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 伝承によると聖獣には神聖力の強さによっていくつかのランクがあり、上位の聖獣は人の言葉を話したり、あるいは人に姿を変えられると言われている。しかし、一度もそんな聖獣を見たことはなかったので、きっとただの作り話だろうと思っていたのだ。

 そして、自身の名前を『ザグリーン』と名乗った聖獣は更に驚くべき言葉を続けた。


『では、助けてもらった礼にお前と契約を結ぼう。見たところ、まだどの聖獣とも契約を結んでいないな?』


 聖獣との契約。それは全ての聖騎士の憧れだ。


(こんなに立派な聖獣が、俺と契約を……?)


 すぐには信じられなかった。


 聖獣が住むアメイリの森があるここセローナ地区に住み始めて既に四年以上が経つが、人間と言葉が通じる聖獣などこれまでに聞いたことがなかった。それだけこの聖獣が高位に属するということだ。そんな聖獣が俺と契約?


(本当だろうか?)


 けれど、ザクリーンの様子からしては冗談を言っているようには見えないし、そもそも冗談を言う理由がない。


『……本当に、いいのか?』


 俺は確認するように、ザクリーンの瞳を見つめる。ザクリーンはまっすぐに俺を見返してきた。


『いいと思ったから、こうして尋ねている。聖獣と人間の契約は絶対ではない。どちらか一方でも破棄したいと思えば、そこでおしまいだ。ただし、契約中は全力で力になろう』


 聖獣との契約など、国王により影で生きることが決められた俺などがしていいのだろうか?

 そんな迷いがなかったと言えば嘘になる。けれど、答えは最初から決まっていた。ザクリーンを見た瞬間に、俺は探し求めていたものを見つけたかのような充足感を覚えたのだ。


 どちらか一方ということは、この聖獣が俺のことを気に入らないと思ったらそこで契約は終わるということだ。

(それなら、ザクリーンにも迷惑はかからないな……)


 元々殆どなかった気持ちの迷いが、完全に振り払われる。

 聖獣はまるで俺の動きを待つかのように、頭をこちらに差し出している。覚悟を決めて聖獣の額に手を触れると、毛並みのふわりとした感触がした。


「我の命を助けた見返りに、そなたと契約を結ぶことに合意する。そなたは?」

「俺もだ」


 そう言った瞬間、聖獣の額に載せていた手が鈍く光る。


 ──我、ザクリーンはイラリオ=カミーユと聖なる契約を結ぶ。


 頭に直接響くような声がした。


「これで我はイラリオの相棒であり、またイラリオは我の相棒である」


 手の甲に、菱形のような不思議な紋様が現れた。

 俺はザクリーンに乗せていた手をどける。ザクリーンの額にも、俺の手の甲に描かれたのと同じような紋様が入っていた。


 それと、見た目の変化以外にもうひとつ。この聖獣──ザクリーンの感情がなんとなく伝わってきたような気がした。俺を確かに信頼してくれているような。


(本当に、契約したんだな……)


 俺は右手の甲にある紋様を、反対側の手でそっとなぞる。


「よろしく。ザクリーン」

「リーンでよい」


 ザクリーンの返事はとても素っ気なかったが、嫌な気は全くしなかった。


「イラリオさん、リーンと契約結んだの?」


 近くでじっと俺達の様子を見守っていたアリエッタが目を輝かせる。両手を胸の前で握り、興奮気味に聞いてきた。


「そうなるのかな? あまり実感はないが」

「わあ。すごい、すごい!」


 エリーはまるで自分のことのように大喜びすると、「これからよろしくね。リーン!」と言ってザクリーンにぎゅっと抱きついた。


イラリオさん、聖獣と契約しました。次章ではエリーがお薬で聖騎士団をお助けします!

引き続きお楽しみください!

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