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   ◆ ◆ ◆ 


 一方その頃──。

 俺──イラリオはアリシアの無罪を証明するために奔走していた。


「アリシアがそんなことするわけがないだろう!」

「しかし、あの場にいた全ての者が目撃しました。アリシアさんが祈りを捧げたときだけ祭壇では何も起こりませんでした。そして、祈りが終わった後に精霊神の言葉を直接聞いたと彼女自身が言ったのです」


 その場に居合わせたという司教が眉尻を下げながら説明する。

 俺はギリッと奥歯を噛みしめる。


 あの日、聖女光臨の儀が終わるのを控えの間で待っていた俺にもたらされたのは、想像もしていなかったような知らせだった。

 セローナ大聖堂が推薦した聖女候補──アリシア=エスコベドは聖女のふりをしてその座を手に入れようとするとんでもない悪女である。そんな驚愕の話を聞かされたときは、度肝を抜かれた。

 さらに、その場にいた国王──カスペル陛下が一週間以内にエリクサーを作れなかったら、死刑にすると言ったとも。


 あの後、何度もカスペル陛下に面会を申し込んだ。そして、ようやく面会が叶ったのはつい昨日のことだ。


『何かの間違いです。彼女にはそんなことをする理由がありません』

『大方、聖女となったら得られる富と権力、人々からの崇拝がほしかったのだろう』


 俺の訴えをつまらなそうに聞いていたカスペル陛下は、半ば決めつけるようにそう吐き捨てる。


 確かに、聖女となった女性には多くの特権が与えられる。一生遊んでゆけるような手厚い報酬も与えられる。それに、望めば側室や妃として王室に入ることも可能だ。


(だがしかし、アリシアがそれを望んだだと?)


 少し前にいつ帰れるかと心配していたアリシアを知っているだけに、そんなことは考えづらかった。


『あり得ません』


 俺はカスペル陛下の言葉を否定する。それを聞いたカスペル陛下は鼻白んだような顔をした。そして、何かに気付いたように意味ありげにこちらを見つめた。


『いや、もしかすると彼女はただ協力を仰がれただけという可能性もあるな』

『協力?』

『ああ。聖女を見つけ出した者には大きな名誉と莫大な褒賞が贈られるのが通例だ。もしもお前が見つけ出せば、王位継承権を復活するように周囲の貴族達からの期待が集まるかもしれない』


 その意味を理解したとき、底知れぬ怒りが湧くのを感じた。つまり、俺に頼まれて彼女が聖女の神託を得た振りをしたと言っているのだ。


『ばかな! 王位継承権など、俺は四年前に放棄した。陛下が一番よくご存知でしょう!』


 俺は現国王カスペル陛下の腹違いの弟だ。王妃の子であるカスペル陛下に対し、俺は側妃の子だった。


 例え側妃の子であろうとも、国王の子供であることは変わりない。四年前まで、俺にも王位継承権があった。それを放棄したのは、当時まだ王太子だった他でもないカスペル陛下からの要請だった。

 さらに、セローナという僻地の聖騎士団に行かされるという半ば島流しのような命令を受けたときも、それでカスペルの気が済むのであればと思い、甘んじて受け入れた。

 それなのに、なんたる言い草だと怒りが湧くのを感じた。


『人の心は移ろうものだ』


 カスペル陛下は哀れむような目を俺に向け、踵を返す。床にブーツの踵がぶつかるカツカツという音が遠ざかってゆくのが聞こえた。


 ひとり立ち尽くし、拳を握りしめる。


(アリシアが、名誉や権力を欲して虚偽のことを言っただと?)


 あり得ない。俺はカスペル陛下の言葉を否定する。

 いつまでも見つからない聖女候補。そんな中でようやく見つけたアリシアは、まごうことなき聖女候補だ。俺自身が反応を示す聖石を見たのだから、間違いない。

 それに、ほんの僅かな期間とはいえアリシアと交流し、彼女がそんなことをする人間にはどうしても思えなかった。


 ──聖女を見つけ出した者には、大きな名誉が与えられる。


 カスペル陛下が周りの予想以上に強硬な姿勢を見せたのは、むしろこちらが原因な気がした。自分が排除した元王族にいい意味での注目が集まるのを嫌ったのだろう。


(仕方がない。こうなったら、ヴィラム殿下に協力を仰ごう)


 現王太子であるヴィラム殿下は、俺から見ると甥にあたる。二十四歳の俺に対し、ヴィラム殿下は二十歳。歳が近いこともあり、昔から仲がよかった。俺がセローナに旅立つ際にも『父上が済まなかった』と謝罪したのはヴィラム殿下だ。


 早速ヴィラム殿下の元へ向かおうと歩き始めたそのとき、遠くから大きな爆発音がした。──ドーン!という音と共に、地響きがする。


「なんだ?」


 爆薬庫で事故でもあったのかと思ったが、噴煙が上がっている方向がどうも違う。すぐに王宮の二階へと駆け上がり、その煙の方角を見る。緑の木々に囲まれた場所にある建物を確認し、肝が冷えた。


「アリシア!」


 俺は咄嗟に走り出す。爆発が起きたのはアリシアが幽閉されている離れの建物だった。罪を犯した疑いのある高貴な身分の者が一時的に入れられる建物で、他の建物とは隔離された場所にある。


(これはひどいな……)


 中で爆発があったのか、建物の一部が大きく損壊していた。アリシアがいた部屋だ。


「アリシア! どこだ!」



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