(4)
「わかった。この後またけが人が運び込まれてくるかもしれないから、処方しておいてくれるか?」
「わかったよ」
女性は男性騎士の要請に頷く。
男性騎士は女性の返事に満足したようで、くるりと向きを変えた。
(こっちに来る!)
別に何のやましいこともないけれど、なんとなく隠れてしまった。柱の陰で息を潜めている私の前を、男性が通り過ぎる。手には薬を持っていた。
(いっちゃった……)
男性の後ろ姿を見送ってから、私は背後を振り向く。
そっと薬店に近づくと、カウンターへの扉の合間から、先ほどの女性が薬の調合をしているのが見えた。薬草特有の青臭い香りが、すんと鼻孔をくすぐる。女性の目の前の台には、こんもりと薬草が積まれていた。
(あれを全部ひとりで調薬するのかな?)
結構な量なので、大変そうだ。
そうこうしているうちに、また別のお客さんが来た。胃薬を買って帰って行く。
(接客のたびに中断しているんじゃ、できるものもできないよね)
そのとき、いいことを閃いた。私が手伝ってあげればいいのでは?
幼児になったとはいえ、元は薬師として生計を立てていたのだ。
「すみません!」
私は大きな声を上げて、女性を呼びかける。
女性はすぐ声に気付いたようだが、辺りを見回して不思議そうに首を傾げた。私の背が小さく、カウンターに隠れていて見えなかったようだ。
「すいませーん!」
もう一度大きな声上げる。女性は手を止めて、今度はカウンターのほうへと近づいてきた。そして、私を見つけてびっくりした顔をする。
「あら、お嬢ちゃん。気付かなくてごめんね。お薬を買うお使いを頼まれたのかしら?」
「ううん、違うわ。お薬作りが大変そうだから、お手伝いしようかと思ったの!」
私は大きな声でそう伝えた。
「お手伝い?」
思ってみなかった提案に、女性は目を丸くする。
「うん。私、お薬の調合できるわ!」
「お前さんが? 調合を?」
女性はますます目を丸くする。そして、残念そうに首を横に振った。
「ありがとう。気持ちだけでも嬉しいよ。でも、これは私がやらないといけないことなんだよ」
「でも、たくさんあって大変そうだわ」
私が幼児の姿をしているから任せられないと思ったのだろう。私が逆の立場でも、きっとそう思ったと思う。だけど、大変そうにしている女性を見て見ぬ振りするのも気が引けたし、こんな姿になったとはいえ、みんなの役に立ちたい。
「私、調薬は得意だから大丈夫だよ。お姉ちゃんのお手伝いしてきたから」
さらに私が言いかけたそのとき、背後から「あれ? エリーちゃんではないですか? こんなところでどうしたのですか?」と声がした。
振り返ると、制服姿のロベルトさんがいた。町の巡回に行ってきたのか、馬に乗っている。
ロベルトさんはひらりと馬から降りると、こちらに近づいてきた。
「ロベルトさん、この子と知り合いかい?」
困惑気味の女性がロベルトさんに声をかける。
「ええ。以前立ち話でお話しした、団長が引き取っている子供ですよ。聖女候補の妹さん」
「あら、この子が!?」
女性は目をまん丸にして私の顔を見る。
どうやら、私は思った以上に有名人らしい。




