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(3)


 カーン、カーンと鐘が鳴る。お昼ご飯を食べ終えた後のこの鐘は、帰る時間を知らせるものだ。


「よし、忘れ物はないよね」


 念のために机の中を確認して、忘れ物がないかをチェックする。大丈夫なことを確認した私は、帰ろうと教室を後にした。


「おいっ、エリー」


 大聖堂の正面に出たタイミングで、後ろから声をかけられた。振り返ると、クラスメイトのディックが立っていた。ディックはここセローナ地区で一番大きなホテルを営むご家庭の息子さんだ。


「どうしたの、ディック」

「お、お前。今日はどういう予定だ」

「どういうって? いつもと一緒よ。レオのところに行くけど」


 学校が終わった後、私はいつも聖騎士団の事務所に行って時間を潰していた。家でひとりで待てるのだけど、私をひとり残すことをイラリオさんが心配するので、安心させるためにそうしている。


「じゃ、そういうことで。また明日ね!」


 私がひらりと手を振ると、「あ……」とディックが小さく声を上げる。

「何? なんか用だった?」


 何かを言いたげなディックの態度に、私は首を傾げる。じっとその顔を見つめていると、ディックの顔がどんどん赤くなった。


「ディック、なんか赤いけど大丈夫?」

「うるさい! 赤くなんかない!」


 そう叫ぶと、ディックは一目散に走り去ってゆく。


(な、何事……?)


 何もしていないのに怒鳴られてしまった。


(まっ、いっか)


 気を取り直した私は、手に持っていた鞄を背負うとその足で聖騎士団の事務所へと向かう。大聖堂から聖騎士団の事務所まで、私の足でも歩いて五分ちょっとだ。


「相手が鈍いと大変にゃん」


 私の後ろを付いてくるイリスが呟く。


「なーに、イリス。何が鈍いの?」

「何でもないにゃん」

「?」


 イリスはそれっきり喋るのを止めてしまった。一体なんだったの?




「こんにちはー」


 聖騎士団の入り口で、大きな声で挨拶をする。


「お、エリーちゃんこんにちは」


 すっかりと顔見知りになった聖騎士団の皆さんは、私が事務所に行くといつも笑顔で迎えてくれる。たまにお菓子をくれたりもする。

 私は廊下を抜けて、まっすぐに休憩室へと向かった。


「今日は誰もいないし……。やることなくなっちゃったな」


 学校の宿題を終えてノートを閉じる。時計を見ると、まだ昼の二時だった。

 私がいつも午後の時間を過ごす聖騎士団の事務所の休憩室には、大抵誰かしらの団員さんや事務の方がいる。休憩中の人達だ。けれど、今日は誰もいなかった。


「暇だから、ちょっと外を見てこようかな」

「一緒に行くにゃん」

「うん、行こ」


 イラリオさんからは、武器庫や執務室に勝手に入ってはいけないと言われているけれど、そこに近づかなければ平気だよね。


 そっとドアを開けて廊下をてくてくと歩く。すぐに目に入ったのはまっすぐな廊下の先にある食堂だった。六人掛けのテーブルがたくさん並んでおり、体格のよい騎士達が満足できる食事を毎日提供している。

 ちなみに、イラリオさんは私と暮らす前まで、毎日ぶっ込み野菜の塩スープを……ではなく、三食ともここで食べていたらしい。


(今日は本当に人が少ないなぁ)


食堂には誰ひとりおらず、ガランとしている。


 この時間になるといつも人気(ひとけ)はまばらになるけれど、ここまでいないことは珍しい。


(反対側に行ってみようかな)


 食堂を後にして今来た廊下を反対方向へと歩く。すると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。


「けが人が……まだ……」


 断片的に話し声が聞こえてくるけれど、なんと言っているのかよく聞き取れない。


「どっから聞こえてくるんだろ?」

「あっちだにゃん」


 イリスが廊下を曲がったので私は慌ててそれに付いて行く。今度ははっきりと声が聞こえてきた。


「回復薬がもっと必要かもしれない。消毒の薬と痛み止めも」

「今あるのはそれで全部だよ」


 お店のカウンターに立つ中年の女性と、騎士服姿の若い男性が会話しているのが見えた。騎士のほうはイラリオさんと似た服を着ているので、聖騎士団の団員だろう。


(ここは、薬屋さんかな? アルマ薬店?)


 中年女性がいるカウンターの上には木彫りの看板がぶら下がっていた。看板には薬屋を意味する薬草とともに、〝アルマ薬店〟と彫られている。



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