(5)
暫くふたりで歩くと、イラリオさんは一軒の店の前で足を止める。
「エリー、まずは服を買おう」
「はーい」
慣れた様子で店内に入ってゆくイラリオさんについてゆくと、中から若い女の店員さんが出てきた。
「あら、団長さんが買い物に来てくれるなんて珍しいわ」
「今日はこの子の服を買いに来たんだ。選んでやってくれないか?」
「この子どうしたの?」
女性は目を丸くして、ここに来る途中で会った多くの人達と同じ反応を示す。
「この子はアリエッタだ。色々あって、俺が面倒をみることになったんだ。これまで面倒をみていた親族が最近亡くなって──」
イラリオさんは要点だけを掻い摘まんで、簡潔にこれまでのことの顛末を説明する。女性は神妙な面持ちでそれに聞き入っていた。
「なるほど、そんな辛いことがあったのね。かわいそうに。でも、もう大丈夫よ」
女性は私と目線を合わせるようにしゃがみ込むと、にこりと笑いかけてきた。
(うっ!)
瞳に憐憫の情がありありと見えて、いたたまれない。
アリシアは死んだんじゃないんです。
実は死んだと思われているアリシアが私なんです。
そう説明したい気もするけれど絶対に信じてもらえないし、余計な混乱を招くだけだから我慢する。
「そういうことなら、気分が明るくなるお洋服を選ぼうね。私に任せて」
女性は胸に手を当ててそう言うと、店の奥へと消えてゆく。暫くすると、両腕に抱えきれないほどのお洋服を持って現れた。
リボンが付いたワンピースや、チェックのスカート、フリルのブラウス……。
次々に差し出される可愛いお洋服を順番に着てゆく。
「やっぱり似合っているわ。可愛いー。団長さんもそう思うでしょう?」
「ああ。可愛いな」
服を替える度に、女性とイラリオさんが「可愛い、可愛い」って褒めてくれるからなんか照れる。
「どれも捨てがたいな。よし、全部買おう」
用意された全てを着終えたところで、イラリオさんがお買い上げの声を上げる。
「毎度ありー!」
女性は元気よく返事をした。
「えっ、全部?」
びっくりしてしまった。
これを全部?
途中から数えるの止めちゃったから正確な数はわからないけれど、十着くらいあった気がするよ?
「いいから」
イラリオさんに頭をぐしゃりと撫でられる。
「毎日同じ服を着るわけにもいかないだろう?」
「うん」
おずおずと頷くと、イラリオさんは満足げに笑う。
「せっかくだから、着替えていく? それ、ちょっとサイズが合っていないし」
女性が今買ったばかりのワンピースのうち一着を手にして、イラリオさんに尋ねる。
「そうだな。それがいいかもしれない」
イラリオさんも頷いた。実は、今私が着ている服は私を保護することになったときにイラリオさんが急遽用意してくれた服で、サイズが合っていなかった。
促されるままに早速今日買ったうちの一着に着替えると、女性とイラリオさんが「可愛い」と大袈裟に褒めてくれる。
「えへへっ」
私も一応は乙女の端くれ。可愛い格好をさせてもらって褒められると、なんだかんだ言って嬉しい。
「ありがとうごじゃいます」
「どういたしまして」
肝心なところで舌がもつれてきちんとお礼を言えなかった。それでも、イラリオさんはとても嬉しそうに満面に笑みを浮かべた。
こんなに買ってもらっていいのかとなんだか申し訳ない。
けれど、イラリオさんは「いい買い物をした」と終始ご機嫌だった。聖騎士団の団長の収入がいくらなのかは知らないけれど、きっとたくさんもらっているのだと信じてお言葉に甘えることにする。
大量の荷物は、全部イラリオさんが持ってくれた。