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(3)

 そして翌日 。

 私はイラリオさんの馬に同乗させてもらって一緒に町に買い物に向かった。イラリオさんの家には私の生活用品が殆どないので、必要なものを買いそろえないといけないのだ。


「お仕事は大丈夫なんですか?」


 もしかして私のせいで仕事を休んでいるのでは?と心配になり尋ねると、返事する代わりに頭を撫でられた。


「大丈夫、気にするな。連絡はした」


 後ろを向いて見上げると、にこりと笑いかけられた。

 イラリオさんがセローナ地区の聖騎士団で一番偉いようなので、休む休まないの決裁権限は彼自身にあるようだ。


 イラリオさんの屋敷はセローナの中心地にも近い閑静な住宅地にある。馬で五分もかからずに、辺りは賑やかな町並みが広がり始める。


「わあ、お店がたくさん」


 大通り沿いに立つ建物のひとつから、焼きたてのパンの香りが漂ってくる。籠を持って一軒の店から出てきたのは、切り花を売る少女だ。

 通りの反対側に目を向けると、軒先に大きなハムやベーコンを吊した加工肉のお店が目に入った。その前で、ふくよかな女性と店番の女性が楽しげに会話をしている。


(辺境の地域って聞いていたからもっと田舎なのかと思っていたけれど、意外と中心部は栄えているのね)


 初めて訪れるセローナ地区の景色に、私はきょろきょろと周囲を見回す。


「エリー。あそこが俺の働いている場所──セローナ地区の聖騎士団の本部だ」


 頭上からイラリオさんの声がした。

 イラリオさんは手綱を持つ手の片方を離して前方を指さしている。その指先が示す方向を見ると、三階建ての大きな建造物が見えた。壁は白、屋根は赤茶色で、正面扉から左右対称に建物が広がっていた。


「わー、おおきい……」

「まあな。アメイリの森を管理する位だから、セローナ地区は聖騎士団が大きいんだ」

「ふうん?」


 アメイリの森を管理するのには人手が必要ということだろうか?

 わからないけれど、きっと何か関係があるのだろう。


「よし。馬はここに置いて、歩いて行こう」


 イラリオさんは、聖騎士団の厩舎の前で馬を止めた。

 身軽な動きでまず自分が馬から降りると、今度は私の両脇に手を差し込む。そして、馬に乗るときと同じように、私の体を軽々と持ち上げて地面に下ろしてくれた。


「エリー、行くぞ」


 私が見慣れない景色にきょろきょろとしている間に、イラリオさんは馬を厩舎の中に繋いできていた。


「どこに行くんですか?」

「んー、色々行かないといけない場所があるんだ。あとは、エリーが生活に必要な服や小物を買うのももちろんなんだが、日中どうするかも決めないとだな……」

「日中?」


 私はこてんと首を傾げる。日中は、家で家事をして過ごすつもりだったけど?

 それを聞いたイラリオさんは首を横に振る。


「だめだ。俺が仕事の間、エリーみたいな小さな子供をひとりぼっちで待たせるわけにはいかないだろう?」


 いや、小さくないの。見た目は小さいけど、本当は小さくないの。

 そう言いたい気持ちをぐっと抑える。


 子供になった私を親戚でもないのに引き取ったことから想像はついていたけれど、イラリオさんはかなり責任感の強い人らしい。


 イラリオさんは私の手を握ると、中心地へと向かって歩き出す。倍以上も長さの違う私の足でも普通に歩けるのだから、きっと私に合わせてゆっくりと歩いてくれているのだろう。


「イラリオ!」


 歩き始めてすぐに、イラリオさんが普段着ているのと似た黒い騎士服を着た男の人に声をかけられた。綺麗な金髪は後ろにひとつに結び、こちらを見つめる瞳は周囲の木々の葉のような緑。少しまなじりの下がった、優しげな顔立ちの男性だった。年齢はイラリオさんと同じ位──二十代半ばに見えた。


「どうしたんですか? 今日は休むと聞いていましたが?」

「ああ、ロベルト! 昨日戻ってきたんだ。悪いが今日は休みをもらって、明日は本部に顔を出すよ。馬を停めるために寄っただけだ」


 イラリオさんは立ち止まると、片手を上げて挨拶を返す。ロベルトと呼ばれた男性はにこやかに笑いながらこちらに近づいてきた。



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