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「こんにちはー!」


 私は大きな声で水の精霊に向かって叫ぶ。水の精霊は私の声に驚いたようにこちらを見た。そして、物珍しそうな顔をしてこちらに近づいてくる。


[こんにちは。あなたはだあれ?]

 近くで見ると、とっても可愛らしい女の子の姿をした精霊だった。水色の髪がくるんと外に跳ねている。


[こんにちはー! 僕はガーネだよ。風の精霊だよ]

[こんにちはー! 僕はベラだよ。風の精霊だよ]


 私が返事するより先に、ガーネとベラとぴょんと前に出て挨拶をする。相手が女の子の精霊だからか、なんだかふたりとも嬉しそうだ。


[はじめまして。わたしはサンよ]

[よろしくね、サン]

[よろしく、サン]


 サンの挨拶に、またもやガーネとベラが先を争うように答える。サンはその様子に少し戸惑った様子だ。


「こんにちは、サン。私はアリエッタ。みんなはエリーって呼んでいるわ」


 私が話しかけると、サンはこちらに視線を向ける。瞳も水色で、澄んだ水のような色をしている。


[よろしく、エリー]


 サンは私を見上げて、にこりと笑う。


「その……、気のせいかもしれないけれど、なんだか元気がないように見えたの。どうかしたの?」


 ただの勘違いかもしれないけれど、なんとなく放っておけなくてサンに尋ねる。サンは驚いたような顔をして、それから目を伏せた。


[水が澄んでいないから、力が出ないの──]


「水が?」


 それを聞いて、私は改めて川岸に近づく。しゃがみ込んですぐ近くで川を見ると、確かに水が茶色く濁っていた。泥が混じっているのだろうか。


「普段はもっと澄んでいるの?」

[うん。川底が透き通って見えるくらい澄んでいるわ]

「なんで濁っちゃったのかしら?」


 すぐに思いつくのは先日まで続いていた大雨だけれど、大雨だったらもっと増水していそうなものだ。こんなに水が少ないのもおかしい。


[上のほうで、水がせき止められているの]

「上のほう?」


 私は川上を見つめる。ここからは何も見えなかった。


[ここよりずっと上よ]


 サンは私の考えていることを察したように補足する。


「わかった。川上を見に行ってみるよ」

[本当? 助けてくれる?]


 サンは驚いたように私を見返す。


 困っているのに放っておくこともできない。


「うん。任せて! だって、困っているのに放っておけないよ!」


 私は任せろとばかりにドンと胸に手を当てる。


[うん、見に行こう]

[サンが困っているから、見に行こー]


 ガーネとベラもすっかりとその気になり、くるくると飛び回る。


 そうと決まれば善は急げ。


「じゃあ、サンはその場所まで案内してくれる?」

[うん、わかったわ]


 私達は早速サンの後ろを追いかけようとする。そのとき背後から「待て」と声がした。振り向くと、ザグリーンがこちらを見つめている。


「既に足が疲れたと言っているのに、どうやって行くつもりだ? 途中で歩けなくなるのが関の山だ」


 痛いところを突かれて私はぐっと言葉に詰まる。確かに、足はだいぶ疲れてきている。推定六歳児、意外と体力がないのだ。


「でも、放っておけないもん」


 私が口を尖らせると、ザグリーンははあっとため息をつく。


「今のお前では辿り着けない」

「じゃあ、サンを見捨てろってこと?」


 私が尋ねると、ザグリーンは小さく首を横に振った。


「乗れ」


 私の横に来たザグリーンが少し体を屈める。これはもしかして、ザグリーンの背中に乗れって言っている?


「え、いいの?」

「仕方があるまい」

「わあ、ありがとう! リーン、大好き」


 私は思わずザグリーンの首に抱きつく。ザグリーンはやれやれとでも言いたげに、もう一度ため息をつく。


 呆れているような反応を示す割には私のわがままに付き合ってくれるのだから、ザグリーンはとっても優しい聖獣だと思う。

 背中に乗ると、ザグリーンは折り曲げていた後ろ足をすっくと立てる。ふわっと体が揺れて目線が上がり、景色が変わった。


「しっかりと掴まれ。落ちるなよ」

「うん」


 ザグリーンの首にぎゅっとしがみつく。すると、それに合わせるようにザグリーンがスピードを上げて走り出した。


(わわっ、すごいスピード。だけど、楽しい!)


 イラリオさんに馬に乗せてもらったときの感覚と似ているけれど、馬よりもずっと速い。

 吹き抜ける風が髪を靡かせる。ガーネとベラは風の精霊だけあって、楽しそうに周囲を舞う。ふたりで、元気のないサンの手を引いてあげていた。


(イリスは……)


 イリスが置いてきぼりになっていないかと振り返ると、何事もなかったように付いてきていた。さすが、聖獣なだけある。





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