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 その後も私とイラリオさんは買い物をしてクッションなどの小物や日用品を調達し、家に着く頃にはすっかりと夕方になっていた。


「夕食作らないとだな」


 夕焼けに染まる空を見上げイラリオさんが心底面倒くさそうに呟く。

 どうやら、料理はあまりお好きではないようだ。


「夕食、なーに?」

「あー、スープでいいか?」


 そういえば、昨日も乱切りにした野菜と肉を鍋に突っ込んで塩を入れて煮ただけの超お手軽料理だった。もしかしてイラリオさん、あれしか作れない?


「それか、町に戻って外で食べて──」

「はいっ! わたし、作ります」


 イラリオさんが外食を提案しようとしたので、私はすかさずピシッと手を上げる。


「え、エリーが? それは危ないからだめだ。火を使うから、火傷したら大変だ」


 イラリオさんはとんでもないとでも言いたげに片手を振る。


「でも、今までも毎日作っていたもの」

「エリーが? 毎日?」


 イラリオさんは驚いたように目を見開く。そして、はっとしたように口元を手で押さえた。

「そうか、アリシアが仕事で忙しいから……。その間、エリーはひとりぼっちで夕飯を用意して待っていたんだな」


 イラリオさんが聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟くのが聞こえた。


「エリー、大変だったな。でも、ここではそんなことしなくても大丈夫だ」


 イラリオさんが私の頭にポンと手を乗せ、首をふるふると左右に振る。

 うーむ。これは絶対に何か大きな勘違いをされている気がする。


「そうじゃなくて、私はご飯を作るのが好きなの! 色々つくれりゅんだから!」


 私は声高々にそう宣言する。いい場面なのに舌噛んだけど気にしない!

 なんとかして説得しないと、毎日同じメニューを食べ続けることになってしまいそう。

 一方のイラリオさんは、私が気を遣って言っているとでも思っているのか、「しかしだなぁ」と困惑顔だ。私はむむむっと唸る。


「じゃあ、これならどう? レオと一緒に作る」

「俺と一緒に?」

「うん」


 それならば文句も言うまい。

 その予想は見事に当たり、イラリオさんは「それなら、まあ」と同意した。

 今日買った荷物の中にエプロンがあった気がしたので探してみると、案の定見つけた。

 私はそれを手早く着けるとキッチンへと向かう。大きなお屋敷なだけあって、キッチンも立派だ。


「エリー、切るのは俺がやるから包丁は使わなくていい」


 お野菜を切ろうとしたら、イラリオさんに早速止められた。


「大丈夫。本当に、慣れているから!」


 心配そうにこちらを見るイラリオさんを説得して、私はフルーツ用のナイフを握る。普通のナイフは手に対して大きすぎたのだ。


「大丈夫か? 手、切るなよ?」

「大丈夫だよ」


 そんなに心配しなくても平気なのに。

 ひとり暮らしのときいつもやっていた要領で人参の皮をむき始めると、イラリオさんが「おおっ!」と声を上げる。


「エリー、お前すごいな」

「普通です」

「いや、普通じゃない。俺はできない」

 イラリオさんは真顔で言う。


 うん、それは知っているよ。昨日、皮が付いたままだったもん。


 カットした野菜とガーリックを一緒に炒め、ガーリックソースを作る。それを、焼きたての肉にかければ特製のポークソテー、ガーリック風味の出来上がりだ。


「できた!」


 私はそれをお皿に盛り付ける。食べる前からふんわりといい香りが漂ってきて、よだれが出てくる。

 今日買い物ついでに買ったパンと一緒に食卓に並べたら、それなりに豪華に見える夕食が完成した。


「いただきまーす」

「いただきます」


 向かい合って座った私達は食前の挨拶をして、顔の前でパチンと手を合わせる。器用に肉をカットして口に入れたイラリオさんの表情がぱっと変わるのがわかった。


「これは……美味い!」

「本当? やったー!」


 イラリオさんの好反応に嬉しくなった。ひとり暮らしだと、誰も食べてくれないから作りがいがないんだよね。

 イリスはご飯食べないし。そして、ふと気になったことを聞いてみることに。


「レオは、あのスープ以外には何が作れるの?」


 イラリオさんの視線がふいっと横に逸れる。

 これは、どうやら予想は的中。

 イラリオさん、超シンプルぶっ込みスープ以外は作れないようです!

エリーとしての新生活を始めたアリシア。いよいよチートを開花させてゆきます。

3章も引き続きお楽しみください!

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