1話 覚醒、異世界。
目覚めるとそこは森の中。
あたりは暗い。
樹海にでも捨てられたのか?
頭が痛む、頭から流れる血についた枯葉を払い体を起こす。
体を起こして気づく、包丁を突き立てられた足に痛みがない。
否、痛みだけでなく傷そのものが存在しない。
「何がどうなってる」
「起きた」
声のした方を見てみるとそこには洋装の白髪の少女が立って俺を見下ろしていた。
「お嬢ちゃん、おじさんと良いことしない?」
「うぇ!?あ、よく分からないけどまずは自分の心配したほうがいいかも…」
いけないいけない、これじゃあまるで出会い頭に10代の少女を誘拐しようとしている変態と勘違いされかねん。
「えーと…誤解してほしくないん…」
立ち上がり、名誉の回復を試みたところ彼女と自分の身長差に気付いた。
昔から身長が低いことの自覚はあったがおよそ10代の少女の肩に届くか届かないかの目線の高さに違和感を覚える。
「とりあえず頭の傷すすぎにいこうか」
「う、うん」
ついて歩いた今になって気付いたがこの状況はまずいような…
森の中で気を失っていた理由、この少女の正体。
分からないことが多いこの状態で正体不明の少女について行って良いのか?
そんな疑問に足が止まりそうになったその時、目の前で幻想的な湖の風景が広がった。
「綺麗…」
「でしょう?」
無意識に声が出ていたことに気づく。
「こっちに来て」
言われるがまま手を引かれ、湖の畔で少女が手拭いを濡らしているところを後ろから見る。
「はい」
渡された手拭いで患部を拭う
冷静になれ。
今、見知らぬ場所で見知らぬ人物に面倒を見られている。
相手に敵意は感じない。
何が何だか分からない…
くそっ!一度頭を冷やそう。
そう考えて水面に向かうと、そこに映るのは俺が数十年間付き合ってきた出来の悪い顔でなく容貌の幼い少年の顔をしていた…
一通り騒いだあと介抱してくれた少女に話を聞いた。
彼女はシーラと名乗った。
この森を北に抜けた館に住んでいるらしい。
普段夜に散歩することが日課な彼女は俺が頭から血を流して倒れているところを見つけたらしい。
果たしてこれは異世界転生なのか、記憶喪失の少年が俺の現実世界を何かの間違いで夢に見ていただけなのか。
正直、頭の混乱は話を聞く前よりも激しくなっている。
だがそれを凌駕する興奮が胸のうちにある。
これが記憶喪失にせよ、異世界転生にせよ、今のこの状況はもう一度やり直せるチャンスではないのか?
今ならやり直せる、面倒なこともこなしてやる。
多少難ありな状況でも乗り越える。
煩わしい人間関係からだって目を背けない。
俺はこの異世界にそう誓った。




