(5)
「ところで、エリーちゃんはなんでここに?」
ロベルトさんが私に尋ねる。
「休憩室に誰もいなかったからお散歩していたら、ここを見つけたの。ひとりで大変そうだから、お手伝いするって伝えたところ」
「お手伝いって、エリーちゃんが?」
ロベルトさんも、目を丸くして女性と同じ反応をした。
「それは無理じゃないかな。お薬を作るのって、色んな技術や知識がいるんだ」
ロベルトさんは優しく諭すように、そう言った。
「大丈夫よ。私、アリシアお姉ちゃんのお手伝いしてきたもの。薬の知識はあるの」
私が胸を張ってそう言い切る。調薬にはちょっと自信があるんだから。
「エリーちゃんに薬の知識が?」
ロベルトさんは意外そうに目を瞬いた。そのとき、私達の会話を聞いていた女性が口を開く。
「ちょっと待っておくれ。この子は、いつも団長さんが仕事している間ずっと、ひとりで休憩室で待っているのかい?」
「ひとりのときもあるけれど、休憩中の団員さんとお喋りしながら待っているわ」
ロベルトさんが返事する前に、私が答える。
すると、女性はわずかに眉を寄せた。
「昼から夕方までずっと?」
「うん。そういう日もあるかな?」
女性は腕を組むと、何かを考えるように黙り込んだ。そして、ちょうど作業台に乗せられていた乾燥した葉を手に取る。
「これは何かわかるかい?」
「センナの葉かしら?」
私は差し出された乾燥薬草を見て答える。
「じゃあ、こっちは?」
「うーん。甘露の実」
その後も女性はいくつか私に質問してきたので、私はそれを全て答えた。
「これは本当に、大したもんだね」
女性は感心したように唸る。
そうでしょう、そうでしょう! 薬の知識には自信があるのですよ。
私は得意げに胸を張った。
「ロベルトさん。この子のことを、私が預かっても?」
「団長に一言伝えておけば大丈夫かと」
それを聞いた女性は、どこかほっとしたように表情を浮かべる。
「仕方がないね。じゃあお嬢ちゃん、うちでお手伝いしてもらえるかい?」
女性がカウンター越しに私の顔を覗き込む。
「はい!」
やったー! 説得成功だと、私は表情を明るくした。
「ところでロベルトさん」
女性はカウンターに手を付いたまま、今度はロベルトさんのほうを見た。
「今日は怪我薬と回復薬の処方依頼がやけに多いけれど、何かあったのかい?」
「実は、アメイリの森で魔獣が出たのです。その駆除で、手間取りました」
「アメイリの森で魔獣が? またかい?」
女性は肩を竦めると、物憂げな表情で宙を見る。
「嫌な傾向だね……」
「そうですね。町には来ないように、聖騎士団で引き続き警戒します」
ロベルトさんは唇を引き結ぶ。
(魔獣ってなんだろう? アメイリの森でそれが出るのかな?)
次々と聞きたいことが湧いてきたけれどふたりの表情から今は聞かないほうがいい気がして口を噤む。
(そういえば、今日は精霊さん達が全然遊びに来てくれないな)
いつもなら一日一回は[遊ぼー!]と話しかけてくれるのに。
妙な胸騒ぎを覚えて、私は胸の前でぎゅっと拳を握ったのだった。