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(5)

[それはこっちの台詞だよ。私達はいつもこの辺にいるもの]


 サンは笑顔でふわふわと宙を浮きながら、上流からこちらに近づいてくる。


[エリーは何をしているの?]

「えっとね、実は──」


 私はサンに事情を話す。

 セローナ大聖堂のブルノ大司教が神聖力の使いすぎで倒れたこと。

 今も昏睡状態が続いていること。

 治すためには、世界樹の実が必要なこと。


 神妙な面持ちで聞き入っていたサンは、うーんと考える様子で顎に手を当てる。


[世界樹の実かあ。時々落ちているのを見かけるけど……]

「ここ数日、どこかで見かけた?」

[ううん。ここ数日は見かけてない]


 もしかして、と一抹の希望を期待したのだけれど、あっさりと打ち砕かれる。


「そっかぁ」


 リーンやイリス、ガーネとベラは、少し離れた場所で世界樹の実を探し続けていた。

 そのとき、視界の端に赤いものが映る。


(あれ……?)


 私ははっとしてそちらを見る。そこには、赤い楕円形の木の実が落ちていた。直径一センチ、長さ二センチほどで、ハナミズキの実に似ている。


「ねえ、もしかしてこれ!?」


 私はそれを拾い上げる。すると、私の手のひらを覗き込んだサンが首を横に振った。


[違うわ。これはハナミズキの実よ]


 ハナミズキの実に似ている、じゃなくてハナミズキの実そのものだった。

 ぬか喜びに、私はがっくりと肩を落とす。


(見つからなかったらどうしよう)


 弱気な思いが押し寄せてくる。私はそれを振り払うように、ぶんぶんと首を振る。


(絶対に見つけるの!)

 そのとき、じっと考え込んでいたサンが、「そうだわ」と叫んだ。


[私のお友達に、見ていないかって聞いてみるわ]

「お友達?」

[うん、水の精霊の仲間。最近は雨が多かったから、森の中は隅々まで見ていると思うの]


 サンは小川に向かって[みんなー]と呼びかける。すると、ポンッ、ポンッっとひとつ、またひとつと水色の光が現れる。それはやがて、サンと同じようなひらひらの水色の衣装を纏った精霊達へと姿を変えた。


[サン、呼んだ?]

[どうしたの?]


 精霊達が、続々とサンの周りに集まってくる。


[あのね、私のお友達が世界樹の実を探しているの。誰か、ここ数日で世界樹の実を見た人はいない?]

[世界樹の実?]


 集まった精霊達は一様に顔を見合わせる。


(やっぱりないのかな……)


 そう諦めの気持ちが湧きかけたそのとき、ひとりの精霊が[そういえば]と口を開く。


[向こうの湖にそれっぽいのが浮いていたのを見たよ]

「それ、いつ? 向こうの湖って?」


 やっと辿り着いた僅かな希望に、私は身を乗り出してその精霊の手をぎゅっと握る。


[えっと……、三日くらい前かな。お散歩していたら──]


 その精霊──名前はミンというらしい──は私に圧倒されるように体を引く。興奮して怖がらせちゃったかな、ごめんね。

 ミンによると、数日前に水の流れを追って散歩していると、湖で赤い実を見たという。でも、そこはザグリーンやイリスがこれまでに世界樹の実を見たことがあるどの場所からも、かなり離れていた。


[雨が降ったから、流れてきたんだと思うんだけど。見に行ってみる?]

「うん!」


 ミンの誘いに、私は即答して頷く。

 まだ周囲を捜索中のイラリオさんやイリス、ガーネとベラを呼んで事情を説明する。

 ザグリーンが素早く私とイラリオさんのほうに来て、「乗れ」と言った。


「えっ! ふたり乗って大丈夫なの!?」


 私は驚いてザグリーンに聞く。背中に乗せてもらったことはあるけれど、そのときはひとりだった。


「大丈夫に決まっているであろう。我を誰だと思っている」

 ザグリーンは不愉快げに唸り声を上げる。どうやらそんなに柔だと思われたことが気にくわないらしい。確かに、ザグリーンは普通の馬よりも大きいのでふたり乗ったくらいじゃビクともしないかもしれない。

 うーむ、聖獣心は難しい。

 私はイラリオさんと共にザグリーンの背中に乗り、首にしがみつく。それを確認すると、ザグリーンが走り出した。


 


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