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第2章 幼児になるなんて、想定外です!(1)

 あなたが聖女候補ですと言われたときは、人生最大のびっくり事件が起こったと思っていた。それがまさか、わずか一週間でもっと驚くことが起きるなんて誰が予想しただろうか。


「エリー、荷物は全部持った? 重かったら運んでやるぞ」

「あ、レオ。うん、大丈夫。きちんと運びました」

「そうかそうか。エリーはえらいな」


 イラリオさんはにこりと笑うと、私の頭をがしがしと撫でる。そして、荷馬車に乗せられた荷物を一通り確認し、忘れ物がないかをチェックしていた。



 あの日、何が起こったのか?

 イラリオさんや他の人の話を総合して端的に纏めると、私はなぜか幼児化して部屋の中で倒れていたらしい。


 深夜になって爆音が響き渡り、王宮の一角は大騒ぎになった。

 騒ぎに気付いたイラリオさんが私のいた建物に駆けつけると、そこには散乱した実験器具類、瓦礫の山、そして横たわる幼子(私)が。さらに、部屋にいたはずのアリシアは忽然と姿を消していた。


『まだ若くて未来がある子だったのに、俺がこんなところに連れてきたばっかりに……』


 イラリオさんは沈痛な面持ちで、言葉少なに語る。彼の中では、完全に私は死んだことになっているらしい。


『お嬢ちゃん。お嬢ちゃんはアリシアの妹だよな? 名前は?』

『名前? アリ……、アリエッタ!』


 咄嗟にアリシアと答えそうになり、慌てて即席に思いついた〝アリエッタ〟という名前を言い直す。


『アリエッタか。じゃあ、愛称はエリーだな。お父さんとお母さんは?』


 私は首を横に傾げる。両親はずっと前に亡くなっていると思う。


『やっぱり、アリシアが唯一の肉親だったんだよな……』


 小さく呟くと、イラリオさんは言葉を詰まらせる。そして、顔を上げるとその青い瞳でまっすぐに私を見つめた。


『安心しろ、エリーの面倒は俺が責任を持ってみるからな』


 私が意識を失っている間に、少し泣いたのだろうか。イラリオさんの目は充血して少し赤くなっていた。大きな手がぽんぽんと、優しく私の頭を撫でる。


 いやいや、びっくり。本当にびっくり。

 だって、エリクサー作ろうとしていたはずなんです。

 間違えて若返りの薬を作っちゃったのかしら?


 当時私は大パニックを起こしていたけれど、周囲は私が唯一の肉親であるアリシア(本当は私がアリシア本人だけどね)を失い、ショックのあまり混乱していると受け止めたようだ。




「よし、準備は終わったな。エリー、出発するぞ」

「はーい」


 元気よく手を上げると、イラリオさんはやけに嬉しそうだ。そのとき、足下にふわふわで柔らかいものが触れる。


「あ、レオ。この子も連れて行きたいの。大事な家族なんです」


 私は自分の足下にいたイリスを抱き上げる。イリスはイラリオさんの顔を見上げ、「みゃー」と鳴いた。うむ、普通の猫の振りがとっても板に付いている。


「もちろんだ。連れて行こう」


 イラリオさんはイリスを抱いた私の両脇に手を入れると、ひょいと抱き上げて馬車へと乗せる。


「俺は馬で移動するが、すぐ横にいるから何かあったら言うんだぞ」

「はーい」


 しっかりと頷くと、また大きな手でくしゃりと頭を撫でられた。


    ◇ ◇ ◇


 セローナ地区は、王都であるチェキーナの北方に位置する地域だ。

 その領地の最大の特徴は、精霊はもちろん、貴重な聖獣が多く住む神聖な森、正式名称〝アメイリの森〟を領地内に持つことだ。

 イラリオさんはこのセローナ地区で、聖騎士団の団長を務めているという。


 まだ若いのにすごい!


 ちなみに、イラリオさんは御年二十四歳、独身だそうだ。セローナ地区に来る途中、色々な話をしている中で判明した。

 そして、私はアリシア改めアリエッタ=エスコベド。御年は本当は十八歳だけれど、諸事情により六歳ということにしておこう。


「お馬の上からだと、遠くまで見えますね」


 一気に開けた視界に、私は興奮気味に辺りを見回す。馬車から何度も顔を覗かせていたら、見かねたイラリオさんが馬に一緒に乗せてくれたのだ。


「エリー。あんまりはしゃぐなよ。頭から落ちたら大変だ」

「その辺は弁えているから大丈夫です」

「弁えているって……。お前、ちっこいくせに時々大人みたいな表現を使うよな」


 イラリオさんはははっと笑うと、また私の頭を撫でる。


「しっかり掴まっていてな」


 イラリオさんは馬に付けられた紐のひとつを私の手に握らせる。


「はーい」


 私の体を後ろから包み込むように、イラリオさんの腕が回される。彼が手綱をぐいっと引くのと同時に、体がぐらりと揺れた。


「わわっ!」

「ほら、言わんこっちゃない。落ちるなよ」

「落ちないもん!」


 背後から、また愉快そうな笑い声が聞こえた。

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