(7)
◇ ◇ ◇
アルマ薬店はカミラさんがひとりで切り盛りしていることもあり、薬草集めはそれ専門の人に任せているらしい。なので、主な仕事は調合と症状を聞いて薬を選び販売することだ。
──ゴリゴリゴリ。
すり鉢で擦る感覚に意識を集中させる。いつものことだけれど、私が調薬しているとどこからともなく精霊達が遊びに来て、周囲をくるくると舞い始めた。
四種類の薬草は、やがてそれはサラサラの粉末状になった。
「よし、いい感じかな」
私はそれをひとつまみ手のひらに載せ、出来具合を確認する。
なかなかいい出来な気がするよ。
「カミラさん、できましたよ。咳止めです」
「ああ、ありがとう。助かったよ」
カウンターに立っていたカミラさんは私の手元を覗き、先ほどの私と同じようにひとつまみを取って手のひらに載せた。そして、それをじっくりと眺める。
「薬を作るのが得意だって言っていたけど、本当に得意なんだねぇ。まるでベテラン薬師のような出来具合だよ」
「えへっ」
褒められてちょっと照れる。
「それに、先日エリーちゃんが作ったお薬を買った患者さんが『すごくよく効いた』って喜んでいたよ」
「本当?」
「ああ、本当だよ。今日の午前中に、ここに立ち寄ってくれたから、そのときに聞いたんだよ」
「やったー!」
すごく効いたと褒められると、嬉しくなる。
薬作りだけは昔から得意だったので嬉しいな。
「胃薬も少なくなっているので、作っておきますね」
「ああ、頼むよ」
私は今作った咳止めのお薬を瓶に移すと、今度は別の薬作りを開始する。
そのとき、「こんにちは」と呼びかける声がした。カウンターの向こうに中年の女の人が立っているのが見えた。
「こんにちは。どうしたんだい?」
カミラさんがすぐに接客を始める。
「実は──」
お客さんは頬に手を添え、話し始める。
「二日前に胃薬を買ったのよ。それが──」
その女性は、二日ほど前にここアルマ薬店で胃薬を買ったという。
(あれ? 胃薬? それって……)
私の記憶が間違いなければ、私が調合した薬な気がする。
「何か不都合があったかい?」
カミラさんが少し緊張した様子で聞き返す。私も恐る恐るその女性の方を窺い見た。
「不都合なんてとんでもない! すごく効いたのよ! ご飯が美味しいのなんので──」
女性は表情を明るくすると陽気に喋り出す。
なんでも、長年悩んでいた慢性胃痛がすっきりと治ったらしい。
「それはよかったねえ」
「ええ、本当に。今日は、虫除けをいただこうかと思って」
「虫除けだね。ちょっと待っておくれ」
カミラさんはホッとしたように息を吐くと、明るく答えた。
(こっちも効いているみたいでよかった……)
アルマ薬店の薬がとても効くと有名になるまでに、そう長い時間はかからなかった。
エリー、幼女薬師になりました。
第4章ではあの子が再登場です。引き続きお楽しみください!