(3)
「お薬が乾いちゃうよ」
[乾かないようにカバーすれば平気。ほら、こうやって]
ベラがガーゼにお薬を塗ろうとするけれど、体が小さいので全身が薬まみれになっている。見かねた私は代わりにガーゼにお薬を塗ってあげた。
「こう?」
[うん。それで、この上から魔法で空気のシールドを張れば乾かないよ。こうやって]
ベラは軽く片腕を振る。すると、ガーゼに沿うように薄い空気の膜ができて、触ってもべたつかなくなった。
それを見ていたら、ふと閃いた。
「そうだ。これを最初からすぐ使えるようにセットすれば、邪魔にならないかも!」
食事を終えた後、使用する状況をよく知っているイラリオさんはもちろん、ガーネやベラ、リーンも加わってああでもないこうでもないと相談する。切ったり、貼ったり、試行錯誤しながら試作品を作った。
結局、この日の〝持ち歩きが楽な傷の手当てグッズを作ろう会議〟はイラリオさんにもう寝る時間だからおしまいだと注意されるまで続いたのだった。
「それで、これがエリー特製の傷の手当てグッズなのかい?」
カミラさんは不思議そうな顔をして私が手渡した物をまじまじと見つめる。
イラリオさんから色々と話を聞き、騎士団の傷の手当てグッズはみっつの条件を満たす必要があることがわかった。
ひとつ目は使用方法が簡単で傷口にすぐ使えること、ふたつ目は怪我をした腕などを動かしてもずれないこと、そしてみっつ目は持ち歩きが楽であることだ。これらの条件を満たせる傷の手当てグッズを作るために何回も試行錯誤をして、ようやくそれっぽい物を作ることに成功した。
今日は、アルマ薬店の店主であるカミラさんにお店で扱うのに相応しいものであるかチェックしてもらっているのだ。
「不思議な形をしているねえ。固定用テープに直接ガーゼを貼るなんて面白いアイデアだよ」
カミラさんは私が差し出した、その名も『エリー特製絆創膏』を見て感心したように呟く。
色々と考えた結果、私は太めの医療用のテープに直接、傷用の軟膏を塗り込んだガーゼを貼り付けることにした。そうすればすぐに貼り付けられるし、動いたせいでずれることもないからだ。
「何人かに使ってもらって、使い勝手もよかったらしいね?」
「うん」
この特製絆創膏を作るに当たっては、何人かの聖騎士団の団員さん達に協力してもらった。実際に使ってもらい、使い心地の聞き取りをしては改良したのだ。
カミラさんはじっと特製絆創膏を見つめる。
(商品として、正式に置いてもらえるかな……?)
頑張って作ったので、採用してほしい。私は期待に満ちた目でカミラさんを見上げる。
いつの間に遊びに来たのか、ガーネとベラまで私の横で緊張の面持ちでカミラさんを見守っていた。
「うん、いいんじゃないかい? じゃあエリー、お店に置くためのこれを作ってもらえるかい?」
特製絆創膏から視線を外したカミラさんが私を見つめ、にこりと笑う。
「え、本当? これ、正式に置いてくれる?」
「使い勝手もよくて効き目も問題ないんだろう? なら、置かない理由はないよ」
カミラさんの返事を聞いて、じわじわと喜びが湧いてくる。
「やったー。ありがとうございます!」
嬉しくて、思わず万歳するように両手を上げる。一緒にカミラさんの返事を聞いていたガーネとベラも[やったー][やったね!]と言いながら大喜びする。
ふたりで両手を繋ぎ、ダンスを踊るようにくるくると周囲を舞っていた。
騎士団の人達が使うことを考えると、すぐにでもたくさん作らないと。これから大忙しだ。
(頑張らなくっちゃ!)
大喜びする私を見て、カミラさんは相好を崩したのだった。




