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(4)

 イラリオさんは胸元に手入れると懐中時計を取り出し、時間を確認していた。


「エリー。俺はそろそろ仕事に戻らないとなんだ。もう少しここにいるか?」


 やっぱり、休憩中ではなかったようだ。私に合わせて休憩中の振りをしてくれるなんて、イラリオさんは優しいなあ。


「うん。もうちょっと見ていたい」

「わかった。あまり長居せずに戻るんだぞ」

「うん、わかった」


 イラリオさんの注意に、私は頷く。ここは聖騎士団の本部の敷地内だし、聖獣が理由もなく人を襲うことはない。イラリオさんは結構心配性なのだ。

 まあ、私がひとりで留守番するのも心配して『だめだ』と言う位だから、予想はしていたけれど。

「じゃあ、またあとで」

「うん、ありがとう!」


 私は手を振ってイラリオさんの背中を見送る。


「…………。さてと」


 イラリオさんの姿が完全に見えなくなったのを確認し、私はくるりと背後を振り返る。


(眠っているのかな?)


 あの日私をしっかりと見つめた金色の目は、今は閉ざされていた。銀色の毛並みが僅かに上下しているので、生きてはいる。けれど、イラリオさんによるとかなり弱っていてずっとぐったりしていると言っていたので、このまま放置すれば命が危ないのだろう。


「ねえ、イリス」


 私は部屋の片隅でこちらを見つめているイリスに声をかける。


「この聖獣さんって、あの日に私を助けてくれた子かな?」


 イリスはすっくと立ち上がるとこちらに歩み寄る。そして、横たわる聖獣に鼻を寄せた。


「そうだにゃ」

「やっぱり……」


 勘違いじゃなかった。やっぱりあの日現れたのはこの子だったんだ。


(この子、なんであの日私の前に現れたんだろう?)


 絶体絶命で「誰か助けて!」と思ったときに、それに応えるように現れた不思議な聖獣。


「あのとき、この子を呼んできてくれたのはイリス?」

「その質問に答えるのは難しいにゃ。助けがいると言いに行ったら、結果的にこの聖獣が助けに来たにゃん」

「助けがいるって言いに行った? 誰に?」


 イリスはお座りすると、何も言わずに首を傾げる。こんなときだけ普通のネコの真似しなくてもいいんだから!


 私はイリスから聖獣へと視線を戻すと、はあっと息を吐く。聖獣は先ほどと同じく、目を閉じたまま横たわっている。


(この子、なんとか助けてあげられないかしら?)


 この聖獣は私を助けてくれた。なら、今度は私が助ける番だ。


(そうだ。アルマ薬店に行って、お薬を取ってこよう)


 そうと決めたら善は急げ。私は小走りでアルマ薬店に行って、傷薬や滋養強壮に効く薬の材料をかき集める。


「エリー、一体どうしたんだい?」

 カミラさんは、私がやってくるや否やお薬を集め出したので、何事かとびっくりした様子だ。けれど、事情を説明すると困った顔をしながらも材料を分けることを快諾してくれた。


「ありがとう!」

「ああ、構わないよ。聖獣は神聖な生き物だからね」


 私はカミラさんにお礼を言うと、材料を抱えてまた大急ぎで聖獣の施設に戻る。そっと様子を窺うと、さっきと同じ状態で寝ていることに少しほっとする。イリスは相変わらず聖獣の近くにいた。


 私はイリスの隣にちょこんと座る。


「何するにゃん?」

「この子を元気にできる、お薬を作ろうと思ったの」


 そこまで言って、私はふと動きを止める。


(聖獣のお薬って、人間と同じ調合でいいのかしら?)


 聖獣相手に調合したことは一度もない。調薬にはそれなりに自信があったけれど、それはあくまでも人間相手だ。どうしようかと悩んでいるうちに、イリスはどこかへと行ってしまった。


 時間にすると数分だろうか。


[エリー!]


 ふいに自分を呼びかける声がして、はっとして振り返る。

「ガーネにベラ!」


 そこには、久しぶりに会う風の精霊達がいた。思いがけない再会に、私は驚いた。



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