(5)
◇ ◇ ◇
私はおずおずと隣を見上げる。視線を感じたのか、先ほど会ったばかりの男性──この方はイラリオ=カミーユという名前で、セローナ地区の聖騎士団の団長をしているらしい──はすぐにこちらを見返した。
青色の瞳と、しっかりと目が合う。
「どうかしたか?」
「あのー、カミーユ様。本当に私が聖女候補なのでしょうか?」
「ああ、間違いない」
「そうなのかなぁ。違うと思うんですけど……」
納得いかず、しきりに首を傾げる。
聖女様の代替わりで聖協会が聖女候補を探していることは、私も知っている。
聖女光臨の儀が行われるのは、実に三十年ぶりのこと。詳しいことはよく知らないけれど、町の人達が噂話をしていた情報によると、その候補者は通常、由緒正しき貴族令嬢から現れるそうなのだ。
各地域にある五つの大聖堂が神託を受けて聖女候補者を見つけ出し、本当の聖女になれるのはそのうちのひとりだけだと聞いた。
(貴族令嬢から見つかるってことは、絶対に私ってことはない気がするんだけど……)
そもそも貴族じゃないし、実は貴族の血を引いているという話も聞いたことがない。物心ついた頃には既に両親はおらず、孤児院育ちだ。
「聖石が反応したのが何よりもの証拠だ。それと、俺のことは『カミーユ様』ではなく『レオ』でいい。様もいらない」
「え? でもカミーユ様は貴族ですよね?」
「…………。俺は貴族じゃない」
なぜか答えるまでに間があったことがちょっと気になる。けれど、イラリオさんの反応からこれ以上触れてほしくないことなのだろうと、聞くのは止めた。
(そういえば、セローナ地区って……)
「レオは、セローナ地区の聖騎士なのですよね? 私の母も、元々はセローナ地区出身なのだそうです」
「そうなのか? 名前は?」
「マノアです。マノア=エスコベド」
イラリオさんは無言で首を横に振る。その名前に聞き覚えがなかったのだろう。母がその地を去ったのは私を産んで程なくした頃のようなので、無理もない。
隣を歩いていたイラリオさんが立ち止まって前方を指さす。
「あれがチェキーナ大聖堂だ。この国で一番大きな大聖堂。アリシアで五人の聖女候補が全員揃うから、数日内に聖女光臨の儀が行われるはずだ」
視線を向けると、荘厳な雰囲気の巨大な建物が見えた。赤茶色の屋根に白亜の石造りで、至る所に精霊達の彫刻が彫られているのが遠目にも見える。
「聖女光臨の儀って何をするんですか?」
「精霊神からの神託を得ると言われている」
「精霊神からの神託……」
「ああ、精霊神のことは知っている? 精霊は火・水・土、風、光の五つの属性のいずれかを持っており、目には見えなくとも俺達の生活の身近にいると言われている。その精霊達の頂点にいるのが精霊神。この世界の理を司る存在だ」
イラリオさんが説明している間も、私達の周囲をぽーん、ぽーんと淡い光が取り囲む。
[そうだよ。精霊王様はすごいんだぞ]
なんて言いながら、精霊達が得意げに笑っている。
ふむふむ、なるほど。この子達の一番偉い人ってことなのかな?
イラリオさんはふと宙に視線を投げる。
「今日は随分と精霊がたくさんいるんだな」
そして、私達の周囲を飛ぶ精霊達のほうに手を伸ばした。