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■ 第6章 幼女薬師、存分にモフる


 学校を終えて聖騎士団の本部に来たのがつい先ほどのこと。

 いつものように、まずは宿題を終わらせるために休憩室に向かって廊下を歩く。すると、廊下の突き当たり──裏口に繋がるドアの向こうから馬の嘶きが聞こえた。


(馬がいるのかな?)


 なんとなく興味が湧いて様子を見に行くと、副騎士団長のロベルトさんが自分の馬の世話をしているところだった。


「ロベルトさん! 何しているの?」

「おや、エリーちゃん。見ての通り、自分の馬の世話をしています」

「馬の世話?」


 ロベルトさんは手にしていた布きれを足下のバケツで綺麗にすすぐ。布と布を擦り合わせて汚れを落とすと、それをきつく絞り、馬を拭き始めた。


「馬の世話って自分でするんだ」


 てっきり、馬丁さんがいるのだとばかり思っていた。

「馬は騎士にとって、特別な存在なのですよ。一人ひとり相棒の馬が決まっていて、その世話は本人がやります」

「ふーん。イラリオさんも自分で世話をしているの?」

「もちろんです。イラリオの馬のことはよく知っているでしょう? あの子ですよ」


 ロベルトさんは後方の厩舎の奥、綺麗に清掃がされた一画を指さす。そこには確かに、イラリオさんがいつも乗っている大きな黒馬がいた。名前は「ジェイ」だ。


 私はジェイの元に近づき、その様子を眺める。艶々の毛並みが黒光りしており、しっかりと世話をされていることを窺わせた。ジェイの繋がれた一画にはごみひとつ落ちておらず、掃除も完璧だ。

 騎士は馬に乗って仕事をするので、馬が騎士にとって特別な存在というのもわかる。通常の勤務はもちろん、万が一戦いなどが発生しても一心同体で戦うのだから。


 ロベルトさんは馬の体を拭き終えると、今度はブラシのようなものを取り出した。三センチくらいの厚みのある木の板にびっしりと固い毛が生えており、髪の毛用のブラシに似ている。


「今度は何を?」

「ブラッシングです。毛並みを整えるのですよ」

「へえ」


 ロベルトさんは慣れた様子でブラシを馬に這わせる。慣れているのか、馬はじっと大人しくしていた。


「ねえ、ロベルトさん。ジェイの掃除もブラッシングもイラリオさんがやっているの?」

「そうですよ。特にブラッシングは体を触れるので、信頼関係が強固でない人間からされると馬が嫌ることも多いのですよ」

「なるほど」


 もう一度ピカピカのジェイの区画を見て、なんだかおかしくなる。


 イラリオさんといえば、仕事はできるらしいのだがプライベートの生活力が皆無なのだ。放っておくと部屋の中をぐちゃくちゃにしてしまうので、私がさんざん注意してピカピカ空間を保っている。でも、馬の生活空間の清掃はできるらしい。


 それを話すと、ロベルトさんは「ははっ」と笑う。


「言われてみれば、確かにそうですね。きっと、自分の居住空間より馬の居住空間のほうが綺麗にできますよ」


 ロベルトさんは相変わらず馬のブラッシングを熱心にしていた。さっきまで砂埃のせいで少しくすんでいた茶色い毛並みは、今や全身艶々だ。


「すごい、艶々だよ!」


 その効果を目にして、私は思わず感嘆の声を漏らした。私がここに来たときには少しくすんでいた毛並みがあら不思議。あっという間に艶々ぴかぴかなのだから。


(そうだわ!)


 そのとき閃いた。

 ブラッシングで馬の毛並みが艶々になるのなら、リーンやイリスの毛並みだって艶々になるのでは?


「私、今日の夜にリーンとイリスにやってみようかな」

「それはいい考えかもしれませんね」


 ロベルトさんは笑顔で頷く。

 私はいい考えを思いついたと相好を崩したのだった。


    ◇ ◇ ◇



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