ、もしかして!)
聖獣のザグリーンとイリスと共に行動しているせいで、私まで聖獣だと勘違いされているのかな?
私は慌てて手を胸の前で振った。
「違う違う。私は聖獣じゃないわ」
[え、そうなの?]
光の精霊はきょとんとした表情で私に聞き返す。やっぱり、私のことを聖獣だと勘違いしていたようだ。
「そうだよ。私は普通の人間」
[なーんだ。人間の姿をした聖獣かと思った]
リアはちょっぴりがっかりしたような顔をする。
「人間の姿をした聖獣なんているの?」
[いるって聞いたことあるよ。友達が見たことがあるって]
人間の姿をした聖獣? そんなの、一度も聞いたことがないけれど……?
ザグリーンのほうを見ると、目が合ったザグリーンは首を傾げる。
「なんだ?」
「人間の姿をした聖獣なんているの?」
「人間の姿をした聖獣はいない。聖獣とは強い神聖力を持った獣だ。強い神聖力を持った人間は司祭や聖女だろう」
「あ、そっか」
言われてみればそうだ。ブルノ大司教も神聖力が強いけれど、聖獣ではなく人間だ。
「だが、人間に姿を変えられる聖獣はいる」
ザグリーンが付け加えるように言った情報に、私ははっとした。
人間の姿になれる聖獣がいるという伝説は聞いたことがある。けれど、実物を見たという話は聞いたことがない。だから、私はその伝説は作り話の可能性が高いと思っていた。
聖獣が人間に姿を変えられる?
「も、もしかして、リーンも……?」