表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/74

(4)

「ブルノ様、私のお母さんのこと、よく覚えている?」

「もちろんです。神託を受けたときにそんな気はしていたのですよ。マノアの娘もアリシアという名前だった。ただ、確信があったわけではありませんでした。でも、アリエッタを見た瞬間、すぐにわかりました。マノアの小さい頃によく似ている。ああ、この子はあの子の娘だと」

「そっか」


 遥か前方にある祭壇を見つめる。


(お母さん、ここでお祈りしていたの?)


 知らなかった事実に、ずっと昔に亡くなった母の記憶が脳裏に甦ってツーンと目の奥が痛むのを感じた。


「お母さん、どんな人だった?」

「優しくて愛らしい娘でしたよ」

「ブルノ様は私のお父さんのことも知っている?」

「いいえ」


 ブルノ様は首を横に振る。


「マノアが愛した相手のことは誰も知りません。絶対に誰にも話しませんでした。彼女はよく『彼に会いに行く』と言ってひとりで出かけていました。どうやらアメイリの森のほうに行っていたようです」

「アメイリの森?」


 そこからわかることは、お母さんはお父さんの素性を周囲に隠していた。そして、アメイリの森でふたりはデートをしていたということだ。

(アメイリの森を巡回中の聖騎士団の団員と逢い引きしていたのかしら?)


 もしくは、妻子があった人か身分違いの相手ということも考えられる。


 目が合うと、ブルノ大司教はにこりと笑う。

 遠い記憶の中に残る、お父さんの面影がちらつく。銀の髪と金の瞳を持った、びっくりするくらい綺麗な男の人だった。


(リーンの瞳をどこかで見た気がするような気がしたけれど、夢で見たお父さんの瞳の色と似ているんだわ)


 初めてザクリーンが自分の目の前に現れたときなぜか懐かしさのようなものを感じた理由がわかったような気がした。珍しい金の瞳は、私と同じだ。

 ブルノ大司教によると、お母さんは私を産んで程なくして遠方のチェキーナにひとりで暮らす祖父の世話をするためにセローナを去ったのだという。


「相手はわかりませんが──」


 ブルノ様はゆっくりと口を開く。


「あの子はとても幸せそうでしたよ」

「……うん」


 お父さんとお母さんは愛し合っていて、そして私が生まれた。

 その事実を知っただけで、とても嬉しかった。


「一緒に祈りを捧げてみますか?」

「はい」

 私とブルノ様は並んで祭壇の前に立つ。


(どうか、この平穏がいつまでも続きますように)


 祈りを捧げるのと同時に、無数の光が辺りに舞い散る。ブルノ大司教はその光を見つめ、嬉しそうに顔を綻ばせた。




 その帰り道。

 セローナ大聖堂からアルマ薬店へ戻る道中、私は一軒の店の軒先に並べられた物に目を留めた。


「わあ、可愛い」


 それは、様々な色や形をした髪飾りだった。小さなリボンや果物を模したもの、小枝に小鳥が止まっている絵柄などデザインは様々だ。行きには気が付かなかったので、きっと私がセローナ大聖堂にいる間に並べられたのだろう。


 裏返して値札を見ると、思ったよりもずっと良心的な値段が書かれていた。むしろ安い気がする。

 それを見ていたら、ふと閃いた。


「そうだ!」


 これを、イリスやザクリーンに付けてあげたらどうだろう。イリスの黒い毛や、ザクリーンの白銀の毛によく似合いそうな気がする。


(うん、絶対可愛い!)


 イラリオさんからは、普段のお買い物に使うためにと少しばかりのお金を持たされている。その中でやりくりする分には怒られないはずだ。


(どれにしようかなー)


 私は髪飾りを前に熱心に選び始める。


「よし、これにしよう!」


 選んだのは、ビーズの付いたリボン型の髪飾りだ。


(喜んでくれるといいな)


 それを付けた二匹の姿を思い浮かべ、私は口元を綻ばせたのだった。

 

    ◆ ◆ ◆



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ